子供は小さな怪獣だ『ULTRAMAN:RISING』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

子供は小さな怪獣だ『ULTRAMAN:RISING』

 円谷プロが世界に誇る巨大特撮ヒーロー、ウルトラマンを『スター・ウォーズ』でおなじみインダストリアル・ライト&マジック(ILM)が制作したCGアニメのアメリカン・ウルトラマンが『ULTRAMAN:RISING』だ(ネットフリックスで配信中)。

 アメリカ製ウルトラマンというと『ウルトラマンUSA』やら『ウルトラマンパワード』やら、あまりいい思い出がないのだけど、今回のライジングは中々の傑作なのだった。なにしろ、怪獣を倒す話ではないのだから。

 

 メジャーリーガーとして大活躍中の日本人選手サトウ・ケンはとある事情で日本に帰国しなければならなくなったため、日本のプロ野球団である読売ジャイアンツに移籍する。何でジャイアンツなのかというとケンの正体はウルトラマンで、つまり「巨人」ってワケ。

 日本に現れた怪獣を退治しなくてはならないためにかつてウルトラマンだった(!)父親のサトウ教授によって呼び戻されたのだ。

 ケンと父親は母親・エミコの失踪事件をきっかけに仲たがいしたこともあり、帰国しても顔すら会わせない。普段は豪邸に身の回りを世話するAI、ミナと暮らしているケンは入団するなり「俺がチームを優勝させますよ!」とぶち上げて、だから好きなようにやらせろと落合も真っ青のオレ流宣言。

 

 帰国したケンを待っていたのは翼竜タイプの巨大怪獣ジャイガントロン。なんとかジャイガントロンを倒すものの、怪獣は一個の卵を抱えていた。そこからジャイガントロンの子供が誕生する。刷り込みによって最初に目にしたウルトラマン=ケンのことを母親と勘違いする。こうしてケンはウルトラマンとして怪獣を倒しつつ、プロ野球選手、さらに怪獣の子供エミの子育てをする三重生活を押し付けられる。

 

 そしてケンは三重生活のすべてを破綻させる。慣れない子育てはまったくうまくいかず、ウルトラマンとしてはドジばかり踏み、疲労と怪我のせいで野球の成績も下降し、ついには監督からトレードを示唆されぶち切れ。

 

「俺をトレードするだって!タイガースに?タイガースにだぞ!俺を誰だと思ってる!」

 

 おいおい、聞き捨てならねえな(怒)ちなみにこの世界のタイガースはドラゴンズとゲーム差なしの最下位です(泣)。

スワローズが一位はねえだろ

 

 にっちもさっちもいかなくなったケンは取材で出会ったシングルマザーのジャーナリスト、アミに相談する。アミは「子供を小さな怪獣のようなもの」としながら「気づきも与えてくれる」存在だと。野球ではスーパースターでウルトラマンとして人類のヒーローだったケンははじめて自分が何もできないちっぽけな存在だと気づき、疎遠になっていた父親と再会を果たし、若手の指導に熱心になりチームに溶け込んでいく。子育ても上手くいくようになり、チームの成績も上昇。すべてがうまくいき初めていたころ、死んだと思っていたジャイガントロンが生きていたことがわかり、怪獣防衛隊の科学者、オンダ博士はエミの回収に目論む。オンダ博士の目的が怪獣たちが暮らす幻の島「怪獣島」の発見と怪獣たちの撲滅にあると知り、ケンはエミと怪獣たちを守ろうとする。

 

 ストップ・モーションアニメの『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』で原案を担当したデザイナーのシャノン・ティンドルとジョン・アオシマの共同監督で二人ともガチガチのウルトラ・ファンなのでエミのデザインがベムラーの初期案に近かったり、今回のウルトラマンはエヴァンゲリオンみたいな細身のスタイルだが、目の色はアメリカンウルトラマンのパワードと同じ青色だったりと過去作から心憎いオマージュが散りばめられてる。

 

 戦わずに怪獣を守ろうとするコンセプトは『ウルトラマンコスモス』風で、子育てとヒーローの二面を持つ主役は『ウルトラマンブレーザー』っぽくもある。アメリカらしさを感じるのはブレーザーがほぼ子育ては母親にまかせっきりみたいだったのに、こっちはシングルファーザーなので子育ては一人なのだ。

 子供だったケンは父親の葛藤や苦しみを知ろうとしなかったが、子育てを経験して父親になることで教授の事が理解できるようになり、人間としてヒーローとして成長する。

対立するオンダ博士はウルトラマンと怪獣の戦いによって被害を受け、妻と子供を失う。そのことで怪獣を憎むようになる。怪獣によって家庭が破壊されたのは博士もケンも同じで。二人は表裏一体。オンダ博士の不幸は怪獣にもまた親と子の関係があることを理解しなかったということだ。

 メインの登場人物がすべて「親と子の関係」の中にいる設定は秀逸で、クライマックスの「共演」もファンは盛り上がること間違いなし。

 山田裕貴、早見あかり、小日向文世、恒松あゆみらの声の演技も素晴らしく、本職の立木文彦は圧倒的。ウルトラファンには嬉しい桜井浩子、青柳尊哉のゲスト出演も。

 

 どの世代が見ても盛り上がれる内容として完璧なウルトラマンで、もうアニメだとか特撮だとか一切気にしないで観られる傑作。きっと続編もあるので期待。

 続編ではタイガースを優勝させて欲しい。