【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】絹鳴り、紫の里
あけましおめでとうございます。
昨年末に、福岡県筑紫野市にある博多織献上館というところを訪れました。
博多織の帯や着尺が展示販売されている施設で、隣の工房では職人さんが実際に織っていらっしゃいます。博多織は、鎌倉時代に中国に渡ったお坊さんの一行に加わった人が持ち帰った織物技法が元となり、後に慶長五年、筑前を領有するようになった黒田長政により幕府へ博多帯を献上したことにより、博多の地名と博多帯が日本中に知られるようになったそうです。
博多織帯職人さんには、「職人は鳴かせて一人前」という言葉があるそうです。織る工程は、予め何千本もの縦糸の配列を決めておき、その縦糸が柄を織り、そこに太い緯糸をしっかり打ち込む方法だそうです。縦糸に緯糸を打ち込む力強さと深い経験が職人さんに求められ、一人前と呼ばれる職人さんの帯からは、締める時にキュキュッと絹ズレの鳴き音(ね)がたつそうです。絹と絹が擦れ合って「絹鳴り」のする、それでいて絞め易い帯を織ってこそ一人前というところから、「鳴かせて一人前」といわれているそうです。
実際に博多帯を締めてみました。キュキュッと冴え渡った、絹が生きているような鳴き声をたてます。そして一度絞めると、ものの見事にくずれないのです。
「絹擦れ」という言葉が文章で使われるとき、帯をほどく男性目線のエロティシズムに使われることが多い印象を抱いていましたが、この博多織職人のこだわる「絹鳴り」という言葉からは、職人さんの真剣さと使う人への思いやりと男らしさを感じます。男心の二面性を絹は教えてくれるのでしょうか? 絹鳴りとともに絞めると職人さんの魂が伝わり、凛とした気持ちになりました。
博多の市内で博多帯の専門店を捜したところ、みつからず、これほど素晴らしい歴史があるというのに、着物文化は既に衰退してしまったのかと、哀しくなりました。<鳩子>
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