ハリウッド版東宝チャンピオンまつり『ゴジラ×コング 新たなる帝国』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

ハリウッド版東宝チャンピオンまつり『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

 東宝映画は1950年代の『七人の侍』『ゴジラ』に端を発する大作路線が成功しホームドラマの松竹、時代劇映画を量産した東映に差をつけていたが60年代に入り映画産業が斜陽化すると「何をやっても当たらない」状態に。稼ぎ頭のゴジラシリーズも打ち止めが囁かれるようになり、徹底した予算縮小が通達され、製作費は全盛期の1/3となり、子供向け路線で人気を博していた「東映まんがまつり」の向こうを張って「東宝チャンピオンまつり」のプログラムの一本としてゴジラシリーズは生き残りを図る。

 こうしてゴジラは日本に存在しない荒野(建物のセットを組む予算がないので)で悪い怪獣と戦う勧善懲悪ヒーロー路線に舵を切り、火を噴いて空を飛んだり(『ゴジラ対ヘドラ』)、アンギラスに「偵察にいけ!」とフキダシで命令したり(『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』)していた。

 旧作の再編集版とこれら低年齢化していき「怪獣プロレス」とも揶揄された「東宝チャンピオン祭り」路線は子供たちの熱狂的な支持とは裏腹に作品自体の評価を下げ(あくまで口うるさい怪獣オタクの間で)シリーズがやがて最初の終焉を迎える。今では再評価が行われているこれらチャンピオン祭り路線も一時期はどうしようもなくダメな時代の象徴として笑いものにされていた。

 今回のハリウッドゴジラ、モンスター・ヴァースシリーズ最新作『ゴジラ×コング 新たなる帝国』はなぜかこの東宝チャンピオンまつり路線に大予算(約200億円)を投じた。

 

前作『ゴジラ×コング』から3年後の世界。コングは地下空洞の世界に帰り、ゴジラは地上の王としてローマのコロッセオを寝床にして叛逆を企てる他の怪獣たちを食らっていた。

 地下空洞のコングは怪獣の様子を管理する組織モナークの監視のもと、失われた同族の姿を求めて旅を続けていた。ある日、虫歯になったコングを獣医のトラッパー(ダン・スティーブンス)が救い、コングはやがて地下空洞の果てで同族の猿たちを発見する。猿たちは暴君スカーキングの元恐怖で縛り付けられていた。スカーキングは冷気を吐く怪獣シーモを操りコングに戦いを仕掛け、コングの右腕を凍傷状態にしてしまう。

 スカーキングらは仲間とシーモを従え、かつて敗北したゴジラに再び戦いを挑み、地上世界への進出を目論んでいた。トラッパーがコング用のパワーアップアイテムとして作り出したビースト・グローブを与えられたコングは自分だけでは倒せないスカーキングらに対抗するため、地上の王ゴジラを呼びに行く。そこに先住民イーウィス族の守り神モスラも復活し、地上最大の決戦が始まる。

 

 虫歯になったコングを人間の道具で治療したり、ミニラみたいなミニコングが出てきたり、コングとゴジラがド付き合いで意思疎通したりと、やっていることは完全に東宝チャンピオンまつり!スカーキングが虫歯の代わりに差し歯にしたコングを見て「こいつ差し歯にしてやがるぜ!」とセリフはなくともそう聞こえるようなリアクションを取り、地上で再開したコングにゴジラが襲い掛かり、「こんなことしてる場合じゃねえ!地球が地球が大ピンチだぜ!」とド付き合いを経て漢同士の魂を揺さぶる共闘関係に至る、ヤンキー映画ばりの「殴りあったやつは大体友達」展開にはいくらなんでもバカバカしいと思いつつも、盛り上がらずにはいられない!

 

 邦画ゴジラがどうしても初代の幻影から逃れられずに『ゴジラ-1.0』とかをやってる中、ハリウッドが東宝チャンピオン祭りをやってしまうとは・・・

 怪獣映画には「人間ドラマが弱い」と指摘されがちなジャンルなので、それに対して「人間の代わりに怪獣がドラマをやればいいじゃない!」という回答を導き出した『ゴジラ×コング 新たなる帝国』は正解です。

 日本もぜひ怪獣プロレス、東宝チャンピオンまつり路線を復古してくれないかな?待ってる。