【読む心のフィニッシングスクール】
それから１年後、早映子は結婚していた。
「結婚、てこんなに簡単にできるもんだったんだ・・・」
早映子は、この現実に驚いていた。
「何がなんだかわからないけど、早かったな～この1年。」
早映子は、1年前を振り返った。
あの電話を最後に、彼からパッタリ連絡がなくなった。
早映子はせいせいして、さらに自分の気持ちファーストの生き方で毎日を過ごしていた。
目の前を覆っていたもやがなくなり、視界がクリアーになったように、現実は何も変わっていなかったが毎日を穏やかに過ごせた。
顔のシミや皺、二の腕のたるみや下腹が少しポッコリしていても、以前ほど落ち込まず
「まっ、いいか～、これもわたしの一部だわ。」
と、受け入れられようになった。
そうやって今の自分を受け入れつつ、「もっと自分のことをすきになろう！」と決めた。
そのために、近所に新しくできたスポーツジムのプライベートレッスンを受けに行った。
レッスンをスタートしたころは、これまで動かしていなかった筋肉を動かしたため、身体が悲鳴を上げた。
翌日の筋肉痛も半端なく、痛かった。
けれど、回数を重ねていく内に、だんだん楽しくなってきた。
体重もゆるやかに2キロ落ち、ウエストもワンサイズ細くなり、身体が引き締まっていくのを感じた。
そうすると、お洒落をしたくなるのが女だ。
早映子はネットで見つけたイメージ・コンサルタントを受け、自分の体型や似合うカラーやスタイルを知った。
オプションでファッション同行もお願いし、自分では絶対選ばなかったであろう赤いタイトなワンピースや皮のジャケットを買った。
肩まであった髪もアドバイスされた通り、「過去も断ち切ってやる！」と思い切ってショートカットにした。
首元がすうすうしたけど、シャンプーもドライヤーも楽になったし、鏡で自分の顔を見るのが楽しくなった。
もちろん、お金はかかった。
でも、それは自分で自分を幸せにする必要経費だ、と早映子は決めていた。
次の週末、ショートカットで赤いタイトワンピースに黒の革ジャンを羽織って、由希子とランチをした。
由希子は、元カレと新しい仕事をスタートしていた。
彼女は、早映子のイメージチェンジに驚きながらも
「めっちゃ、似合ってるしすてき！
以前の変に若作りしている感じより、断然いい！
いい女！て感じよ！」
と、大絶賛してくれた。
二人は美味しいと評判のイタリアンで、グラスシャンパンで乾杯をした。
「それにしても、よく思い切ったね～」
「だって、由希子が言ったじゃない？
自分が選んだことは、すべて自己責任、て。
わたし、ようやくわかったの。
だから、25年つきあったあの人と別れることを決めたのも自己責任。
そして、自分で自分を幸せにする自己責任を負うことにしたの。」
「えっ、何？わたし、そんな事を早映子に言ったっけ？」
パスタを食べる手を止め、キョトンとして由希子は言った。
「言ったよ～！
今さら被害者ぶるな！女を下げるな！と怒鳴られたもん。」
「うはっ、わたしってばそんな事を言ってたんだ。
それさ、早映子に言うふりして自分にも言ってたんだね、きっと。」
「えっ、そうなの？！」
「多分その時、仕事がうまくいってなくて彼との関係も、も一つだったから、イライラしてて早映子に当たってたんだね。
ごめんね。」
そう言って、由希子は頭を下げた。
「ううん、そんなことまったくないよ。
あの時、由希子にビシッ！と怒鳴ってもらわなかったなら、わたしはずっと自分は被害者だ、と思い込んで生きていくところだった。
あの「喝！」で目が覚めて、今のわたしがいるわけよ。
本当に、ありがとう。」
早映子もそう言って、頭を下げた。
二人は顔を見合わせ、笑った。
明るい日差しがふんだんに入ってくるイタリアンレストランで、早映子は幸せだった。
レストランを出て歩いていたら、チャペルで結婚式が行われていた。
式が終わり、家族や友人たちに囲まれ、フラワーシャワーを浴びている幸せそうな二人を見て、思わず早映子も「おめでとう！」と口に出した。
これまでだったら、そんな光景に出くわすと「何よ、この人達ばっかり幸せになって！」とひがんでいたが、今はそんな気持ちにまったくならず、ただただ「よかったね～、おめでとう！」と心から素直に思えた。
わたし、今、幸せなんだな。
だから、こんな幸せな場面に出逢えるんだ。
今までもそうだったのに、わたしがその幸せをスルーして、勝手に拗ねてひがんでいただけだったのね。
現実は、すべて自分の気持ちが映し出される、てこういうことだったんだ。
早映子はしみじみそう感じた。
自分は幸せなんだ、そう感じた早映子はさらに幸せな気持ちになった。
「一人でもいいわ。一人でも、幸せ。」
本当にそう思っていた。
だけど、幸せは幸せを呼ぶ。
そうやって、早映子はダーリンに出逢った。
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