逃した狐は必ず狩る 強烈な国家のメッセージ『Fox Hunt フォックス・ハント』
惜しまれてないけど閉館した新世界国際劇場で3本立て1000円で見た一本がトニー・レオン主演の『Fox Hunt フォックス・ハント』。実際にあった金融詐欺事件をテーマにした物語。
2012年、中国共産党総書記に選出された習近平は汚職官僚を厳しく摘発する「反腐敗キャンペーン」を推し進める。2014年、その運動の一環として国外に逃亡した金融詐欺犯を追い詰め拘束し帰国させる特別捜査班の作戦をフォックス・ハントと呼んだ。トニー・レオン演じるダイ・イーチェンは投資という名目でかき集めた金で悠々自適な暮らしを送る悪党。捜査の手が伸びるとダイは総資産24億ドルを手に海外へ逃亡。
フランス・パリにて偽名で暮らすダイは資産家として富裕層の仲間入りを果たしていた。数年前にダイを取り逃がしたイエ・ジュン(ドアン・イーホン)はダイを捕らえるべくフォックス・ハントチームのリーダーとして部下二人(大物の逮捕に向かうのにたった3人だけなの)を伴い渡仏。
担当のノエル警部(『96時間』『ベネデッタ』に出てたオリヴィエ・ラブルダン)をはじめパリ警察はなぜか非協力的で引き渡し条約が発効されるまでの96時間以内にダイの資金の流れを突き止めなければならないが、ダイの秘書エルサ(演じるはオルガ・キュリレンコ!)の策略もあり証拠を突き止めることができない。またダイ自身も余裕しゃくしゃくといった態度でフォックス・ハント側を挑発するような動きを見せ、自分が泊っているマンションに「食事に来ないか?」と招き入れるような男(招き入れた後で不法侵入だと訴える狡猾ぶり)。狩られる側には到底見えない。むしろイエらフォックス・ハントチームは迫りくるタイムリミットに怯え、逆に追い詰められていく。狩られるのは自分たちなのか?
トニーは前回主演の『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』に引き続き悪役を優雅さ溢れる役作りで演じ切る。『ゴールド~』は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の中国版といった感じで外連味たっぷりの怪演だったがこちらはいつものトニー・レオン節が炸裂する自然体の演技。リッチ且つゴージャス感をたっぷり披露し、限られた予算・機関・人員で地味に捜査を続けるフォックス・ハント側との対比が決まっている。
地味な足取り捜査モノと思いきや、中盤以降はパリ市街の追跡劇、ド派手なカーチェイス、メトロで展開する大アクション、さらには『ジャガーノート』風の爆弾騒ぎまで起きる贅沢さでフランスで撮影した絵のインパクトも凄まじい。香港だけではこうはいくまい。
トニー・レオンのいい悪役っぷりがクライマックスまで物語を引っ張っていくので最後まで緊張感が持続する。多少やり過ぎ感も否めないし、パリ警察と意思疎通を図るために取る行動が「一緒に酒を飲み交わす」という中国式のやり方で果たしてフランス人はそれで打ち解けるのか?という疑問が・・・
冒頭の方で犯人を捕まえる時、「お前のお袋さんも泣いてるぞ!」とスマホで病床の母親を見せて泣き落としで完落ちさせてるけど・・・・この映画の悪党、人情に脆すぎ!
無事事件は解決するのだけどエンドロールでは
「中国警察公安部は決して国外逃亡犯を逃しません!必ずお縄にします!」
と強烈な大文字のメッセージが映し出されてビックリ!
いくら本当にあった事件の映画化といってもこっちはトニー・レオンの作り込んだ悪役と過剰な演出のアクションに「よくできた話だなあ」と盛り上がってるのに、急にリアルな国家の現実を見せつけないでよ!
ほぼディカプリオなトニーの演技
4月発売
4月予定告知
4月予定
4月11日(土)
『アイドル十戒 ディスクロージャー・デイ其の一』
会場:アワーズルーム
開演:19:00 料金:1500円+1D
出演:竹内義和 しばりやトーマス
サイキックをやってた人と聞いてた人のアイドル談義。情報開示に努めます。
4月14日(火)
『旧シネマパラダイス』
会場:アワーズルーム
開演:20:00 料金:500円+1D
解説:しばりやトーマス
カルトを研究する若人の会。あれから20年、みんな何してた?
4月19日(日)
『オールドスクールカートゥーン VS アニつる』
会場:Barフェーダー
開演:14:00-20:00
料金:2,600yen(1D)
#アニつる 林人生 ブリティッシュバタードッグ アメリカンバッドボーイ ペケキング・テリー しばりやトーマス and more?
#OSC ヒロキチ 柳 AKATUYUTAKA kyon テラマンチャ寺田
共に十数年の歴史をもつ70〜90年代中心のテレビまんがカルチャー偏愛パーティーがここに激突!「俺達が一番おもろい!」なアニつると「古いアニソンは最新型ダンスミュージック」なOSC。なんば紅鶴のグルーヴにOSC戦士は立ち向かえるのか!? っていうか少しメンバー被ってるけど気にするな!
4月21日(火)
『キネマサロン肥後橋』
会場:アワーズルーム
開演:19:30
料金:500円+1D
解説:しばりやトーマス
※終了後YouTuber配信アリ
深夜の映画番組みたいな研究会。追悼企画。
4月23日(木)
『スーパーヒーロートーク』
会場:アワーズルーム
開演:20:00 料金:1500+1D
出演:にしね・ザ・タイガー しばりやトーマス
東映・ニチアサヒーローについて語りすぎるトークライブ。
4月30日(木)
『僕の宗教へようこそ さよなら新世界国際劇場 グラインドハウス終着駅』
会場:キイロイエイ
開演:19:00 料金:1000円+1D
出演:しばりやトーマス アシスタント・トモ
惜しまれてないけど閉館した新世界国際劇場の看板や思い出など
予約↓
非超人の痛みと苦しみ『ザ・クロウ』
1994年公開の映画『クロウ/飛翔伝説』は文字通りの伝説だ。悪漢に自分と恋人を殺された男エリックはカラスの力で甦り、漆黒のコートを翻し、復讐を遂げる・・・暗闇の世界の表現に長けたアレックス・プロヤス監督の演出と主演のブランドン・リーが撮影中に事故死したという悲劇的な背景も含めて唯一無二のダーク・ファンタジーとしてカルト的な評価を受けた『クロウ/飛翔伝説』は続編、TVドラマ化と拡大し2000年代に入ってもリメイクの噂が絶えなかったが企画は立ち上がった数だけ消え続けた。それはオリジナルの1994年版があまりにも完璧な写真すぎたからだろう。続編・リメイクは不可能なのだ。
しかし人間は不可能を可能にしてきた生き物なのだから、エリックは不死鳥ならぬカラスの力で2020年代に蘇った。『ザ・クロウ』として。このリメイクは果たしてオリジナルにどれだけ迫れたのか?
更生施設で薬物依存から立ち直らんとする若者エリック(ビル・スカルスガルド)は施設で出会った女性シェリー(FKAツイッグス)と互いに惹かれ合う。ある日、面会にあらわれた女を見たシェリーは怯えだし「ここから逃げたい」と告げ、エリックは彼女ともに施設から逃亡する。隠れ家に潜んだ二人は自由な日々を謳歌し永遠の愛を誓いあう。しかしシェリーを追って来た謎の男たちによって二人は殺されてしまう。
目が覚めるとエリックは大量のカラスが舞う寂れた場所におり、クロノス(サミ・ブアジラ)と名乗る守り人からここは死者がたどり着く煉獄であると聞かされ、さらに深い地獄の底に落ちて行ったシェリーを救うためには彼女の死に関わる男ローグ(ダニー・ヒューストン)とその仲間を殺さなければならないという。ローグはかつて悪魔と契約し、他人の命を奪うことによって不滅の生を得た存在だ。
エリックは冥界のカラスの力で甦り、どんなに傷つけられても耐えることが出来る肉体を手に入れるが、それはシェリーへの不滅の愛によってもたらされたものなので、その愛に疑問を抱いたりすると効果は失われる。
現世に舞い戻ったエリックはローグの手下たちに裁きを下すが、シェリーが自分の過去を秘密にしていたことから彼女の愛を疑ってしまい、二度目の死を迎える。復活するためにエリックはシェリーの身代わりとして地獄の底に落ちることをクロノスに約束する。再びカラスとの契約は為され、復讐の天使として覚醒したエリックはローグの命を奪うため現世へ舞い戻る。
エリックを演じるビル・スカルスガルドは『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』でも魅せた仕上がり過ぎた肉体美を披露し、ブランドン・リーに負けず劣らずのカリスマ性溢れるクロウ像をアピール。オリジナルと比較して物足りないとサム・ダウン評価を下されがちな本作で唯一、オリジナルと張り合えるのがスカルスガルドの熱演だ。オリジナルを彷彿とさせる黒コートを翻してサムライソード(なぜか劇中、日本のチャンバラ映画を思わせるポスターがあちこちに貼って会って、エリック自身も「永遠の」と日本語のタトゥーを入れている!)を片手に敵が潜むオペラハウスに突入。死なないのをいいことに自分に突き刺さった日本刀でそのまま相手の目ん玉をえぐったり、自分ごとピストルで撃って背後の敵をぶち殺したりと残酷描写で笑わせる!これはオリジナルを上回っているともいえる描写で高評価だ。オリジナルのスーパーヒーロー的な超人アクションと比較しても身体能力は普通の人間と何ら変わらないので、車にはねられるし手下にボコボコに殴られたりもする。普通の人間と同じ、ちょっとだけ頑丈だというスカルスガルドのエリックは超人でないがゆえに普通の観客が彼の心と肉体の痛みを共感できるようになっている。そこがブランドンのエリックとの大きな違いである。
一方で宿敵として立ちはだかるローグのインパクトが弱すぎるのが残念。永遠の命のために他の人間の命を無駄に奪うという設定だが、いちいち他人を操って人殺しをさせるとか、七面倒臭い手段をなぜとっているのか。殺しの証拠をスマホに取られるわ、そいつを手下に始末させるも失敗してたりとか、長命なのにハイテクに対応できてないのは致命的だろう。オペラハウスの大虐殺で観客のテンションが一気に盛り上がるのに、ローグとの対決は全然盛り上がらなくてハトヤの三段逆スライド方式じゃないちゅうの!
オリジナルに匹敵できなかったのは仕方ないけれど、スカルスガルドの熱演に免じて及第点ってところですよ。
偉大なオリジナル
続編シリーズ
進化への脱獄『マーズ・エクスプレス』
フランスの長編アニメーション『マーズ・エクスプレス』は日本のSFアニメ『攻殻機動隊』やサイバーパンクの古典『ブレードランナー』に影響を受け、ハードボイルドやフィルム・ノワールのオマージュを感じさせる作品。23世紀を舞台に私立探偵と相棒のアンドロイドがAIを巡る陰謀に巻き込まれる
私立探偵のアリーヌと相棒のアンドロイド・カルロス(死んだ人間の人格をAIとして再現している)は地球で暗躍するハッカーのロベルタを捕らえ、火星まで移送する。しかし火星の首都ノクティスに到着するとロベルタの犯罪歴は消去されており、保釈されてしまう。アリーヌの雇い主で大企業のCEO、クリス・ロイジャッカーは「もう忘れろ」と依頼そのものをなかったことにする。
アリーヌらは休暇中に別の依頼を受ける。女子学生ジュン・チョウの行方を捜して欲しいという父親からの依頼だ。ジュンはサイバネティクス工学の生徒で、ロボットを違法にハッキングして「脱獄」させた容疑をかけられルームメイトのドミニクとともに姿を消していた。
学生寮のジュンの部屋からは記憶力を向上させる違法薬物ガンマとドミニクの遺体が隠されていた。警察の情報を受け「脱獄」したロボットが逃げ込んだ地下廃棄施設を探るとロボットは強化人間によってバラバラにされており、地下の奥で廃棄物を利用して宇宙船をつくって外宇宙へ逃亡しようとしていたこともわかるが、なぜロボットがそのようなことをするのか、杳として知れなかった。
二人はジュンの居場所を探り当て、彼女が学費と実家への仕送りを稼ぐため自分のレプリカをつくり、売春婦として働かせていたことを知る。ジュンを連れ帰ろうとするも強化人間の襲撃を受けレプリカは破壊、ジュンも殺されてしまう。この一件で断っていた飲酒を再開し再び依存症に陥ってしまうアリーヌをカルロスは立ち直らせようとするがうまくいかない。
ジュンの葬儀に参加した二人は最初に仕事を依頼した「ジュンの父親」が全くの別人であることを知り愕然とする。自分たちはジュン殺害犯に彼女の居場所を教えてしまったことを知り後悔に苛まれ、真犯人を探し出すことに。再びロベルタに接触した二人はジュンがロボットを「脱獄」させた技術は、「ソフトウェア・テイクオーバー」という高度な技術であり、一介の学生であるジュンがそのような技術を使うことは不可能であり、事件の首謀者がロイジャッカーであることを突き止める。アリーヌらは事の真相を確かめるためロイジャッカー邸に向かうが・・・
探偵モノのフォーマットを用いながら女性主人公というのが良いな。「女性探偵モノ」というのはあまりうまくいかないことが多いので作品自体が珍しく、また傑作となるとP.D.ジェイムズの『女には向かない職業』とか限られてしまう(女には向かない職業っていうぐらいだし)。監督のジェレミー・ペランがあえて女性主人公による探偵モノに挑戦しているのが面白い。実写なら無理があってもアニメーションなら女性主人公でも大丈夫だろうという判断や良し(もちろん『攻殻機動隊 』の草薙素子をイメージしてるってのもあるんだろけど)。
人間とAIに関する問題というさんざん擦られてきた話題にも拘らず、全く古臭くないしありきたりというわけでもない。独自のアレンジがなされているのが印象深い。
ロボットの反乱が描かれるクライマックスも秩序の崩壊ではなく人類の進化を貴ぶ希望に満ちたラストに繋がっているのは感動的。壮大な物語を90分というランニングタイムにまとめた手腕も見事で恐るべき才能がフランスから現れたと驚愕するしかない。
SFアニメーションの新たな未来を切り開いと言えるので見逃すな。
そのパロディ
元ネタのひとつ
本当の自分になりたい カッコよさとは無縁の世界『クライム101』
凄腕の宝石泥棒デーヴィス(クリス・ヘムズワース)は金持ちからしか盗まない(保険が効くので盗まれても困らない)、アメリカ西海岸を走る国道101号線を逃走ルートに使う、決して誰も傷つけない・・・独自のルールを課して数年もの間、生き延びてきた犯罪者だ。
雷神ソーを演じたスーパーヒーローが扮する完全無欠のアウトローと聞くだけで痺れるような設定だが冒頭の展開で軽く鵜新城られる。
いつものように完璧な宝石強奪計画を立てるが、逃走前に一発の銃弾が顔をかすめる。その場は無事逃げ出して(すさまじいドライビング・テクニックを発揮して)強奪計画は成功するのだが、一発撃たれたことでビビったデーヴィスは強奪品の情報を提供する盗品業者マネー(ニック・ノルティ)からの依頼を断るようになる。一発撃たれただけでビビるなよ!マネーは代わりに若手で気性の荒いバイカー強盗オーモン(バリー・コーガン)に宝石店襲撃をやらせる。オーモンはデーヴィスほど洗練されてないので平気で暴力をふるいまくり、触るものみな傷つけて強盗を完遂する。
こんな横暴を警察が許すはずもないのだが、腐敗しきっているLAの警察はまったく役に立たない。だが検挙率最低でお荷物扱いされているロートルのルー警部(マーク・ラファロ)は一連の事件を同一犯による連続犯罪と嗅ぎ付け、オーモンの強盗を「手口が乱暴すぎる。別人の模倣犯だ」と見抜くが誰にも相手にされない。マイティ・ソーと超人ハルクの息詰まる対決が今、始まる!
デーヴィスは保険ブローカーのシャロン・クームス(ハル・ベリー)の情報をハッカーを通じて入手。シャロンは11年もの間会社で好成績を出してきたが昇進を見送られ、若手が資産家モンローとの大型契約を成立させ、ますます居場所がないのを知り、接近した上で宝石強盗の身分を明かし、ダメージを与えてやれとそそのかし、モンローの取引の情報を渡すよう持ち帰るが、そこまで落ちぶれてないとシャロンは決別する。
少しずつデーヴィスの影に迫りつつあるルー警部は私生活では女房と別れ、仕事では宝石強盗(デーヴィスとは無関係)の現場で同僚が犯人を射殺した挙句「犯人が銃口を向けてきた」と偽装、現場にいた相棒までが偽装に加担する中「発砲の必要はなかった」と同調しなかったため休職を余儀なくされる。
シャロンもルーも人生に行き詰っている。そしてデーヴィスもまたどんなに宝石強盗で成功して巨万の富を手に入れても自分に自信が持てない、それでいて高級なスーツで着飾り、高い車を乗り回して成功者のステータスを手に入れなければ社会になじめない。本当の自分を受け入れてくれる人間はどこにもいない。そんな3人が自分自身でいられるためにひとつの犯罪によって結び付けられる。
宣伝で犯罪アクション映画の傑作『ヒート』に準えていたけれど、『ヒート』よりもっと悲しい人間の生きざまを見つめ直させられる話で、原作がドン・ウィンズロウ(ニール・ケアリーシリーズの!)と聞いて納得した。
アウトローのカッコよさからは縁遠い話なのでしんみりしちゃったな。そういう映画だと思って見に行くと痛い目に遭うのでご注意を。
元の原作本
監督の代表作








