ケレン気関車 / LIPHLICH | 安眠妨害水族館

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ケレン気関車/LIPHLICH

 

1. ケレン気関車

2. 朗読するワルツ

3. PAPIPUPE行進曲

4. 西風に運ばれて

 

ベーシストにex-Aioria、ex-MASKの和矛こと、竹田和彦さんが加入。

本作は、新体制初音源となるデジタルシングルです。

 

竹田さんの加入発表から、実に10ヵ月。

アーティスト写真まで出し惜しみするかのように地下活動を続けてきたLIPHLICHですが、事前予告なしでの突然のリリース。

発表と同時に配信開始というのも、配信限定だからこそできる荒業ですが、裏の裏をつく戦略は、相変わらず彼ららしいなと。

 

まさに"始発"となる表題曲、「ケレン気関車」は、実にLIPHLICHの再始動にふさわしい楽曲に仕上がっていますね。

初期の作品に見られた、濃厚なロードムービーのようなシアトリカルさが戻ってきた感覚。

一方で、これまでに見てきた映画のどれとも重ならないメロディや演奏は、時計の針を戻したのではなく、次のフェーズに入ったことを明確に示している。

機関車のSEと、ミュージカルのような節回しによるオープニングの演出、スピード感と伸びやかさがある心地良いサビのメロディ、信念でロックンロールを奏でるギターソロ。

バラバラなピースがひとつの歌詞で結ばれたとき、ドラマティックな楽曲として完成形になっていくのは、聴いていて爽快感がありました。

 

「朗読するワルツ」は、Vo.久我新悟さんと、Dr.小林孝聡による共作。

神秘的と言うべきか、幻想的と言うべきか、独特のオーラを纏ったミディアムナンバーです。

演奏が徐々に盛り上がっていくのに対して、久我さんの歌声は、一定のテンションで淡々と紡いでいる印象。

聴き手の心理状況によって、前向きにも後ろ向きにも解釈できそうな深みを作り出すことに、一役買っていると言えるでしょう。

「ケレン気関車」と同様にシアトリカルな展開を見せることもあり、ライブではもうひとつ化けそうな予感。

 

一転して、言葉遊び的なリリックが特徴である「PAPIPUPE行進曲」。

ふざけているようで、シニカルなスタンスは一貫されている。

軽口で皮肉を突き付ける、LIPHLICHのもうひとつの顔がここで出てきました。

早口でまくし立てる歌メロは、もはや久我さんの真骨頂。

 

驚いたのは、「西風に運ばれて」。

異国情緒に溢れていて、エキゾチックなサウンドをがっつり落とし込んでいます。

ギターのアプローチはもちろん、コーラスワークやパーカッション風のドラムも、とても新鮮。

歌い回しやメロディ部分にはLIPHLICHっぽさを残しているし、シネマティックな世界観は踏襲されているものの、ここまでガラっと雰囲気を変えた楽曲を持ってくるのは意外だったな。

この曲が入ったことによって、作品に含まれるインスピレーションが一気に膨らんだのでは。

 

前任ベースの進藤さんの個性が強すぎただけに、パワーダウンもやむなしかと思っていましたが、完全に杞憂でした。

竹田さんは直接作曲には絡んでいないものの、新たな要素を引き出すきっかけにはなっており、芯は変わらず、可能性は増えたといったところ。

この辺りはさすがのキャリアで、10ヵ月も時間があれば十分だというポテンシャルを見せつけています。

もっとも、竹田さん自身もコンポーザーとしての実績があるわけで、もうひとつ新たな引き出しを開ける準備は既にできているという状態かもしれませんけれど。

 

結成10周年ということで、オリジナルメンバーが久我さんだけになってしまったとはいえ、色々と計画はあったはず。

それらを白紙にせざるを得ない状況下で、もしかすると、このゲリラ配信も当初の予定ではなかったのかもしれません。

ただし、このタイミングで新曲を出したときに、もっとも話題になるのは新体制での楽曲を温存している自分たちだろ、という肌感覚を持って実行のカードを切れる決断力も、きっと彼らの武器なのだろう。

"ケレン気"という言葉は"ケレン味"と"機関車"と掛けるために作った造語かと思われますが、そんな強引さも含めて彼らの魅力が詰まった作品です。

 

<過去のLIPHLICHに関するレビュー>

CLUB FLEURET

発明

幻想曲
DOUBLE FEATURE
蛇であれ 尾を喰らえ
7 Die Deo
SKAM LIFE
SEX PUPPET ROCK'N'DOLL
カルトなでしこ
萬の夜に鳴くしゃれこうべ
GRATEFUL NONSENSE
HURRAH HURRAY
フルコースは逆さから
マズロウマンション
MANIC PIXIE
SOMETHING WICKED COMES HERE AGAINST YOU
LOST ICON’S PRICE
Pink Parade Picture
月を食べたらおやすみよ
Ms.Luminous
6 Degrees of Separation
SOMETHING WICKED COMES HERE