アマゾンプライムで故アラン・パーカー監督のブラックすぎるコメディ『ケロッグ博士』が配信されていたので観た。ケロッグ・コーンフレークを開発した(今日伝わっているコーンフレークは弟のウィルが考案したんだけど)ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ博士が院長を務める療養所で博士が提唱する特殊な健康法に振り回される患者と療養所の顛末を描いている。
1900年代初頭。ミシガン州のバトルクリーク療養所を開設していた医学博士ケロッグ(アンソニー・ホプキンス)はそこで独自の理論に基づいた健康法を患者たちに実践させていた。そこに二人の夫婦が患者としてやってくる。ウィリアム(マシュー・ブロデリック)とエレナ(ブリジット・フォンダ)のライトボディ夫妻だ。ウィリアムは青白い顔で療養所に向かう列車の中でもまともにものが食べられず、水と何も塗ってないトーストしか口にできず、嘔吐を繰り返す。実はアルコール中毒でセックス中毒のダブルパンチに苛まれていて、ケロッグ博士の健康法を信奉している妻エレナに強引に連れて来られたのだ。
ケロッグに舌を見られただけで車いすに乗せられるウィリアム。「車いすなんて死にかけの老人しか乗らないよ!」と抗議しても「あんたは死にかけですよ!」と聞く耳持たず。夫婦は離れた部屋に入院させられて、日中会うこともできないのが不満なウィリアム。
看護婦グレーブス(トレイシー・リンド)を宛がわれたウィリアムは博士の健康法のひとつである浣腸をさせられる。一日に五回も!博士の健康法は肉を食うな、浣腸をしろ(便を見れば健康かどうかわかる)、性欲を持つな!の三つ。だから病院食として植物性のグラノーラを食べさせていた。
ウィリアムは毎日浣腸、博士考案の健康器具(ランニングマシーンの原型みたいなやつ)を強制させられ、電気風呂に入れられるが、その様子はほとんど拷問。一方エレナはミルク風呂に漬かっていた。
博士は極端な禁欲主義を貫いていて、「勃起すれば命の危険!」を提唱してセックス中毒のウィリアムが勃起する度にお怒り。こんなこと言うと禁欲を患者に押し付けて、裏ではやりまくってたんじゃないの?と思われそうだが博士は自分自身も禁欲主義を貫いてマスターベーションすらしない!(その代わりにセルフ浣腸をしている)何しろ奥さんとも性交渉しなかったぐらい!博士は生涯42人の孤児を育てたという。そのうちのひとりジョージ(ダナ・カーヴィ)は療養所で働いているけど、どうしようもないボンクラ役立たずで親父から金をせびることしか知らない。ジョージは汚い身なりでやってきて、ミルク風呂に漬かってるエレナをレイプしようとして追い回される。
ジョージは子供のころから変わり者で、上着をいつもその辺に捨ててしまうので、博士はしつけとして「外から帰ってきたら上着はきちんとフックにかけろ」と𠮟り、できるようになるまでメイドに見張らせる。朝から夕方までやってろ!というとジョージは延々とみんなが寝ている深夜までそれを繰り返す!おそらく一種のアスペルガー症候群の様なものだと思われるが、そんな病名も理解されてなかった時代なので、ジョージは博士からイカれた役立たず扱いされている。
映画には描写されてないが、当時の無茶苦茶な社会を証明するのが博士の弟、ウィルの幼少時のエピソード。ウィルは視力が弱かったというだけで将来はロクな人間にならんだろうと言われ、まともな教育を受けさせてもらえなかった!だから療養所でグラノーラを作る仕事だけをさせられていたのだが、博士は何の役にも立たんお前も使ってあげていた、とイイことをしているつもりだったのがキツイ。その過程で偶然コーンフレークを開発したウィルは商品化してビジネス展開しようとしたが、博士は医学博士を名乗る人間が商売なんてできん!と商品化をずっと拒んでいた。
療養所が火災で焼失すると、ウィルは再建のための札束を手渡した。コーンフレークの商品化権利を手放すことと引き換えに(ウィルはコーンフレークのレシピで銀行の融資を受けていた)。その時も博士は
「役立たずのお前がビジネスで成功するものか。一年で会社はつぶれる!」
と、金を受け取りながら吐き捨てた。どんだけ弟のこと嫌いなの?
ウィルの創立したケロッグ・コーンフレーク社は瞬く間に成長し、ライバル企業を押しのけてナンバーワンに。それが気に入らない博士は「会社の名前にケロッグをつけているのは権利侵害だ」とか理由をつけて裁判に持ち込んだ。長年にわたる法廷闘争の末、ウィルが勝利し博士は表舞台から消え去るのだった。
映画におけるジョージのキャラクターは明らかに博士が差別した弟ウィルをイメージしている。ウィルは健康食コーンフレークの新会社を作ろうとする野心の塊なビジネスマン、チャールズ(ジョン・キューザック)と手を組んでコーンフレークを作るが、全くうまくいかない。
拷問紛いの治療を受けるウィリアムはエレナに家に帰ろうというが、快適な治療に満足しているエレナは相手にしない。患者友達が博士の禁欲主義をバカにして、「博士はEDで、だから禁欲しろって言ってるだけよ」と笑ってるのを見て、益々頑なになり、毛皮を着た下品なおばさんに「これは動物の血よ!」ワインをぶちまけるのだった。
次第に療養所の実態が明らかになる。酷使された部下が突然死すると博士は「そりゃあ、お前をこき使ったかもしれんが、こんなことで死なれたら療養所の名前に傷がつく」と死体を蹴り飛ばす。電気風呂のパワーを上げすぎたせいでロシア人の患者、ナナシスキー氏(誰も名前を知らないし、ロシア語が分からないので会話ができない)と機械を操作していた職員が感電死。
人が死んでも誰も何とも思わない。職員たちは安月給でこき使われているだけ。博士の極端な健康法の犠牲になっているのを見たウィリアムは禁じていた酒を飲んで大荒れ。「処置が必要だ」と博士に腸を切り取られる。一方、エレナは博士と対立している菜食主義者のライオネル・バジャー博士(コルム・ミーニィ)と「クリトリスをナデナデしたら健康になります」という謎の健康法を提唱するヴォ―ゲル博士(ノーバート・ワイザー)の疑似科学も真っ青な治療を真に受けて快感に喘いでいた。バジャーはそれを見て自慰行為に耽っている。その様子を発見したウィリアムは怒り狂う。エレナは「これは健康法なのよ!」としょうもない言い訳をする。
妻に喜びを与えられなかった夫ウィリアムは謝罪、二人は仲直りし療養所を去ろうとする。だがその頃療養所でセルフ浣腸していた博士の元にジョージが現れ、火を放つのだった。
全編にわたって浣腸、ゲロ、セックスが展開する下ネタオンパレード映画で『ソドムの市』も真っ青なこの世の地獄と思いきや、アラン・パーカーはコメディとして撮っていてあっちもこっちも爆笑の嵐。ホプキンスやブロデリックが大真面目に浣腸器や自動オナニーマシーンを装着する様に腹がよじれる。
公開当時は大不評で興行的にも失敗したそうだが、日本では我らが淀川長治先生が大絶賛し、キネマ旬報アンケートのベスト1に選んでいたので、先生、さすがです!やっぱり浣腸とかにそそられたのかな・・・最後に淀川先生の『ケロッグ博士』に関する名文を載せておきましょう。
オジサン族全員全裸で電気治療を受けての全裸のお尻のブルンブルン。これをアップ移動キャメラで見せるすさまじさ。その他オトコ、オンナの全裸にヒゲの男のフンドシ姿も続々。ウンコとカンチョウと男のあそこが立つ治療。映画美術の中に見るこのお遊び。見て見て笑いたまえ。ことし一番のケッサクよ!