帰ってこない方がよかった『Manos Returns』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

帰ってこない方がよかった『Manos Returns』

 1966年の『Manos: The Hands of Fate』(死の手マノス)は肥料のセールスマンだったハロルド・P・ウォーレンが制作したインディ映画で製作者も出演者もド素人だらけで「ひどい!高校の化学の授業より退屈!」と言われた。どれぐらいひどいかというと、ある場面は夜中に野外で撮影されたのだが、照明(それも光量が足りないのでやたらと暗い)に羽虫が誘われてカメラの前を横切る。ミステイクなんだけど取り直しするフィルムがもったいないのか、カットも編集もしないまま本編に使われている。ある場面ではカット割りのカチンコが見えていた

 眠たくなるような単調なBGMが何度も何度も繰り返され、邪神の手を信仰するマノス教団が田舎の館に迷い込んだ旅人を誘い込んで生贄にするという話なんだが、内部で内輪揉めが起き、教団は崩壊しかける。教祖マスターの元にいるハーレムの女たちは迷い込んだ一家の娘が幼いため、彼女をハーレムに加えるかどうかで諍いを起こし、気の抜けたキャットファイトがはじまる。

 ラストはマスターを裏切った召使トーゴの代わりに一家の父親マイケル(ウォーレン監督本人)が新たな召使とされ、妻マーガレットと娘デビーはマスターのハーレムに加えられていた・・・というオチ。 

 

 このどうしようもなく下らない退屈な映画はメキシコ・エルパソのドライブインでかかるぐらいで世間から忘れられていたがアメリカのケーブルTV番組『ミステリー・サイエンス・シアター3000』でその下らなさを笑い飛ばされたことで一躍有名に。一時はIMDBのワースト映画1位に君臨していた。

 あまりに下らないが、その駄目さ加減がカルト映画として人気を博すことに。いわば『シベリア超特急』みたいなもんだ。ラストはto be continued・・・?と出てくるのトドメで「どうせ続編なんてないんでしょ!」と思われていたら52年後の2018年に続編の『Manos Returns』(帰って来たマノス)が公開された!

 

 監督・脚本は『マノス』のファンだというトンジア・アトミック、前作の館に迷い込む母マーガレット役のダイアン・マーリー、娘デビ―役のジャッキー・ネイマン・ジョーンズが制作、さらに二人は同じ役を再演した!ジャッキーの実父でありマスター役のトム・ネイマンもマスター役を再演したが完成前に亡くなった(ウォーレン監督は85年に亡くなっており、トーゴ役のジョン・レイノルズは前作公開前に自殺した)。

 内容は続編というよりリメイクといった具合で、ヴァレーロッジでバカンスを過ごそうとする4人の男女が道に迷い(うち二人の男女はカップルで、前作よろしくいちゃいちゃしていてエルパソの警察官に咎められる)、突如現れた看板に誘われるように車を進めるとある館にたどり着く。そこにいた召使トーゴに頼み込み、中で休憩しようとするが車が動かなくなったため「ご主人さまはあんたらが泊るのを嫌がる」と言われながらも無理やり中へ。その館は邪神教団マノスの館で4人は新たな生贄にされるのだがハーレムの一員であるデビーは4人を生贄にしようとするがマーガレットは助けようとして仲たがいを起こす。

 

 前作がどうしようもないダメ映画なのは言うまでもないが、今回は輪をかけてひどい。アトミック監督の手腕はもちろん、役者人も素人以下。それは前作と同じじゃない?と思うけど、ウォーレン監督は少なくとも自分がまともな映画を作っているという自信があって、情熱の塊だったが技術が伴わなかっただけなの。

 今回のアトミック監督はわざとダメ映画を撮ろうとしているのですべての場面が滑りまくっていて見ていられない。例えば4人の男女が「退屈な映画は何か?」という話題で

「シャークネードより退屈なのはない」

「いやある。シャークネード2だ」

 という会話がすでにつまらなくて自虐的なギャグにすらなってない。はっきりいってこれよりシャークネードの方がマシだと思う。

 金がかかっていないのは言うまでもなく、マスターのハーレムがヌルイ(前作よりもさらにヌルイ!)キャットファイトの挙句殺人を犯すのだが血糊が水性絵具なので乾いてカピカピになっていて血糊にはどうしても見えない。目の前で教徒たちが怪しげな儀式に興じていても4人の男女は怖がることもなくダラダラと眺めているだけ!

 トーゴ役はジョージ・ストーヴァ―。史上最低のダメ監督のひとり、ドン・ドーラーのレギュラー俳優で『魔獣星人ナイトビースト』『悪魔の餌食』『俺だって侵略者だぜ!!』とかに出てる、と言っても誰も知らんか。そんな誰にも伝わらないネタを仕込んでる暇があったらちゃんと作ってくれといった具合で、このリメイクは元のファンからも不評。この映画を製作するため行われたキックスターターに金出した人達はご愁傷さま。

 しかしマノス教団は不滅なので、現在TVドラマ版『The Manos Chronicles』が放送中。プロデューサーはジャッキー・ネイマン!この人ら一生マノスつくってそう。