このイカれた世界にようこそ『マッドマックス:フュリオサ』 | しばりやトーマスの斜陽産業・続

このイカれた世界にようこそ『マッドマックス:フュリオサ』

 マッドマックス・サーガの開幕となる『マッドマックス:フュリオサ』は前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚でありイモータン・ジョーが支配するシタデルの大隊長フュリオサが如何にしてこの立場につき、ジョーの妻たちを連れ脱走するまでの過程が描かれる。 

 

 少女時代のフュリオサは崩壊した世界の中でも実りのある「緑の地」に家族や仲間たちとひっそりと暮らしていたが、狂気のバイカー集団、バイカー・ホードに捕まってしまう。

 少女といってもマッドマックス世界なのでむくつけき男たちに捉われてメソメソ泣いたりはしない。隙を見て男たちをナイフで切りつけたり、バイクのホースを嚙み切って(!)動かなくしたりと後の大隊長の姿が想像できそうな野生味少女。その後ろを母親のメリー(チャーリー・フレイザー)がバイクで尾行する。娘を取り戻すのと同時に「緑の地」の所在を誰にも知られてはならないからだ。母ちゃんもライフルでバイカーをぶち殺す凄腕だ。

 

 一昼夜にわたる追跡の果てにフュリオサはバイカー・ホードの頭目ディメンタス(クリス・ヘムズワース)に面通しされる。緑の地を知った彼は略奪の準備を始めるが、夜に乗じて侵入したメリーがフュリオサを救出。

 メリーは追手から娘を助けるために「振り返らず走れ」と命じるが銃声を聞いて戻ってしまう。フュリオサが見たものはディメンタスにむごたらしく処刑される母の姿だった。

 ディメンタスの失われた息子の代わりにされたフュリオサはバイカー・ホードの一員にされる。旅に出た集団はシタデル(砦)を支配する悪漢イモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)に挑戦し、シタデルを渡すよう迫るがジョーの手駒である命知らずのウォー・ボーイズの「俺を見ろ!」特攻の前に撤退を余儀なくされるがジョーの支配地である石油精製所ガスタウンを狡猾な手段で手に入れる。ディメンタスはビジネスの取引としてフュリオサをジョーに引き渡すことになる。ジョーの元でフュリオサは工場で働く地位を手に入れ、母の仇ディメンタスへの復讐の機会をうかがうのだった。

 

 

 少女時代→ビジネスの取引につかわれる という前半の弱弱しい定番の「守られるヒロイン」の立場から一転、武器やら車両やらをつくる工場で働く地位を手に入れたフュリオサは男も顔負けの大活躍で燃料を運ぶウォー・タンクを乗り回し、襲撃者を容赦なくぶちのめす。傷つけられたところで屁でもねえと啖呵を切り、脱出するために片腕まで切り落とす!「戦う女」の勇ましさを目に焼き付けろといわんばかり。シャーリーズ・セロンに代わりフュリオサを演じたアニャ・テイラー・ジョイは今まで演じてきたイメージを覆す八面六臂の大活躍。

 彼女同様、これまでのイメージを覆すのがディメンタス役のクリス・ヘムズワースで、彼は出演する度に体をデカくしたり、激やせしたりしてきたが、今回はイカれたチンピラ集団のボスという知能指数の低そうな暴れん坊を好演。別にカリスマ性があるとかではなく、本当になんでボスになれたのかもよくわからない。ものすごくわかりやすそうな性格をしていて、最初は流れのジプシー集団を率いているからバイクに乗ってるが、ジョーのガスタウンやバレットファームを奪って地に腰を落ち着けると『ベン・ハー』みたいなチャリオットや、バカでかいモンスタートラックに乗って「俺は皇帝だ!」とかやるの。わかりやすい!

 

 対抗するイモータン・ジョーも前作では「荒野のカリスマ」ぶっていたが、今回はディメンタスの見え見えの作戦に平気で引っかかったりしてこいつら・・・タダのアホなのでは?と思わせる描写がいっぱい。ディメンタスは勢いでガスタウン、バレットファームと支配地を広げるけど、維持したり部下を統率する能力が欠けているので全部失ってるし(まだジョーの手下たちがすぐれているのがわかる)。

 

 全体的に崩壊した世界の男たちはバカばっかり!といった具合で、必然的にフュリオサのカッコよさが目立つように。そもそもマッドマックス・サーガの主役はフュリオサだもんな。前作のタイトルの原題『Mad Max: Fury Road』「怒りの道」って意味だけどありゃ「フュリオサの道」とも読めるので本当の主人公はフュリオサなんだよな。だから男がダサくてバカばかりなのは仕方がない。

 クライマックスにジョーとディメンタスが全面戦争になる場面で車のないフュリオサに「まだこいつがあるぜ!」と出してくるのが三輪しかない四輪車で、こいつをどう使って突撃するんだ!?とワクワクしてたら移動するのに使っただけでジョーの息子スクロータスのクランキー・ブラックを奪いとって突撃していた。じゃああの車はなんだったんだよ!?そのクランキー・ブラックも銛を打ち出す装備があるのに最後まで使われなかった(なんで)

 

 イカれた男とイカれた車、そしてイカれた世界を二度も提供してくれたジョージ・ミラー御大、あんた最高にイカれてるぜ!