The laughing man/アルルカン
1. イン・ザ・ミラー
2. ビロード
3. 如何様
4. 空に落ちる
5. 瘡蓋
6. とどめを刺して
7. FIREWORKS
8. 向日葵
9. 君とのあいだに
10. The laughing man
フルレンスとしては約4年ぶりとなる、アルルカンの3rdアルバム。
豪華仕様の完全盤と、CDのみの通常盤の2種類にてリリースされました。
シングル「怒り」を経て、「The laughing man」へ。
全曲が書き下ろしとなり、コンセプチュアルに制作された本作ですが、その実、彼らが他のメンバーと本質的に向き合ったドキュメンタリーのような意味合いも含んでいるのでしょう。
コロナ禍の中で、楽曲制作における重きが、オーディエンスの反応から、"自分たちが何を作るのか"という根本的な部分に帰ってきた。
だからこそ、ストーリー性のある作品を、と思考が巡ることはそう珍しいことでもないのですが、彼らの場合は、そのストーリーすら自分たちの経験や価値観をぶつけ合うことで作り上げている節があるのですよ。
たとえば、「瘡蓋」はVo.暁さんが、メンバー4人へ膿を出し切るつもりで歌詞を書いたと明言しているし、そのアンサーソングとなり得る「FIREWORKS」は、暁さん以外の4人が歌詞を共作している。
更に言えば、「君とのあいだに」も、それを受けての暁さんのメンバーへの想いを改めて綴ったようにも見て取れる。
そう考えると、シングル「怒り」からの流れは間違いなく存在していて、"笑えないや"と冒頭で呟く「イン・ザ・ミラー」の主人公が、どのように「The laughing man」になっていくか、という物語は、アルルカンがどのようにぶつかった壁を乗り越えていくか、という手記であるとも言い換えられるのです。
「The laughing man」が笑っているのは、諦めなのか、協調なのか、それとも…と考察が滾る中で、振り切ったぐらいに前向きさを感じられる曲調に仕上がったことは、バンドにとっても、リスナーにとっても救いになっているのではないのかな、と。
そんなわけで、内に内にと密度を濃くしていくアプローチにより出来あがったアルバム。
当然ながら、1曲1曲の完成度は高く、構成にも隙がありません。
端的に言えば、全曲に役割がある。
どの曲も主役であり、脇役であり、インパクトもあり、繋ぐ要素もあり。
従来の個の強い楽曲とアクセント的なナンバーをバランス良く配置する手法だけでは実現できない境地にまで、もう一歩、足を踏み込んできましたね。
その最たる例は「空に落ちる」かな。
1曲の中で展開がどんどん変わっていき、不思議な世界観の中に身を置いてはいても、ありありと心境が変化が感覚的に伝わってくる。
上から読んでも、下から読んでも意味が繋がるように仕立てた歌詞も意味深で、この作品としては"怒り"が"笑う"になるまでの物語ではあるが、背中合わせで、その逆の流れも存在することを示唆しているのではなかろうか。
当たり前のことではあるけれど、この暗示があることで、彼らの"最後は笑ってやる"というメッセージに、より強いパッションを感じることができるのも事実。
これもストーリーに自分たちを強めに投影している影響なのかもしれませんが、とにかく考察しがいがあるというか、聴けば聴くほど発見がある奥深さがありました。
曲数面でのボリュームはさほど大きくなく、全10曲で40分程度。
それでも、ここまでずっしり余韻を残していくアルバムであれば、十分にお腹いっぱい、耳が満たされます。
アルルカンがバンドとしての歴史を刻んできたからこそ、コロナ禍の逆境を武器に完成させることができたとも言えるであろう1枚。
<過去のアルルカンに関するレビュー>
ニア・イコール
無花果
墓穴
ステラ
Eclipse
似非林檎-eseringo-
アルルカン