発明 / LIPHLICH | 安眠妨害水族館

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発明 [TypeA]/LIPHLICH

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1. 発明家A
2. Give me Chill me Killing me
3. メランコリー
4. この密室よりくちづけを
5. 二人の事件
6. SLAP TEA TIME
7. 追憶
8. ロボトミー
9. アナグラムシティ
10. 三原色ダダ
11. 星
12. 星の歯車

前作「蛇であれ 尾を喰らえ」から約8ヶ月という短いインターバルで届けられた、LIPHLICHのフルアルバム。
短期間でアルバムを仕上げただけでなく、すべてが書き下ろしという意欲作です。

最初に聴いた感想として、"LIPHLICHっぽくないな"と。
だって、もう中堅バンドに差し掛かる彼らであるのに、ひとつひとつに新鮮さが伴っているのだもの。
「蛇であれ 尾を喰らえ」でも、LIPHLICHらしさを一度破壊して、まっさらに戻す意識はあったと思うのだけれど、決定的に異なるのは、意図的に"らしくなさ"を狙ったのであろう「蛇であれ 尾を喰らえ」に対して、この「発明」は、あくまで素直に今出したい楽曲を集めていることでしょう。
更地の上から再びLIPHLICHをやり直したら、こんなものが出来上がってしまった、そんな感覚。

これが本作の肝だと考えているのだが、メインコンポーザーとして君臨してきたボーカリスト、久我新悟さんが作曲を担当する割合が減り、メンバー全員で楽曲を持ち寄っている印象が強まった。
前作の制作時は加入から間もなく、作曲には関わることができなかった小林孝聡さんも本作ではバリバリ新しい風を吹かせており、久我さん単独でのクレジットは、わずか3曲だけとなっています。

悪い言い方をすれば、それにより彼らの確固たる個性であったシネマティックなサウンドメークは薄れてしまったのですが、それではマンネリ化を避けられなかったのも事実。
前作で強引に舵を切ったものの、ひとりのアイディアではどこかで限界に達していただろうところ、アイディアの出所を4倍にしてしまったのだから、確かに"発明"的ですよ。
体制そのものをシフトしてしまえば、自然体で音楽性を刷新できるし、割合が減ればマンネリすら王道として受け入れられる。
目から鱗、こんなソリューションがあったとは。

極端な例は、「三原色ダダ」。
小林さんが作曲したこのナンバーは、なんと、小林さん本人もボーカルに参加し、ツインボーカル編成となっています。
曲調だけでなく、歌声までも新鮮さに溢れていたら、そりゃ刺激的に聴こえて当然でしょ。
ありふれた手法でも、なんとなくLIPHLICHではタブーになっていそう。
そんなイメージを軽々と踏み越えてしまえるのが、今の彼らの強みなのだろうな。

もちろん、ゼロからのリスタートではなく、経験に裏付けられた感性の蓄積はあるわけで、消さない部分、残すべき部分は押さえつつ、作為的に彼らっぽくない要素を際立たせてまとめてきている。
リードトラックである「発明家A」のデジタルサウンドの使い方や、「SLAP TEA TIME」でのバキバキ痺れるスラップベースなど、テンポ感といい、音づかいといい、新しいLIPHLICHをしっかりと表現しています。

博打ではなく、確信。
"LIPHLICHっぽくないな"と思ってしまう本作こそ、実に"LIPHLICHっぽいな"と考え直す。
これはまさしく、2016年V系シーンにおける発明でした。

<過去のLIPHLICHに関するレビュー>
幻想曲
DOUBLE FEATURE
蛇であれ 尾を喰らえ
7 Die Deo
SKAM LIFE
SEX PUPPET ROCK'N'DOLL
カルトなでしこ
萬の夜に鳴くしゃれこうべ
GRATEFUL NONSENSE
HURRAH HURRAY
フルコースは逆さから
マズロウマンション
MANIC PIXIE
SOMETHING WICKED COMES HERE AGAINST YOU
LOST ICON’S PRICE
Pink Parade Picture
月を食べたらおやすみよ
Ms.Luminous
6 Degrees of Separation
SOMETHING WICKED COMES HERE