2000年6月30日、横浜で試合がある日、リングサイドで長州力と佐々木健介と越中詩郎がトレーニングをしていた。

 

7月30日に横浜アリーナで長州力VS大仁田厚のシングルマッチが決定していたが、大仁田はまだ、電流爆破マッチをやるという確かな答えを新日本プロレスからもらっていなかった。

 

大仁田としては、長州と普通のルールで試合をする気はないし、長州が勝つに決まっている試合では興行的にもマイナスだ。

 

電流爆破マッチという大仁田の土俵なら、まだどうなるかわからないと興行的にもプラスといえる。

 

革ジャンを着た大仁田が、報道陣を引き連れて、長州がいるリングへ向かう。

 

気づいた長州は早くも臨戦態勢になり、怖い目で大仁田を見すえる。

 

長州が「心配しなくていいぞ、30日には行ってやるから」と言うと、大仁田は「そんなこと心配しとらんですよ」と静かに言う。

 

「もうあとには引けないぞ」という長州の言葉に、大仁田は声を荒げた。「そんなこと心配しとらんですよ!」

 

また静かに「そんなこと心配しとらんですよ」

 

大仁田がフェンスに近づくと、長州から思いがけない言葉が発せられる。

 

「入るなこら、入るな、入るな、入るなよ、またぐなよ、またぐなよこらあ、またぐな、またぐなよ」

 

長州の目が怖過ぎる。

 

「またぐな、またぐなよ」

 

「オイ、長州さんよ」と大仁田が話しかけると、長州は「まださん付けで呼んでくれるのか?」

 

「オー」と言う大仁田に長州が「ああ!?」

 

信じ難い緊迫した空気が流れている。

 

「礼儀ってあるだろ」大仁田が言う。「俺は礼儀を守りたいんじゃ」

 

嘆願書を長州に渡そうと、大仁田がフェンスに近づき「あんた、これ読んで返事してくれ・・・」と言いかけると、再び長州が繰り返す。

 

「またぐなよこらあ! またぐな、またぐなよ。ケロ、もらっとけ。またぐなよ」と長州が線を指差す。「またぐな。詩郎、またがせるな」

 

越中が怖い顔で怒鳴る。「帰れオラ! 何しに来たんだオラ!」

 

「何しに?」大仁田が睨むと越中がまた「帰れオラ!」

 

大仁田は「渡しに来ただけじゃ!」と封筒を放り投げる。

 

すると今度は健介が怒鳴る。「オイこらあ! 練習の邪魔だコラ! 出て行けコラ! おめえの来るところじゃねんだコラ! 邪魔だ練習の!」

 

長州はすでに背を向けてスクワットを始めている。

 

大仁田は報道陣を引き連れて出口へ向かう。

 

「オイ、オイ、オイ、オイ! 意志は伝えた! オイ、俺は電流爆破が通らない限り、オイ、あのアントニオ猪木さんが言った通り、あのアントニオ猪木さんが言った通り!」

 

大仁田はドアを開けるが振り向く。「オイ、あのアントニオ猪木さんが言った通り、オイ、中止か続行か、長州力に、任せた!」

 

 

後に大仁田の嘆願書が公表された。

 

「私は七月三十日決戦に於て、電流爆破での試合を断固要望する。これは私の生きかたで貴殿が邪道をこの世界から抹消させる唯一の手段だと思います。私の主義主張が貴殿に伝わることを信じております 邪道大仁田厚 長州力 新日本プロレス殿」

 

内心では大仁田の執念を認めていた長州が、電流爆破デスマッチを受けて立った。