しばりやトーマスの斜陽産業・続 -5ページ目

君も歴史の目撃者『お茶の間トランスフォーメーション ザ・ムービー』

 トランスフォーマーシリーズのアニメ最新作『トランスフォーマー/ONE』が9月に公開ということでトランスフォーマー特集でもやるか!と思い立ち、日本で制作された実写短編『お茶の間トランスフォーメーション ザ・ムービー』をご紹介。ちなみに本家トランスフォーマーとは何の関係もありません。まったくの別物。トランスフォーマーとマシンロボ、トミカとモルカーぐらい違います(しかしサブタイトルは『トランスフォーマー ザ・ムービー』に準拠)

 ズバリ、アメリカのトランスフォーマー実写映画のブームに乗っかった便乗作品で、便乗といえばこの人、河崎実監督も「特別編監督」として参加している(後述)。

 

 

遙か太古の昔ー

 

銀河系宇宙空間に巨大なエネルギーが発生しー

テクノロジーの進歩により惑星をおおっていた。

 

そして、地球のお茶の間にもー

それは存在していた。

 

 と仰々しいナレーションで開幕する本編。さらに森本レオのうさんくさい深刻な解説により「地動説よりも天動説の方が正しかったとしたら?」世間一般の常識を覆す現象が我々人類の知らない間に起きていたらー

 という仮説にのっとって物語は展開する。携帯電話、デジタルカメラ、掃除機、ノートパソコン、ポット…といった電子機器が我々の知らない、観ていないところで密かに活動している様子を捉えていく。

 

 例えばデジタルカメラが人型に変形(トランスフォーメーション)して隣の女性の着替えを盗撮していたら?

 例えば電気ポットが放置されたカップ焼きそばのお湯を密かに湯切りして中身をシンクにぶちまけていたら?(役に立ってねえ)

 例えば放置された掃除機が勝手に電源コードを片付けていたら?

 例えば電源が切れかかったコードレスの子機が一人でに動いて充電器につながっていたら?

 

 これらはすべて仮説にすぎないが、真実でないとは言い切れないのですー

 

 ってこれ、トランスフォーマーっていうより『トイ・ストーリー』だよね。こういった思い付きでつくったようなショート映像が50分続く。飽きてくる頃にはちょっとしたお色気や、なんで出てるのかわからない川村ゆきえが登場したりしてなんとか観客を退屈させないような配慮がなされているところがたまらない。

 

 本作で一番面白いのはDVDに収録されている制作発表記者会見である。2007年8月3日(どうでもいいけど、僕の誕生日だ)に行われた会見では特別編の監督を担当した河崎実監督と。彼に仕事をオファーした製作総指揮スティーブン・スピルバーグのそっくりさんが登壇。これが全く似ていないのもすごいが「ポケットマネーから100万ドルを出してハリウッドにお茶の間のセットをつくった」「ノースタント撮影による命がけのアクションに携帯電話が挑んだ」河崎監督には「非通知・着払い」の電話でオファーがなされ、製作費については「(河崎監督の)弁当代は出た」とのこと。そのうち監督名をピーター・ジャクソンやマイケル・ムーアと間違ったりとテキトーにもほどがある発言を繰り広げる両者!

 

 で、その河崎実監督が手掛けた特別編「大人のトランスフォーメーション」で、DVDに収録されている。それは男女のカップルが主役で、彼氏が電動マッサージ器を彼女にプレゼントすると、そいつがトランスフォーメーションして大人のおもちゃに早変わり!というおちゃらけギャグの短編が6話。オチは全部同じ。ピーター・ジャクソンも即、指輪を投げ捨てるほどの腰砕け下ネタギャグは河崎監督曰く「かつての大島渚のように映像表現の限界に迫った」とフカしまくるのであった。大島渚が墓から蘇って「ばかやろう!」と怒鳴ってこないか心配だ。

 

 スピルバーグもムーアも、ジャクソンも多分観てはいない映画。あなたが歴史の目撃者になるしかない!

 

 

 

 

 

 

偏屈バンザイ!『九十歳。何がめでたい』

 作家・佐藤愛子が90歳(!)の時に書いた同名のエッセイを原作にした映画『九十歳。何がめでたい』は自身の怒りとぼやきについての映画だ。主役の佐藤を演じるのは御年90歳の女優、草笛光子。90歳同士のコラボレーション。

 

 数年前に発表した小説を最後にほぼ断筆状態になっていた作家・愛子は娘の響子(真矢ミキ)、孫娘の桃子(藤間爽子)と暮らしている。目も悪くなり耳も遠くなったので新聞が読みづらいとぼやき、テレビの音が聞こえにくいと大音量を響かせる。そんな祖母をやれやれと見つめる家族に孤独を感じながら退屈な日々を送っていた(年寄だからね)。

 

 とはいえボケてるとかではなく、頭は冴え渡っている。新聞の読者相談コーナーに長年連れ添った夫は家庭のことは全部自分に押し付けて仕事ばかりしている人間で、同じ家に住んでいるのも辛い。この先ずっと連れ添わねばならないのかと考えると気が重い…という妻(木村多江)の投稿にエッセイストの海藤ヨシコ(清水ミチコ)が毒にも薬にもならないコメントを出しているのを見て

「キライな夫にいいように使われて何をしとる!アンタの人生を生きなさい!」

喝だこりゃあ!張本勲よりも激しい一言をぶつけるが人生相談には向いてないかもしれない。

 

 で、これエッセイをどうやって映画にしているんだと思ったら、物語は出版社の編集者・古川(唐沢寿明)の話になる。古川は大手出版社で活躍する編集者だが、部下に対する昭和的なコミュニケーションがパワハラ、セクハラだと弾劾され左遷。飛ばされたのは勝手が違う女性誌編集部で、しかも上司はかつて自分が鍛えた部下の倉田(演じているのが宮野真守)。倉田からは「先輩は余計なことしないで座ってるだけでいいですよ。どうせウチの仕事もよくわからないでしょうから」とこの扱い。ふてくされて帰宅すれば妻は離婚届を置いて娘とともに消えていた!仕事も家庭もボロボロの古川。彼は若手編集員が諦めた90歳の作家・佐藤愛子にエッセイを執筆してもらうという企画にすべてを賭ける。

 

 ところが愛子は「書けない・書かない・書きたくない!」という偏屈婆さんなので簡単には仕事を受けてくれない。そこは古川も24時間働けますか?の昭和サラリーマンなので菓子折りを持って日参。そのしつこさについに愛子も折れ、エッセイの依頼を受ける。けれど長らく断筆していたので最初の一文字が書けない(笑)。本当に書けないのだった。

 

 これ、僕もわかるなあ。WEBでコラム書いていた時「よし書くぞ」と思い立っても最初の一文字書くのに数時間かかってたし。

 仕方なく愛子は痛む足腰を引きずりながら外出しネタ探し。こうして出来上がった最初の原稿は「子供の声が騒がしいと公園で子どもを遊ばせるのを禁じるという風潮、騒がしいのは世の中に活気がある証拠ではないか」と90歳の人間ならではの視点が炸裂!

 90歳の作家による世の中への怒りとユーモアにあふれたエッセイはたちまち人気になり、あれだけ「書けない・書かない・書きたくない!」と言ってた愛子の筆が進む進む。しかし偏屈婆さんに変わりはないので古川が「粘って初版1万5000行きました!間違いなくヒットします!」という単行本を「売れてたまるか!」と突き返す。しょうがねえなこの婆さん。

 一方で古川は家族との暮らしを取り戻そうとするが、娘(中島瑠菜)の口から如何に自分が家庭を顧みなかったかを聞かされ「お母さんを自由にしてあげて」と痛烈な一言を突き付けられるのだった。

 

「いい爺さんになれますかね?」と悩む古川に「いい爺さんなんてつまらない。面白い爺さんになりなさい」という愛子の一言はズバリすぎる。劇中で愛子は孫娘と撮った年賀状を見せるのだが、毎回コスプレしてる。幼稚園児とかメイドさんとか落ち武者(?)。実際の佐藤愛子がやってたことで毎回凝りに凝った本格的なコスプレに「どうせやるんだから本気でやらないと面白くないでしょうが」ってまったくその通り。演じている草笛光子もチャーミングな偏屈婆さんを好演していて嫌味がない。

 偏屈な中に世間を斜めに見ちゃうユーモアさがあることが佐藤愛子を長生きさせてる理由かもしれない。なにしろ作家であった父親の享年76歳を超え、今年で100歳を迎えた!

 古川みたいに真面目に仕事してたって家族と不和になるんだから、仕事なんかしたって無駄!面白おかしく生きた方がマシ!えっそういう話じゃない?

 

 佐藤愛子のエッセイには心霊についての話とかも出てくるんだけど映画ではバッサリカットされていて正解!オカルトは人を幸せにしないもんな。冒頭で相談していた木村多江が古川の妻だとわかる展開も意表を突いていて最高だ。

 

 何かと嫌われがちな老害さんにはない憤怒とユーモアがあっておかしくてたまらない映画だ。ちなみに佐藤愛子の好きな食べ物は「分厚いステーキ」だという。100歳で?こりゃあ200歳まで生きそうだわ。

 

 

 

 

 

消えるミニシアター シネマート心斎橋閉館

 ミニシアターの閉館、再編が続く中、関西のミニシアターがまたひとつ消える。

 

 

 

 心斎橋ビッグステップのミニシアター、シネマート心斎橋が10月で閉館。

 

 1993年、複合商業施設ビッグステップの開業に合わせて同施設4Fにパラダイスシネマがオープン。支配人は大阪で初めて映画興行館を設立、カラー映画を誕生させた帝国キネマ演芸会社の設立者、山川吉太郎の孫、山川暉雄。

 2000年に経営が日本ヘラルドの子会社、ヘラルド・エンタープライズに譲渡され、館名をパラダイススクエアと改める。ヘラルドは梅田スカイビルのミニシアター、梅田ガーデンシネマ(現テアトル梅田)も経営しており、同系列の作品を梅田と心斎橋で鑑賞できた。

 

 2006年にはさらにエスピーオーに経営譲渡され現在のシネマート心斎橋としてスタート。パラダイススクエア時代からアジア系の映画やヨーロッパのアート系映画を推すミニシアターでミニシアターファンには大変重宝されていた。

 今回の閉館によって難波のミニシアターは消滅することになる。旧テアトルが閉館した時はシネ・リーブルという受け皿があったけど、難波にはもうない。心斎橋の映画館はパルコにあるシネコン、イオンシネマ シアタス心斎橋だけなのであそこがミニシアター系を引き取ってくれそうには思えない。

 

 心斎橋には昔、シネマ・ドゥというミニシアターがあった。ソニータワーの地下にある映画館でソニー直営のフルオート上映、サウンドシステム、そして全席カップルシートが売りの超オシャレミニシアター。そこでジョン・カーペンターのSF西部劇『ゴースト・オブ・マーズ』を観たことは忘れられない。数人ほどの客が全員ソロ客カップルシートをひとりで占拠していた光景を・・・なんでそんなプログラム組むんじゃい!嫌がらせか!?すぐに潰れたのも納得。

 

 以来単独で難波のミニシアターの灯を守り続けてきたシネマート閉館でこれからは梅田まで出ないとミニシアター系は見られないのか。大阪南部民には辛すぎる話だぜ!梅田には扇町キネマとか新しくできたミニシアター系があるのに難波にはミニシアターの灯を燈そうとする映画人はいないのか?

 

 

 

 

 

 

鼻毛の生えた蜂『昆虫怪獣の襲来』

 先日、竹内義和兄貴と5~60年代の怪獣映画はヒドイ!という話をしていて盛り上がる。昨今の怪獣映画は映像技術の発展とともにどんなにヒドイものでもそこそこ観られるレベルになっているけど、昔は本当にヒドイ。技術も無ければ志も低いので観ていられないレベル。にも拘らず好きなな人は見てしまうのだから、ほんにマニアは始末に於けない人種といえよう。

 

 今回ご紹介する『昆虫怪獣の襲来(原題:MONSTER FROM GREEN HELL)』(1958)もそんな一本。

 

 学者のブレイディと助手のモーガンは宇宙放射線が生き物に与える影響を調べるため動物や虫を載せたロケットを飛ばしていた(大金持ちだな)。しかしうち一本が失敗しアフリカのジャングルに墜落。付近にいた蜂が放射能の影響で巨大化し、野生動物や原住民に被害が及ぶ。

 ブレイディらは原住民のために尽力する医師のローレンツの元に向かい事態の収拾にあたろうとするが、彼もまた蜂の毒でこの世を去っていた。医師の愛娘ローナとともに犠牲者の仇を討つべく巨大蜂が潜むグリーン・ヘルに彼らは足を踏み入れる。

 

 巨大蜂の特撮が見ものである。違う意味で。蜂を人間よりもデカいサイズのハリボテで制作したがちっちゃい羽根をバタバタさせてワイヤーで動かす顎で人を挟んだりするぐらい。蜂なのに飛ばないという決定的な弱点を持っているのでうまくやればすぐ倒せるような気がする。バカでかいハリボテの蜂の頭から鼻毛が出ているのが語り草のチープさ。

 

 制作のアル・ジンバリストは超低予算SF『ロボット・モンスター』(ゴリラの着ぐるみに潜水服のヘルメットを被せたやつをロボットと言い張った)、『月のキャットウーマン』(月の裏側に女だけの国家が存在して、男たちを誘惑する。宇宙一高いところにあるキャバクラ)で知られ、やたらと他の作品から映像を使いまわしたり、ジャングルを徘徊する野生動物の映像は全部環境映像からの引用だ。そんなことだから蜂のハリボテもまさにハリボテで、人は襲われるというより自分から襲われに行っているようにしか見えない(低予算ダメ怪獣映画あるある)。

 

 しかも肝心の巨大蜂は最初と最後ぐらいしか出て来ず、ブレイディたちが数百キロの荒野をローレンツ医師の元まで歩いていく時間がやたらと長い!途中で狂暴な原住民に襲われるんだけど、地平線を数百人のヤリと弓を持った男たちが一斉に走ってくる場面は怪獣が出てくる場面よりすごい。

 ローレンツ医師を演じるのはウラジミール・ソコロフ。『誰が為に鐘は鳴る』『荒野の七人』の!一体なぜこんな映画に出ているのか理解できない。

 

 巨大化した生物が人を襲うという話は当時流行っていた『放射能X』あたりに影響されたんだろうけど(女王にあたる生物が群れを統率している展開も同じ)本家をもう少し見習ってほしい。向こうは鼻毛の生えた蟻なんかつくってなかったぞ。

 女王蜂を大量の手りゅう弾でやっつけるんだけど、そこで話が終わらず延々と続く!他の蜂を始末していなかったのだ。しかし武器はもうない。どうする?

 火山が噴火して蜂たちは溶岩の海に沈むのだ。なんじゃそりゃ!いいかげんにしろ!

 

 

 

 

スマホ栄枯盛衰『ブラックベリー』

 今やだれでも持ってるスマートフォン。僕は以前ウィルコム製のAndroidスマホW-ZERO3を持ってた。W-ZERO3は国産初のスマートフォン。まだ日本では今でいうところのガラケーが主流の時代にVGA液晶に無線LANを搭載。インターネットに接続できる「持ち歩くパソコン」!僕が買ったのはコンパクトサイズになったWS007SHでこいつは本体をスライドするとキーボードが出てくる。こいつを駅のホームで電車待ってる間に(わざと大きな音を立てて)スライドさせると周囲が振り返ったもんだ。

 W-ZERO3は国産初だけど、世界で最初のスマートフォン、ブラックベリーの誕生を描いたドキュメントドラマ『ブラックベリー』(2023)を観た(ネットフリックス他で配信中)

 

 1996年カナダ、オンタリオの都市ウォータールー。小さなソフトウェア会社リサーチインモーション(RIM)の共同経営者マイク・ラザリディスとダグラス・フレギンは幼馴染で、二人はやがて携帯端末の未来を変える夢のアイテム「PocketLink」の売り込みに勤しんでいた。電子工学の天才児マイクと技術はピカイチだがコミュニケーション能力が欠如しているオタクのダグラスはまったくプレゼンに向いておらず、マイクは会議室にある通話機が中国製のノイズを発しているのを見て分解して直すし(他人の会社のやつだよ)ダグラスはプレゼンなのに頭にバンダナ、掃き古しのジーンズ、シャツは「DOOM」(笑)。ダメだこいつら!

 当然のごとくプレゼンは失敗するが、投資家のジム・バルシリーは勤めていた会社を首になったことからRIMに移籍してくる。モノづくりの才能はあってもプレゼンが壊滅的なこいつらを俺が引っ張っていくのだ!

 

 RIMの社員はオタクの集団で普段はオンラインゲームばっかりしていて、週末にはムービーナイトと称し『ゼイリブ』を観ている(!)そいつらが時代を変えるスマートフォンを生み出すのだから世の中わからない。なんとなく初期のガイナックスを思わせる。

 バルシリーはPocketLinkのプロトタイプをつくってベルアトランティック社に売り込みにかける。空気が読めないダグラス(本当に空気の読めないオタクの典型でバルシリーをイラつかせる天才)は会社に置いていって、マイクと二人で飛び出すがマイクはタクシーの中でフルーツを手づかみで食べてシャツに染みをつける(・・・)。その上会議室に入ろうとする直前にプロトタイプをタクシーに忘れてしまう(いいかげんにしろ)。

 口八丁手八丁で「こいつは外で電子メールも送れる優れものです!」とハッタリをかますが技術面について説明できないので窮地陥る。その時プロトタイプを取り戻したマイクが登場、データ通信上の問題を克服するアイデアを見事に説明して会議室の面々を唸らせる。

「で、こいつの名称は?」

 まだ決まってない!Pocket Linkなんてダサい名前じゃ売れない。口ごもるバルシリー。その時マイクのシャツのシミが見えた。

「・・・ブラックベリー」

 

 出来過ぎた話!ホントかどうかは怪しいがこうして世界初のスマートフォンは誕生した。瞬く間にブラックベリーは売れまくる。自宅を抵当に入れてまでRIMにかけたバルシリーはたちまち大金持ちに!落ちぶれた元天才少年にしか見えなかったマイクはジェルで決めた髪にスーツ姿も見違えるよう。ダグラスはウルフェンシュタイン(ゲーム)とアレサナ(バンド)のシャツを着ていた・・・お前だけ何もかわってないな!

 

 大躍進するRIMだが、企業から敵対的買収される危機到来。バルシリーはそれを回避するために会社の株価を吊り上げる作戦を思いつく。まずはもっとブラックベリーを売りまくるんだ!マイクとダグラスは「そんなに売ってもネットワークがサポートできない。回線がクラッシュするぞ」と警告する。

 

「それを回避するにはどうしたらいい?」

「腕のいい技術者をそろえるしかない。うちじゃこれ以上は無理。マイクロソフトやグーグルから優秀なエンジニアを引っ張ってきて・・・」

(この時もダグラスが「イド・ソフトウェア」のジョン・カーマック(DOOMの生みの親)を呼べと騒いで呆れられる。空気読め!空気を!)

 

 バルシリーは優秀なエンジニアをそろえた。多額のストックオプションを発行するというやり方で。

「これって合法なの?」合法じゃありません!

 かき集められたエンジニアたちを管理するため「鬼軍曹」チャールズ・パーディが雇われる。

「私がこの船を制御する」

「制御はいらないよ」

 目の前のオフィスではモータル・コンバットのシャツを着たダグラスがふざけて遊んでいた(お前さぁ・・・)

 こうしてオタクたちが自由に振舞う社風は失われる。パーディ役はマイケル・アイアンサイド!まさしく鬼軍曹!

 さらにバルシリーは天才的な売り込みのアイデアを営業マンらに吹き込む。

 

「エリートどもの前でブラックベリーをこれ見よがしに使わせろ。大声で話せ!こいつはどこでもメールが使えるとな!」

 

 携帯端末を所有することをステータスにするという営業とパーディの統率によりデータ障害の問題を解決したRIMは買収の危機を脱する。もはやブラックベリーは無敵。誰も勝てない。そしてやってきた2007年。スティーブ・ジョブスがiPhoneを発表したことで凋落は静かに始まった・・・

 

 

 ブラックベリーの敗因はマイクやバルシリーが自らのブランドを信奉しすぎたことだった。ジョブスのプレゼンやiPhoneのタッチスクリーンを観たマイクは「キーボードのない携帯なんか誰が欲しがるんだ?ブラックベリーにはキーボードがある。独特のクリック音があるんだ!」と声を荒げる。そんなところにこだわってどうする?ユーザーはキーボードがあるから使うのではない。使いやすいから使うのだ。

 傲慢なCEOバルシリーは誰のアドバイスも聞かず、会社の危機を伝える声に耳をふさぎ、ビジネスジェットでホッケーチーム買収に走り回り、その傲慢さ故に失敗する。理事会から追放された彼を待っていたのは米国証券取引委員会(SEC)によるエンジニアを雇うために違法に遡及したストックオプションの調査であった。

 マイクはただ一人のCEOとして(ダグラスはフレンドリーでカジュアルな会社の雰囲気が損なわれたことをきっかけにすでに会社を去っていた)タッチスクリーン型ブラックベリー「ストーム」の開発に着手したが、信用しないとしていた中国の工場へ発注するなど、技術者としてのプライドを捨ててしまったせいか、ストームは不具合、バグだらけでユーザーからの信頼も失ってしまう。

 

 最盛期には全世界で50%に迫る普及率だったブラックベリーのシェアは今0%。栄枯盛衰も極まれり。僕が持っていたW-ZERO3も今はなく、ウィルコムはソフトバンクの子会社になってワイモバイルに改称、2022年に完全に消滅した。

 引き合いに出したガイナックスも社内のトラブル、人材流出を経て衰退、2024年に倒産。オタクはオタクのままではいられないのだ。

 

 中国から届いたストームからブザー音が鳴ってるのを確認したマイクはひとつひとつ手作業でそれを直していく・・・彼はいつまでも電子工学オタクだった。

 ちなみに空気の読めないオタクのダグラスはその後、高値でRIMの株を売り抜けて億万長者に!なんだこいつが勝ち組やん!