アントニオ猪木の異種格闘技戦の中でも、最も緊迫感があった試合が、ウィリー・ウイリアムスとの決闘だ。
試合というよりは果し合いのような緊張感があり、両セコンドの殺気が尋常ではなかった。
熊殺しの異名を持つウィリー・ウイリアムスと極真カラテは1980年当時も有名で、極真カラテこそ地上最強の格闘技と豪語していた。
新日本プロレスもアントニオ猪木が「プロレスこそ最強の格闘技」と宣言していた。
プロレス対空手。どちらが本当の最強か。ファンの間でも熱い議論となっていた。
私は当時中学生だったが、教室で「猪木がウィリーに勝てるわけないじゃん」「バカ、猪木が勝つに決まってんじゃん」と口論になるほど皆で熱く予想を語っていた。
ある意味良き時代だ。今、プロレスの試合でどんな夢のカードが組まれても、教室で中学生が試合結果を予想し合うことはないと思う。
1980年2月27日、蔵前国技館で行われた異種格闘技戦。アントニオ猪木VSウィリー・ウイリアムス。
寝技は5秒までというレスラーには不利なルールだが、ウィリー・ウイリアムスも素手では凶器そのものなので、グローブをはめる。
試合前から会場には異様な空気が流れ、新日本プロレスと極真カラテの両セコンドは殺気立っていた。
若き長州力と藤波辰巳の姿も見える。
立会人は「空手バカ一代」の原作者である梶原一騎が務める。レフェリーはユセフ・トルコだ。
1Rのゴングが鳴った。嵐のような猪木コール。左ジャブを見せるウイリー。猪木はいきなりロープに飛んでフェイントか。
猪木が飛んで前蹴りを放つが不発。ウイリーの回し蹴りも空を切る。サイドキックも猪木が交わす。
組みつく猪木。しかしロープブレイク。
互いにローキックを見せる。ウイリーがパンチを連打。猪木は「来い来い」とアピール。
1R終了のゴングが鳴っても攻めようとするウイリーを見て新日本プロレスのセコンドが大勢リングに上がる。
2R、ウイリーのハイキックが空を切る。しかし、猪木をコーナーに追い込んだウイリーがフロントキック。ワンツーパンチ。
猪木は組みに行くがウイリーがパンチ連打から膝蹴り。離れない猪木にウィリーがエルボー!
得意のヘッドバットを炸裂させる猪木だが、ウィリーもすぐに頭突きを返す。
猪木は浴びせ蹴り。これは交わされたが、猪木が脚を取る。ロープ。そのまま両者もつれてリング下。
場外でウィリーが猪木の上に乗り、顔面パンチ連打。これは危険だ。ここで両者リングアウトのゴングが鳴った。
このままでは収まらない。放送席も観客も両セコンド陣も納得がいかない。
立会人の梶原一騎が延長戦を宣言して大歓声が起こる。
猪木は流血している。
3R、ウィリーがパンチの連打で猛攻。猪木は場外にエスケープ。
リングに戻った猪木がウィリーを倒して脚を取る。しかしロープブレイク。再び両者場外転落。
大乱闘になった。セコンド陣も加わっているように見える。ウィリーが先にリングに上がる。猪木も上がった。
ウィリーがハイキック、膝蹴り、エルボーを繰り出すが決定打はない。
猪木がウイリーを腰投げ! 大歓声。腕を取って腕ひしぎ十字固めを狙うがウイリーのキックが猪木の頭部に炸裂!
それでも関節技を決めようとする猪木。ウィリーが場外へ。
ウィリーがリングに戻る。猪木がローキック。ウィリーはミドルキック。猪木も顔面にエルボーを炸裂させる。3R終了のゴング。
4R、ウィリーがパンチ連打。猪木が組みつくが突き放す。何とウィリーがドロップキック気味の飛び蹴り。猪木もすかさずドロップキック。両者当たらない。
猪木が組みつく。猪木とウィリーがトップロープを超えて場外に転落。両セコンドが接近する。
場外で猪木の腕ひしぎ十字固めが決まっている。ウィリーがキックを連打するが猪木は攻め続ける。再び両者リングアウトのゴングが鳴った。
ウィリーは右肘を負傷。猪木も肋骨にヒビが入っている疑いがある。ついに両者ドクターストップで引き分けとなった。
4R1分24秒。壮絶な決闘は幕を閉じた。収まらない両陣営。場内騒然。猪木の苦悶の表情。ウィリーも顔をしかめている。
両雄のダメージは大きかった。
試合結果について、私の教室では「ウィリーのキックはスローモーションで本気で蹴っていなかった」「猪木の肋骨はセコンドにやられたんだ」「違うよ、ウィリーの膝蹴りだよ」と、やはり口論になるほど熱く語り合った。
昭和プロレスはやはりメジャーの格闘技だったのだ。
あの緊迫感。殺気が懐かしい。
令和プロレスにはないものだがら、殺気を持ち込むレスラーがいたら、脚光を浴びるかもしれない。
もちろん実力という裏打ちされたものがないとメッキは簡単に剥げるので、実力をつけるのが先か。
猪木VSウィリー戦について、あれこれ裏事情を語る人がいることは知っている。しかし、あまりロマンのない話は面白くない。
私はブルーザー・ブロディが語っていた言葉を守る。「プロレスが八百長かと聞かれたら、八百長ではないと答えるのが正しい」
そして、活字プロレスの怪人・ターザン山本さんが語っていたプロレスマスコミの極意。「プールのように透明でわかりやすいものを、底無し沼のように書くんだ」
これで行こうと思っている。