しばりやトーマスの斜陽産業・続 -4ページ目

近未来予想はほぼ的中『ソイレント・グリーン』

 1973年の映画『ソイレント・グリーン』は巨匠リチャード・フライシャー監督のSF映画。フライシャー監督は巨匠と呼ばれるだけあって生涯60作(!)以上を手掛け、SFからホームドラマ、コメディ、サスペンス、戦争、アクション、ホラー、伝記、ミュージカル、そして駄作(笑)とあらゆるジャンルを撮りまくった職人監督。その中でも『ソイレント・グリーン』は近未来を舞台に、人口増加による飢餓貧困、貧富の差が拡大されたディストピア世界を描いた風刺映画として今も衝撃を受ける一本。

 

 舞台は2022年(この設定、もはや過去になっている)のニューヨーク。人口増加、異常気象による影響で国民の多くは仕事も済む場所も食べる者さえ手に入らない。政府が配給する完全な栄養食「ソイレント・グリーン」(緑の板チョコみたいなやつ)だけが命綱。ソイレント・グリーンを生産しているソイレント社の幹部が他殺され、刑事ソーンが捜査に乗り出す。ソーンの捜査はたびたび妨害され、挙句は暴動を装って殺害されそうになる。事件の背後に何者かの陰謀を感じ取るソーンはついに真相にたどり着くのだが・・・

 ソーンを演じるのはチャールトン・ヘストン。『十戒』『ベン・ハー』『猿の惑星』『地球最後の男 オメガマン』など、鋼鉄の肉体に象られた精神で人類を導いたり、リーダーシップを発揮して地球の危機と立ち向かう役が似合う俳優だ。本作でも命の危険に晒されながら決して折れず真相を突き止めようとする。悲惨な結末が待っていようとも。

 ソーンは老人ソルと同居している。ソルは人類が肉や野菜を自由に口に出来ていた時代の生き証人。ソーンは捜査の途中で女性を家具として扱っている富裕層の部屋から新鮮な野菜、果物などをくすねてくる。何十年ぶりかに口にする野菜や果物にソルは涙する。

 ソルを演じるのはエドワード・G・ロビンソン。マーヴィン・ルロイのギャング映画やビリー・ワイルダー作品にも出た名優で、『ソイレント・グリーン』が遺作になった。DVDの音声解説によると撮影当時、体調がすぐれず視力をほぼ失っていたといい、にも拘らずヘストンとのやり取りに問題はなかったと。映画を観る限りそんな風には見えない。彼がある選択をする結末は2024年の今見ても衝撃的。

 本作は現在、4Kリマスター化してリバイバル上映中。映画で描かれる貧困と拡大された貧富の差は現実のものになっていると言えなくもない。今の日本なんて政府が虫食を推奨しようとしたり、老人に安楽死を選べとのたまう狂人がテレビにコメンテーターとして出ているのだから『ソイレント・グリーン』の世界はすでに現実といってもいい。

 

ちなみに「完全栄養食」を歌ったソイレントという食品は実用化されている。やっぱり映画は現実だった!

 

 

 

 

 

帰ってこない方がよかった『Manos Returns』

 1966年の『Manos: The Hands of Fate』(死の手マノス)は肥料のセールスマンだったハロルド・P・ウォーレンが制作したインディ映画で製作者も出演者もド素人だらけで「ひどい!高校の化学の授業より退屈!」と言われた。どれぐらいひどいかというと、ある場面は夜中に野外で撮影されたのだが、照明(それも光量が足りないのでやたらと暗い)に羽虫が誘われてカメラの前を横切る。ミステイクなんだけど取り直しするフィルムがもったいないのか、カットも編集もしないまま本編に使われている。ある場面ではカット割りのカチンコが見えていた

 眠たくなるような単調なBGMが何度も何度も繰り返され、邪神の手を信仰するマノス教団が田舎の館に迷い込んだ旅人を誘い込んで生贄にするという話なんだが、内部で内輪揉めが起き、教団は崩壊しかける。教祖マスターの元にいるハーレムの女たちは迷い込んだ一家の娘が幼いため、彼女をハーレムに加えるかどうかで諍いを起こし、気の抜けたキャットファイトがはじまる。

 ラストはマスターを裏切った召使トーゴの代わりに一家の父親マイケル(ウォーレン監督本人)が新たな召使とされ、妻マーガレットと娘デビーはマスターのハーレムに加えられていた・・・というオチ。 

 

 このどうしようもなく下らない退屈な映画はメキシコ・エルパソのドライブインでかかるぐらいで世間から忘れられていたがアメリカのケーブルTV番組『ミステリー・サイエンス・シアター3000』でその下らなさを笑い飛ばされたことで一躍有名に。一時はIMDBのワースト映画1位に君臨していた。

 あまりに下らないが、その駄目さ加減がカルト映画として人気を博すことに。いわば『シベリア超特急』みたいなもんだ。ラストはto be continued・・・?と出てくるのトドメで「どうせ続編なんてないんでしょ!」と思われていたら52年後の2018年に続編の『Manos Returns』(帰って来たマノス)が公開された!

 

 監督・脚本は『マノス』のファンだというトンジア・アトミック、前作の館に迷い込む母マーガレット役のダイアン・マーリー、娘デビ―役のジャッキー・ネイマン・ジョーンズが制作、さらに二人は同じ役を再演した!ジャッキーの実父でありマスター役のトム・ネイマンもマスター役を再演したが完成前に亡くなった(ウォーレン監督は85年に亡くなっており、トーゴ役のジョン・レイノルズは前作公開前に自殺した)。

 内容は続編というよりリメイクといった具合で、ヴァレーロッジでバカンスを過ごそうとする4人の男女が道に迷い(うち二人の男女はカップルで、前作よろしくいちゃいちゃしていてエルパソの警察官に咎められる)、突如現れた看板に誘われるように車を進めるとある館にたどり着く。そこにいた召使トーゴに頼み込み、中で休憩しようとするが車が動かなくなったため「ご主人さまはあんたらが泊るのを嫌がる」と言われながらも無理やり中へ。その館は邪神教団マノスの館で4人は新たな生贄にされるのだがハーレムの一員であるデビーは4人を生贄にしようとするがマーガレットは助けようとして仲たがいを起こす。

 

 前作がどうしようもないダメ映画なのは言うまでもないが、今回は輪をかけてひどい。アトミック監督の手腕はもちろん、役者人も素人以下。それは前作と同じじゃない?と思うけど、ウォーレン監督は少なくとも自分がまともな映画を作っているという自信があって、情熱の塊だったが技術が伴わなかっただけなの。

 今回のアトミック監督はわざとダメ映画を撮ろうとしているのですべての場面が滑りまくっていて見ていられない。例えば4人の男女が「退屈な映画は何か?」という話題で

「シャークネードより退屈なのはない」

「いやある。シャークネード2だ」

 という会話がすでにつまらなくて自虐的なギャグにすらなってない。はっきりいってこれよりシャークネードの方がマシだと思う。

 金がかかっていないのは言うまでもなく、マスターのハーレムがヌルイ(前作よりもさらにヌルイ!)キャットファイトの挙句殺人を犯すのだが血糊が水性絵具なので乾いてカピカピになっていて血糊にはどうしても見えない。目の前で教徒たちが怪しげな儀式に興じていても4人の男女は怖がることもなくダラダラと眺めているだけ!

 トーゴ役はジョージ・ストーヴァ―。史上最低のダメ監督のひとり、ドン・ドーラーのレギュラー俳優で『魔獣星人ナイトビースト』『悪魔の餌食』『俺だって侵略者だぜ!!』とかに出てる、と言っても誰も知らんか。そんな誰にも伝わらないネタを仕込んでる暇があったらちゃんと作ってくれといった具合で、このリメイクは元のファンからも不評。この映画を製作するため行われたキックスターターに金出した人達はご愁傷さま。

 しかしマノス教団は不滅なので、現在TVドラマ版『The Manos Chronicles』が放送中。プロデューサーはジャッキー・ネイマン!この人ら一生マノスつくってそう。

 

 

 

ハリウッド版東宝チャンピオンまつり『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

 東宝映画は1950年代の『七人の侍』『ゴジラ』に端を発する大作路線が成功しホームドラマの松竹、時代劇映画を量産した東映に差をつけていたが60年代に入り映画産業が斜陽化すると「何をやっても当たらない」状態に。稼ぎ頭のゴジラシリーズも打ち止めが囁かれるようになり、徹底した予算縮小が通達され、製作費は全盛期の1/3となり、子供向け路線で人気を博していた「東映まんがまつり」の向こうを張って「東宝チャンピオンまつり」のプログラムの一本としてゴジラシリーズは生き残りを図る。

 こうしてゴジラは日本に存在しない荒野(建物のセットを組む予算がないので)で悪い怪獣と戦う勧善懲悪ヒーロー路線に舵を切り、火を噴いて空を飛んだり(『ゴジラ対ヘドラ』)、アンギラスに「偵察にいけ!」とフキダシで命令したり(『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』)していた。

 旧作の再編集版とこれら低年齢化していき「怪獣プロレス」とも揶揄された「東宝チャンピオン祭り」路線は子供たちの熱狂的な支持とは裏腹に作品自体の評価を下げ(あくまで口うるさい怪獣オタクの間で)シリーズがやがて最初の終焉を迎える。今では再評価が行われているこれらチャンピオン祭り路線も一時期はどうしようもなくダメな時代の象徴として笑いものにされていた。

 今回のハリウッドゴジラ、モンスター・ヴァースシリーズ最新作『ゴジラ×コング 新たなる帝国』はなぜかこの東宝チャンピオンまつり路線に大予算(約200億円)を投じた。

 

前作『ゴジラ×コング』から3年後の世界。コングは地下空洞の世界に帰り、ゴジラは地上の王としてローマのコロッセオを寝床にして叛逆を企てる他の怪獣たちを食らっていた。

 地下空洞のコングは怪獣の様子を管理する組織モナークの監視のもと、失われた同族の姿を求めて旅を続けていた。ある日、虫歯になったコングを獣医のトラッパー(ダン・スティーブンス)が救い、コングはやがて地下空洞の果てで同族の猿たちを発見する。猿たちは暴君スカーキングの元恐怖で縛り付けられていた。スカーキングは冷気を吐く怪獣シーモを操りコングに戦いを仕掛け、コングの右腕を凍傷状態にしてしまう。

 スカーキングらは仲間とシーモを従え、かつて敗北したゴジラに再び戦いを挑み、地上世界への進出を目論んでいた。トラッパーがコング用のパワーアップアイテムとして作り出したビースト・グローブを与えられたコングは自分だけでは倒せないスカーキングらに対抗するため、地上の王ゴジラを呼びに行く。そこに先住民イーウィス族の守り神モスラも復活し、地上最大の決戦が始まる。

 

 虫歯になったコングを人間の道具で治療したり、ミニラみたいなミニコングが出てきたり、コングとゴジラがド付き合いで意思疎通したりと、やっていることは完全に東宝チャンピオンまつり!スカーキングが虫歯の代わりに差し歯にしたコングを見て「こいつ差し歯にしてやがるぜ!」とセリフはなくともそう聞こえるようなリアクションを取り、地上で再開したコングにゴジラが襲い掛かり、「こんなことしてる場合じゃねえ!地球が地球が大ピンチだぜ!」とド付き合いを経て漢同士の魂を揺さぶる共闘関係に至る、ヤンキー映画ばりの「殴りあったやつは大体友達」展開にはいくらなんでもバカバカしいと思いつつも、盛り上がらずにはいられない!

 

 邦画ゴジラがどうしても初代の幻影から逃れられずに『ゴジラ-1.0』とかをやってる中、ハリウッドが東宝チャンピオン祭りをやってしまうとは・・・

 怪獣映画には「人間ドラマが弱い」と指摘されがちなジャンルなので、それに対して「人間の代わりに怪獣がドラマをやればいいじゃない!」という回答を導き出した『ゴジラ×コング 新たなる帝国』は正解です。

 日本もぜひ怪獣プロレス、東宝チャンピオンまつり路線を復古してくれないかな?待ってる。

 

 

 

 

 

 

2024年5月予定告知

2024年5月予定

 

5月11日(土)

『アイドル十戒 キングダム1』

場所:アワーズルーム

開演:19:00  料金:¥1500(1d別)

出演:竹内義和 しばりやトーマス

 

再スタートを切るアイドル考現学。実際はアイドルに捉われず雑多なネタをやってます。

 

5月13日(月)

『スーパーヒーロートーク』

場所:なんば紅鶴 

開場:21:00

料金:¥1500(1d別)

出演:にしね・ザ・タイガー ソエジマ隊員 しばりやトーマス

 

ニチアサ系のイベントの報告会。

 

5月18日(土)

『大阪おもしろマップ 久しぶりの通常回』

開場:なんば白鯨
開場 / 18:45 開演 / 19:00
料金 / 2000(D別)
出演 / 射導送水、縛りやトーマス、B・カシワギ

 

5月20日(月)

『マンデーナイトアワーズ』

場所:アワーズルーム

開演:20:00  料金:¥1500(1d別)

出演:竹内義和 オートリーヌ しばりやトーマス

 

久々に出ます

 

5月23日(木)

『旧シネマパラダイス』
会場:アワーズルーム 
開演:20:00  料金:¥500+1d別
解説:しばりやトーマス

カルトを研究する若人の会。

5月はメーデーがあるので労働者のために立ち上がるドキュメント映画だ。

 

5月29日(水)

『キネマサロン肥後橋』

会場:アワーズルーム

開演:19:30 ¥500+1d別

解説:しばりやトーマス

※終了後にYouTube収録アリ

 

深夜の映画番組みたいな大研究会。今月はオールスター時代劇を研究。夢でござる!

生き残れるのはひとりだけ!『このままモブじゃ終われない!』第7話

 まんがタイムきららキャラット6月号掲載の優しい内臓先生の『このままモブじゃ終われない!』第7話はセンターカラー回。キノコでも貪ったようなドギツイ色彩が読者を不安にさせる表紙です。

 今回はコモモモモことコモナの秘密の部屋に隔離されているピコのそっくりさん二人(表紙の左右にいるやつ)の話。コモナは学生時代のクラスメイト、ピコにベタぼれで彼女そっくりの女を二人飼ってるんだけど(意味不明)・・・

 

 これは優しい内臓先生の前作、『死神ドットコム』でタマそっくりのタマ人形と暮らす女がいたのを想起させるネタ。まあ人形といってもひとりでに歩いて移動するんだけどね(怖)

 しかし今回の『このモブ』に出てくるピコのそっくりさんピコA、Bはちゃんと生きている人間らしく、秘密の部屋の中で生活している様子が描かれる。引きこもり癖のあるコモナの生活ルーティンは打合せのため外出する際はピコA、Bにヨシヨシされないと外に出られない(!)病んでる女(この漫画の登場人物、大体病んでるけど)の相手は疲れるなぁ~とぼやくA、B。

 

「漫画家目指してた時よりはマシだよぉ~」

「今は月給50万貰ってるしこれぐらいはね」

 

 ソフトな軟禁状態に置かれている(苦笑)ことが判明。今のコモナは人気作家だから金で人が買える(ひどい言い方)わけだが、それ以前は大した金も渡さず家に置いてたってこと?普通に怖すぎる・・・

 物音を立てたせいでピコ(本物)に秘密の部屋を観られてしまう。中にいるA、Bを見てドッペルゲンガーと勘違いするピコ。なぜか生き残れるのはひとりだけ・・・と佐藤ピコバトルを始めることに。どうしてこうなった。

 

 バトルの結果、大惨敗する本物ピコ(笑)なんでやねん。

 負けた以上死ぬことになるピコ、「まだ漫画家のスタートラインにも立ててないのに~」と号泣。あの画力で本気でデビューを目指しているのかと驚愕のA、B。実はこの二人も漫画家を目指していたが今はコモナの人形扱いされているわけで、わたしたちは諦めてしまったがお前は諦めていない、生き残るのにふさわしいのはお前かもしれない・・・となんかいい空気を匂わせて秘密の部屋に消えていくのだった・・・

 

 ってうまくまとめた感になってるんだけど、A、Bの正体がまったくわからずに話を進めてるの、スゴイとしか言いようがない。まだ正体明かさないんだ。作者の暴風の前に読者が置いてけぼりにされていく感よ。これなんだよなー僕たちが欲しかったものは。優しい内臓先生の漫画が読めるのはきららキャラットだけ!