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目の前に広がるのは、白・・・・・・


白い海の中、一人もがいていると、微かに浮かび上がる影


それは・・・・・・・・・誰??




もう一度君に恋をする  第九話



<クオンside>



日本に来て、映画の撮影が始まった。


元々・・・・映画を撮るようになったのは

なくした記憶を取り戻すためではなく、ただ、

一緒に生活してくれる、父さんだというクー・ヒズリ氏の仕事を

見ているうちに、なんとなく興味を持ったからだ。


あのカメラ越しで見る景色は、どんな感じなのだろう??


最初の興味は、そんなものだった。


それが、いつの間にか、こんなことにまでなってしまった。


今でも、戸惑うことはある。


でも・・・・・自分で考えたとおりの映像が出来上がってくる喜びはひとしおで

とても・・・・・すばらしいことだとは思う。


ただ、今回の映画は・・・・・・

なかなか思うように進まなかった。


最初は、偶然クーが観ていた映画を一緒に観ていて、初めて

この人を撮ってみたい、と思ったから。


それが、今回の主役である、京子だった。


何故撮りたいと思ったのか・・・・・・それはわからないのだが

微かに残っている、記憶のかけらにある、いつも出てくる

影の人が・・・・・・・・・なんとなく彼女のように思えたから・・・・・・


そのことは、まだ誰にも秘密にしている。


彼女を主役で映画を撮りたい、とオファーをしたところ

所属事務所の社長は、すぐにOKをしてくれた。


ひとつだけ、条件をつけて――――――――


それが・・・・・・この脚本。

これは、向こうから指示されたもの。


一度読んでみて、とてもいい話だとは思ったのだが・・・・・

何かが心に引っかかっていた。

その何かが・・・・・・俺にはわからずに・・・・・・・・



俺を映画監督にさせた、助手のジョーと共に

他の配役を考えているうちに、どうしても悩んでしまったのが

彼女の相手役、だった。


この相手役は、かなり重要で、日本人の俳優のDVDを何度も観るが

それらしい演技をする役者が見当たらなかった。


ただ一人・・・・・・・・・・居なくなってしまった俳優を除いて。


それは、”敦賀蓮”

・・・・・・・昔の、自分だった・・・・・・・・・・


何度、思い出そうとしても、思い出せない。


俺がある記憶は・・・・・・・白い、記憶だけ・・・・・・・・・・・




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長い、長い眠りから覚め、気づくと、そこは白い世界。


明るい照明、白い天井、そして白い部屋の中で、白いベットに横たわっていた。



目の前には、心配そうに覗き込む数人の人の顔があったのだが

誰が誰なのか、さっぱりわからない。


どうして、心配そうにしているのかも・・・・・・



「蓮っ!!!!目が覚めたのか???

心配したんだぞ??もう3日も寝たきりだったから・・・・・」



眼鏡をかけた男の人が、少し涙を浮かべながら話していたのだが・・・・・


・・・・・・何のことだ??

さっぱりわからない俺は、彼に声をかけようとした。



「・・・・・ぁ・・・・・ぁ・・・・ぁ・・」



・・・・・・声が出ない。

すると・・・・・・



「・・・・・しばらく寝たきりでしたし、高熱でしたから

すぐには声が出ないかも知れませんね。」



眼鏡の彼の隣に居た、白衣の男性が、こう答えた。



「・・・・・声が出ないのなら、そのまま軽く頷いてくれればいいですから・・・・・

私の声は、聞こえますか??」



コクン・・・



「じゃあ、体の具合はどうですか?大丈夫ですか??」



コクン・・・



「ここはどこだかわかりますか??」



・・・・・・・



「・・・・・ここは、病院ですよ??高熱で倒れて、

こちらに搬送されて来たんですよ??

もう3日ほど寝たままでしたが・・・・・

記憶が混濁しているようですね。

ご自分のことは、わかりますか?敦賀さん。」



・・・・・・・・・・



「えっ????」



俺が何もしないのを見て、思わず眼鏡の人が声をあげた。



「・・・・・一時的なものかも知れませんので、しばらく様子を見てみましょう。」



その眼鏡の人にそっと話しかけていたようだが・・・・・

俺は、そのまま自分のことを思い出すことは、なかった。




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俺の記憶の始まりは、ここから。


しばらくして、声を出したり体を動かしたりすることはできるようになったが

記憶だけは、戻らなかった。


毎日眼鏡の人は俺に会いに来てくれたが、正直、何を話せばいいのかわからなかった。

そしてもう一人・・・・・

派手な服を着た、ひげのおじさんも来てくれていたが・・・・・

いちいち気に障るようなことしか言われなかったような気がする・・・・・


病院から退院できそうになった頃、金髪をした人たちが俺を迎えに来た。

何でも・・・・・・両親だという。


俺は見た目黒髪で黒目だし、日本語だってちゃんと話していたから

てっきり日本人だと思っていたら、どうやら違うらしい。


両親だという、クー・ヒズリとジュリエア・ヒズリの話を聞いて

俺は二人と共に、アメリカへ帰っていった。


二人も、俺も、俺の記憶を取り戻そうとは、しなかった。

ただ、今を生きることだけを考えていた。


何故か――――――自分から、昔の記憶を取り戻そうとは思わなかった。

理由もわからずに・・・・・・



でも、今、このままではいけない、ということだけはわかっている。


この先、この映画を撮るのに必要なのは・・・・・

俺の中のイメージを、壊すこと。


俺は記憶がないはずなのに、微かに残っているのか

映画の相手役瑛多のイメージがどうしても・・・・・

”敦賀蓮”にかぶってしまうのだ。


たった、一度だけ見た、過去の自分。


吐き気がしそうななか見たそれは・・・・・・・

どんな俳優よりも生き生きとして・・・・・輝いていた。


でも、もう彼は居ないのだ―――――――――


過去の自分の呪縛に苦しむなんて、どうかしてる・・・・・



俺はこれから、どうすればいいのだろうか―――――――???






第十話へ、つづく・・・・・・






今回は、前回のつづき、というよりも一度間をとって

クオンの心情を綴ってみました。


本当は、話が全部終わった後でクオンsideでも良かったのですが

一度書き終えちゃうと、私は終わった感が前面に出てしまい

もうかけなくなっちゃいそうなので・・・・・

早々と入れてしまいました。


たまにこうやって、彼のほうの気持ちも入れてみたいと思います。


それにしても・・・・・

かなり独白チックなので、書いてて面白くなかったです。


もうちょっと、誰かと絡んだりしないと、つまらないよね・・・・・・


次回はちゃんと、続き、書きますよ!!!