平成32年へ。/シェルミィ
平成32年へ。
3,300円
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1. 平成32年へ。
2. 大人になったら死にたい
3. リストカットベイビー
4. 似非評論家はダンスホールで笑う
5. 情脈
6. ヒステリック姫カット
7. 病病支配的欲求
8. 「 」
9. センセーション事変
10. 非ノーマル
11. 君になりたい
"令して和む"と書いた時代へ、"平和に成れ"と書いた時代からの"遺書"として制作された、シェルミィの2ndフルアルバム。
配信シングルとして発表されていた「大人になったら死にたい」、「君になりたい」を含む、全11曲を収録しています。
R指定が活動を止めた今、メンヘラ系の盛衰の鍵を握ると言っても過言ではないシェルミィ。
これまで、精神的な痛みを叫びながらも、コンセプチュアルなテーマを設けたリリースを重ねてきた彼らですが、改めて彼らの本質に迫っていく作品が出来上がったな、と。
幾分、楽曲構成の複雑性は整理され、シンプルになったでしょうか。
表面的なギミックよりも表現に重きを置き、その楽曲で伝えたいことを伝えるという基本に立ち返ったのか、自然な流れの中でドラマ性を構築している印象です。
それによりノンフィクション性が高まり、彼らの世界観に共鳴するリスナーは、よりどっぷりとのめり込むことになりそう。
突き放しているような歌であっても、それがそういうリアルとして成立しているので、どうしようもなく共感してしまうのですよ。
もちろん、演出面での企画性が失われたわけではなく。
1月1日に謎の新バンド"死ヲ得る意味"として「令和リストカットジャッジメント」というコテコテ風の楽曲を公開。
本作のリリースに合わせて、リードトラックとなる「リストカットベイビー」の前フリであったとネタバラシをするのですが、これにより、ステレオタイプのヴィジュアル系バンドの歌詞を批判し、シェルミィは歌わなければいけない言葉を歌うのだという決意表明の意味合いも出てくるのですよね。
率直に言えば、これはこれで最近流行りのメンヘラ系楽曲として埋もれてしまいそうなところ、自分たちの信念を明確化することで、流行に傾倒してメンヘラ系に辿り着いたわけではないのだということも同時にアピールすることになった形。
色々な角度から説得力を増したわけで、とんでもない戦略眼です。
惜しいのは、最後に持ってきた「君になりたい」のラストシーン。
ストレートな"良い曲"の最後に、エモーショナルなシャウトを唐突に差し込み、楽曲のスケールを一気に壮大にするアプローチなのですけれど、これがR指定の「少女喪失-syojosoushitsu-」における「さらばビッチ」の演出と被ってしまいます。
こういう手法が今後はスタンダードになっていくのだ、という見方もできますし、糾弾されるようなレベルでの被りではないのですが、受け皿になり得るかどうか判断される時期にリリースされた作品だけに、寄せた感が出てしまうのはもったいないと言いますか。
やや演出過剰と見られてしまう懸念はありますかね。
もっとも、全体的にクオリティが高いのは否定しようがなく。
シングルや表題曲、リードトラックにメッセージ重視のキラーチューンを配置しつつ、レトロな「情脈」、ポップな「ヒステリック姫カット」、白系的な切なさを纏った「 」に、パンキッシュな「センセーション事変」と「非ノーマル」のコンボ等、バラエティ性を意識して曲を散らすバランス感覚はさすが。
尖った衝動性に塗れた「ぼくらの残酷激情」のインパクトは相当なものでしたけれど、痛みの感性はそのままに、少し成長したところを見せた「平成32年へ。」は、構成力のレベルアップを見せつけています。
メンヘラ系というサブジャンルがどうなろうが、シェルミィはシェルミィとして変わらない音楽を奏でるのだ、という強い意志を感じる1枚。
<過去のシェルミィに関するレビュー>