リーディング小説~レディー・バード①~ | 立ち止まったハートが前進する!未来が視える奇跡リーディング

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早映子は、苛立っていた。

 

さっき彼と別れたばかりだ。

去って行く彼の後姿を見たら、蹴りつけてやりたくなる。

そんな衝動に駆られながら、遠ざかっていく彼の後頭部を見たら、出会った時に比べずいぶん薄くなっているのに気づいた。

「ああ、この人も年を取ったんだな・・・」

そう思うと一緒に重ねてきた年月を思って、ぞくっ、と震えた。

 

どうせ、わたしは家に帰っても一人だもんね!

さっきまで彼に言い放った怒りの言葉は、そのまま踵を返して自分に戻ってきた。

「はぁ~~~~~」

これまで何百回、いや何千回と出したため息を、今日もまた出してしまった。

 

「ため息をつくたびに、幸せが逃げていくわよ。」

そう忠告してくれる友人もいた。

それを聞くたびに、いや~な気持ちになったが、したくてしているわけではない。

 

「わたしだって、できることならため息をつきたくないわよ・・・」

そう思うが、ため息の原因を突っ込まれたら、明らかに自分の方が分が悪い。

それが分かっているから、そこは突き詰めて考えないようにしている。

 

その代わり・・・

「だけど最近は、ため息をつくと身体にいい、て言われているもんね」

とネットで目にした情報を思い出し、いい方を取ることにする。

それが「逃げ」であることも、薄々わかっている。

逃げずに、心の奥深くに閉じ込めた思いと向き合わないといけないことも、知っている。

けれど、ずっと逃げ続けて来た。

その思いを開いたら、もう彼と一緒にいられないことを知っていたから。

 

それは、パンドラの箱だ。

災厄をもたらすパンドラの箱だ。

だから、絶対開いてはいけない・・・

そう思い込み、気づけば25年もダラダラと彼との関係を続けてきた。

 

出会った当初は、頼りがいのある優しい上司だった。

新入社員の早映子から見たら、家庭も大切にし仕事もでき、部下に慕われる憧れの上司だった。

彼が立ち上げたプロジェクトに指名され、一緒に仕事をするようになり距離がどんどん狭まった。

ちょうどその頃、大学時代から付き合っていた彼と別れたばかりだった。

原因は彼の浮気だ。

元気がない彼女を見かね、上司は食事に連れて行ってくれ、そこで彼女は元彼の浮気を責めながら泣いた。

彼が自分よりも10歳も年上の女に走ったことを知り、女としてのプライドはズタズタだった。

 

そんな時

「君がすきだから、このプロジェクトに指名したんだ。」

という上司の言葉に心が高鳴り、その後に行ったほの暗いバーで抱き寄せられたら、そりゃ心が震えるだろう。

女として自信を失い砕けたハートを拾い集め、継ぎ合わせてくれたのが上司である彼だった。

 

よくある不倫の話・・・

早映子も、最初はそう思っていた。

すぐ次の恋が始まれば、不倫から足を洗える、と軽く考え、この恋に身を投げた。

それはあまりにも、甘美な時間だった。

ちょうどバブルの時代。

その年代の女子が体験できないことを彼はいくつも早映子に与えた。

豪華なホテルに泊まって、シャンパンをあけること。

海外出張の彼について行き、飛行機のビジネスクラスに乗って二人で手をつなぐこと。

欲しかったブランドのバッグや時計をプレゼントされ、家族にはボーナスがたくさん出たから買った、と後ろめたいけど誇らしい気持ちで身に着けたこと。

 

そして当然、女性慣れしている彼とのsexにも溺れた。

彼とのsexに比べたら、大学時代の彼とのsexはママゴトのようなものだった。

彼とのsexは媚薬のように、早映子の足をいとも簡単に開かせた。

どこをどう押せば、ふんだんに蜜が流れ出すかを探し出し、絶妙なタイミングでそこに触れ指を入れてきた。

この体験で早映子は、初めて「イク」という体験をした。

身体中が弓なりに沿って、ビクビク震えながらある一点を目指して駆け上がる。

喉が渇いて、水が欲しくなる。

でも本当に欲しいのは、彼だった。

「早く、はやく、ちょうだい・・・」

彼の愛撫にじらされ、途切れとぎれの息でそう自分が口に出す。

彼との関係が始まった頃は、そんな言葉は恥ずかしくて言えなかった。

けれどその言葉が男としての征服欲を満たし、彼が固く激しく自分の中に入ってくるのを早映子は知った。

そうなる方が、自分とつながっている時間が長い。

一体感をより長く味わえる。

 

この時間だけは彼はわたしだけのもの。

妻とは長くsexレスなんだ、と彼は言っていた。

今度はその言葉が、早映子に彼の妻に対して優越感をもたらした。

「ほら、わたしの方があなたより彼に何倍も快感を与えられるのよ。

わたしの身体の方が、彼との相性がいいのよ。」

嫌な女だ、と思いながらも湧き出るドロッドロの感情が、どこか気持ちよかった。

そんなsexに溺れた。

 

けれど付き合っていた25年の間、彼の妻は子どもを二人も産んだ。

その子たちも、もう社会人だ。

そして早映子も、もう47歳になっていた。

 

「こんなはずじゃあ、なかったんだけど・・・」

鏡を見ながら、しみじみ思った。

ヘアカラーをしているとは言え、髪に白髪も出てきた。

目の横や頬に細かいシミがいくつもある。

法令線も目立つし、皺もあまり直視したくない。

 

いくらシミが薄くなる、という高い美容液をつけてもシミは消えることはない。

コンシーラーを塗り重ね、ファンデーションをつけなるべくなかったことにさせるのが精いっぱい。

若い時は、バストもヒップもハリがあって上向きだったのに47歳の今は下がっていく一方。

肌も火傷や擦り傷の跡がなかなか治らないことで、ターンオーバーの周期がどんどん長くなっていることを思い知らされる。

「これが、年を取るってことよね・・・」

早映子はまた、ため息をついた。

 

これまで彼と別れ、何度か他の男とも恋愛してみた。

けれどあまり長続きせず、結局自分から彼に連絡を取り、よりを戻す、というやり方でダラダラ25年続いてきた。

中には「結婚しよう!」という男もいた。

けれどその彼と結婚して一緒に生活している姿は、まったく思い浮かばなかった。

 

両親にも「何歳になったら結婚するんだ!老後はどうするんだ!」と言われるのがしんどくて、35歳で思い切ってローンを組み、小さなマンションの1室を買った。

この頃、彼は他の支店に代わり以前のように頻繁に会えなかった。

そして景気も悪くなりホテル代も出し惜しんだ彼に、早映子のマンションはちょうど都合がよかった。

その頃から「なんだか、うまく利用されている気がする・・・」と思いながら、本当は自分も彼を利用していることに早映子は気づいていた。

 

新しい恋人とうまくいかなくても、戻る場所がある、とどこかでわかっていたから、相手の嫌な面を見たら、すぐに関係を切った。

生理前やイライラして身体がうずく時は、すぐに彼を呼べば鎮めてもらえた。

お互いがお互いに都合よかった。

それを認めたくなかっただけだ。

 

もう47歳

まだ47歳

アラフィフと呼ばれる年齢になって周りを見渡すと、ほとんどの友人は結婚し、子どももいる。

孫がいる友人もいる。

仕事を持って独身で働いているキャリアウーマン、と言えば聞こえはいいけど、給料もアップせず、毎月のローンの支払いが精いっぱい。

昔彼に買ってもらったブランド物は今は使う気にならず、生活費の足しに、とリサイクルショップに売ると、悲しいほどの値段で払い下げられた。

「はぁ~何かいいこと、ないのかしら?」

そう思いながらネットサーフィンをしていた早映子は、ある一つの記事で手が止まった。

 

 

美開女伝説3.光も闇も傷も、わたしを美しく輝かせる!・・・リーディング時代小説「寧々ね」全話

 

「なに、これ?」

 

 

「びひらきおんな?リーディング小説??何なの?」

 

早映子はクリックして開いた。

 

だけど彼女が開いたのは、その記事だけではなかった。

彼女が本当に開きたかったのは、自分の本音だった。

 

そのきっかけを早映子の潜在意識が探しだし、彼女に命じた。

 

「さぁ、開こう!

そこにある自分の気持ち、よく見るのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

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