うずまき / シェルミィ | 安眠妨害水族館

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うずまき/シェルミィ

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1. 御礼参り

2. 今日も後悔の血が垂れる

3. 赤い部屋

4. 絶望産まれのセルロイド

5. メイデイメイデイ

6. 噂

 

2月にミニアルバム、「少女地獄」をリリースしたばかりのシェルミィ。

半年に満たない短いインターバルで発表された3rdミニアルバムが、この「うずまき」でした。

 

「少女地獄」のMVのラストシーンで交通事故死したメンバーたち。

"死後の姿"として、夏の物の怪と化した彼らによる御伽噺というのが本作のコンセプトです。

音楽性やヴィジュアルイメージは、昨今のブームである和風ダーク系に寄せた形になりますが、これまでからの継続も示すストーリー性により、必然性を高めているのが上手いですね。

 

リードトラックとなる「御礼参り」は、そんな和風ホラー要素を前面に押し出したダークチューン。

おどろおどろしいフレーズや、抽象的な歌詞など、確かにこれまでにはないアプローチも見られます。

今、隣で起こっているかもしれない出来事、というよりは、創作物と認識して読むホラー作品のような世界観。

それでも、その中に表現される心理描写や、妙に細かい動作のピックアップなど、ストーリーテリングの巧みさは相変わらずで、これはこれで感情移入してしまう。

案外、こういうのもハマっているじゃないか、と驚かされるスタートでした。

 

その後は、和風一辺倒ではなく、王道的な疾走ナンバーであったり、ジャジーなお洒落系シャッフルだったり、思いのほかバラエティ豊かな展開。

アルバムタイトルの「うずまき」もそうなのだけれど、「赤い部屋」、「絶望産まれのセルロイド」と、ホラー漫画やフラッシュムービーなど、あえて実際の作品の二次創作的なタイトルをつけることで、フィクション感を演出。

「今日も後悔の血が垂れる」にしても、太宰治の小説からヒントを得ている部分があるなど、代弁者として叫ぶだけでなく、物語を提示して、聴き手側に解釈を委ねるというスタイルが、本作の特徴のひとつと言えるでしょう。

メンヘラ系が飽和している状況下、その最前線に位置する彼らではありますが、二の手、三の手を用意しているあたり、やはり可能性を感じるのですよ。

和風コテへの転向をブラフとして、精神性での幅を持たせたのが、実は彼らが本当に「うずまき」を通して伝えたいことだったりして。

 

また、そうはいってもメンヘラ系に寄り添ってくれる楽曲も聴きたい、というタイミングで送り込まれる「メイデイメイデイ」が効果的。

赤裸々に心境を吐露しただけとも見えてしまうぐらいに痛々しさを共感できるバラードで、創作物で楽しんでいた心を、一気に現実につき返すパンチ力がありました。

シェルミィなら、この手の曲があってもおかしくないでしょ、といったところなのだが、本作ではこういくのね、と意識から外れかけたところで物凄いカウンターパンチが来たものだから、ノーガードで受けてしまった形。

気持ちが乗ったところで、世間にぶちまけるメッセージ性を持った「噂」で締めくくるという完璧な流れには、ノックアウトされたと言わざるを得ません。

 

短期間で趣向の異なるコンセプト作品を作り上げつつ、クオリティを維持しているのだから恐ろしい。

12月には、今年3枚目となるミニアルバムの発売も予定されており、もうどうなっているんだ、と。

次に提示してくるアイディアにも注目したくなる1枚です。

 

<過去のシェルミィに関するレビュー>

少女地獄

ぼくらの残酷激情

平成メンヘラセオリー