一年生/S
1. 一年生
2. xxx. M
3. 蜘蛛
4. ごはん
5. ベイベー
2001年にリリースされた、Sの2ndミニアルバム。
配布CDだった「ベイベー」や、デモテープで発表されていた「蜘蛛」のリメイクなどを含んだ全5曲を収録しています。
本作は、色々な方向において、Sの転換期となった作品と言えるでしょう。
ひとつめは、衣装。
硬派な特攻服が彼らのトレードマークでしたが、メンバーカラーを意識したジャージ姿のヴィジュアルは、良くも悪くも衝撃を与えました。
次に、コンセプト。
これまでは"虫"をモチーフにしたタイトルがお約束だったので、アルバム作品ともなれば、数曲は"虫曲"が入ってくるだろうと高を括っていたのですが、「蜘蛛」が再録されたのみで終わってしまった。
その代わりに並ぶのが、「一年生」、「ごはん」、「ベイベー」という楽曲群なのだから、何か方向性を変えようとしているイデオロギーが浮き彫りになっていたのかと。
最後に、音楽性。
上記のとおり、これまでにSを縛っていたモチーフを解き放ったことにより、自由度が増しました。
その結果、"S"、"L"と続いた"xxx"三部作の締めくくり「xxx.M」や、再録の蜘蛛は従来のSを踏襲したヴィジュアル系ナンバーなのですが、「ごはん」はパンキッシュに振り切っているし、「ベイベー」もポップさが前に出るように、かなり割り切っている。
「一年生」については、曲は従来通りのコテコテメロディアス、歌詞は新境地であるラフでポップなものというハイブリッドな作風になっており、本作のリリース時点が、ちょうど転換期であったと言えるのですよ。
この時期のシーンに何が起こっていたのかと言えば、コテコテバンドのお洒落系バンド化。
彼らの場合、そこまで器用に他ジャンルまで精通できるような音楽性の習熟には至っておらず、必要以上にポップになる、必要以上に軽くて幼稚な歌詞を描く、という目先のテコ入れに終始してしまったので、上手く波に乗れなかった印象です。
1stフルアルバムの時期までの勢いを持続するには、いささか火力不足だったというのが本音でしょう。
とはいえ、歌メロの強さは武器として残っている。
ダークさは薄れても、スピード感があるハードなナンバーは、相応にインパクトはありました。
過去には『「ピンポン!」ダッシュ!!』のような楽曲も存在していましたし、歌詞や世界観をあまり気にしないリスナーであれば、変わらずに楽しめるのかも。
彼らのように、一定の地位を築きつつあったバンドであっても路線変更を余儀なくされたという事実は、ある種、お洒落系が誕生して、シーンを塗り替えてしまった衝撃を、間接的ではあるけれど感じ取れるのでは、という1枚。