Halloween!Commando☆2021 -4ページ目




 それは掌に乗るほどの冷たいクリスタルの球体で一見漆黒にみえるけれど、光に透かせば濃いルビーレッドに影を落とす。


 あかい血のいろのように夕陽に染まるのを、ゆっくり眺めるのも楽しい。
 がらんとした何も無い部屋にたったひとつだけ在る。


 それと暮らすようになって、ようやく殺風景な景色が華やいだ気がした。
 何ひとつない、から、たったひとつ、に
 その変化が何よりも生活を激変させた。


 たとえ言葉を交わすことができなくても、それはいつも饒舌に語りかけているようで退屈に倦むことも抱えていた孤独に苛まれることもなくなった。
 美しいその漆黒を守るように、傍にいれさえすれば。


 そんなかわりばえのないの無い日常の中、新月の真夜中にだけそれはさらりと球形を解く。
 ゆっくりと伸びをするように、四肢を伸ばし背を撓らせ、やがて美しい毛並みの大型の獣の姿になる。
 鬣は漆黒、丸い瞳も黒で、体毛は黒にみえるが不思議な色に変化してなにいろとも言い難い。

ネコ科の動物特有の力強い後ろ足、大きな犬歯と鋭い裂肉歯を持ち、短く大きい顎は肉食獣らしい力強さを窺わせる。けして飼いならされることなどない野生の獣はのんびりと寛ぐかのように冷たい床に横たわりこちらをみている。
 美しい、愛おしい獣はけしてここから出てゆくことはなく、じっとみつめるだけだ。


 傍にいて欲しいと、そのほかはなにもいらないと、そう望んだから、それを獣は叶えてくれた。
 
 なんて簡単なことなのだろうと、日々苦しむものを笑いたくもなるのだ。
 望みはたったひとつだけ。
 それ以外はなにもいらない。
 全部とひきかえにすればそれで願いは叶うというのに。


 そうして幸せになった僕は来る日も来る日も
 その美しい漆黒だけを抱きしめて、
 それ以外なにひとつみることも触れることもなく、ただ永遠を過ごす。
 新月の夜をささやかな祝祭として。













commando Blue









「これといった悪さをしないから、そいつはどちらかといえば馬鹿にされている妖怪の類だ。
 特徴は大きな目玉がひとつ、子供のように小柄で手には豆腐を持っている、提灯を持っている場合もある」


 淡い灯火の向こう、ずいぶんと抑揚の無い声が呟く。


「日本古来の妖怪のひとつだねえ」
 今度はのんびりと間延びした声、話にはあまり興味がなさそうだ。
「豆腐って、豆腐? へんなの」
 子供のように高い声がくすくすと笑う。


 部屋は暗く、丸い卓には小さな蝋燭の灯りがひとつだけがともされていて、そのまわりにはぼんやりと人影がある。数は判然としない。


「でもおれがみたのは何も持ってはいなかった」
 今度の声はもっとずっと強い口調で、その瞬間、ゆらりと卓の炎が揺れる。
「大きな目がひとつじろりと睨んだ。まるで地獄の中みたいな真っ赤な目だった」
「───怖い…、そんなのにあったら僕、動けなくなってしまうよ」
 ふるえるような、どこかあどけないけれど少年らしいその声は小さく語尾すら掠れさせる。
「絵草子に描かれているような、一つ目小僧にはなかなかお目にかかれるものでもないしな」
 あいかわらず声は平坦で馬鹿にでもしているかのような口調にすら聞える。そんなものはいないとでも言いたげな。


「だから、真面目に聞くっていうから話したんだろうが!!別におれは聞いてくれとか言ってない!
 化け物かもわからないから気になって調べようとしてただけで…」


「それでいつもは寄り付かない図書館に入り浸っていたんだ!? だからみんな心配したのさ。
 どうかしちゃったんじゃないかって」
「どうもしていないし、本当にみたんだ!!」
「何処で?」


「…山、校舎の裏に、小さい離れがあるだろう?あの裏山だ」


さっきまで強い調子で続けられた声が、ひそりと囁く。
「細い雨が降ってた、離れの裏口から出たところで何かいる気配がして…
 山の方を振りかえったら、そこに立ってた。
 誰か居る、って思ったけれどそれはよくみたらひとつしか目がない、大きな目がじろりと」
あれは化け物だろう?あんなものをみちまっておれは…
声は弱々しく続ける。


「おまえはいつもうざいくらいに威張っているくせに、気が小さいからな」
「うるさい!!気が小さくなんてない…」
「小さいよね、お化けだけじゃなくてジェットコースターも嫌いじゃん」
「真っ暗も嫌い、電気消して眠れないし」
「大きい外人も嫌いって、英会話の先生からも逃げ回ってたじゃん」
「それは英語が怖かったんだよ」
周りからは揶揄する声が口々にかけられていく。
反論する声は上がらない。


「まあ、待て。こいつが臆病なことは周知だが、今度のことはそれだけが原因じゃないんだろう。
 本当にそんなものに会ったから、これほど怯えているんじゃないか?」
確かめるように声が問い掛ける。
暫し静かになった場にはゆらゆらと蝋燭の炎だけが揺らめいている。


「───ほんとうだ、見間違いなんかじゃない
 あかい、冷たい目だ。なにもみていないみたいで、でもおれをみたのはわかった」


しん、と静まる空気が冷たく降り積もろうとでもするかのように続くのを
切り裂くように


「今度雨が降ったら、俺達で確かめに行く。
 怖かったらおまえは待っていればいい、正体を掴んできてやるから」


きっぱりと告げられた言葉にあっさりとそれは破られる。
「ええ?雨の日は外に出たくないのに?」
「おもしろいね、絶対行く!!」
「豆腐、持ってるかな?豆腐!!」
ざわざわと始まるおしゃべりでいつも通りの喧騒が戻る。


「俺も、行く」


小さな声に気づいたのはじっとみていたたった一人だけだった。


「無理しなくてもいい」


静かな声は感情のないものではなくなっていた、そっと宥めるような。


「いや、行く。自分の目で確かめたい」


そうか、と呟いてそれ以上は言い募ることはなかった。



仲間たちのおしゃべりがあちこちにとび、やがて蝋燭が燃え尽きこの会がお開きになった。
あらためてぱちりと明るい照明が灯され、三々五々集まったものたちも散っていく。


ひっそりと残された彼の耳元で零されたのは


「どうして、あの山になんて行った?あの建物はたしか和室があるだけだろう?」
おまえには用なんてないはずだ…


答えられないで黙った彼になぜか相手は不機嫌で、
今日一番の冷たい態度で去っていくそれが彼には不可解だった。








commando Blue

Halloween!Commando☆



男は 塔の入り口に立ち そっとあたりをみまわした。

たぶんそのあたりにいるのだろうが、今はまだ何もみえない。

男は 上へ向かう螺旋階段をゆっくりと上り始めた。



ここに来るのはどれくらいぶりだろうか。

永い歳月のなかで幾度か この塔からの景色を眺めに来た。

そして何度目の時だったろう

上昇を続ける螺旋に目が回り 少し立ち止まったとき

自分の左後方に ぴったりと寄り添うようについて来ている得体の知れないものに気がついたのは。



最初は怖ろしいものかと恐かったものだが、それは何を仕掛けてくるでもなく

ただずっと触れ合わんばかりの近い後方からついてくるだけ。

どうしたことか、前へ出ることは出来ないようで、こちらが足を止めればそれもとどまるのだった。



上へ。

最上階へ近づくにつれ、それは青く強烈に発光し、輪郭もはっきりと鮮やかに浮かび上がってくる。

喩えるなら ドラゴンとか 太古の生物ブロントサウルス 首の長い草食恐竜。

男は絶えず後方を気遣い上る。

そこに上昇を喜んでいるらしい気配が、発光と共に感じられる。


頭を上げてスキップで鼻歌でも聞こえてきそうなはしゃぎ様だ

無音のままであるはずなのに それの気分が手に取るようにわかるとは。

最初にここを上ったころは、存在にすら気がつかなかったのが嘘のようなはなしだ。

男はそれの輝きを背中にしっかりと感じ取った。


最上階が見えてきた。

あそこからの眺めは、世界中で一番すばらしいのだといわれている。

テラスへ抜けるゲートがみえる。

そこをくぐれば この旅は達成されるのだ。



しかし。

男はきびすを返した。

それでも後ろについてくることしかできないそれが、おののき、揺らいでいるのがわかる。


男は、螺旋を下り始めた。



そう、寄り添うようについてくる。

おれを信じて、おれのすることに一喜一憂しながら やさしさといわれる静けさで。

おれの一部にでもなったかのように。おれの喜びが己の喜びだといわんばかりに。

おれはそんな者たちを 切り捨て、突き放してやってきたのだ。 

お前達は おれの下で絶頂を予感し、得られぬ絶望にのたうつ姿をみせるがいい。

 

男は、幾度もの人生を思い出しながら 後ろからくるものをうかがった。

光は薄れ、形も保てなくなってきながらも よろよろと力なく追っていた。

無音だが、身をよじり泣き叫ぶさまが見えるようにくっきりと感じられるから鬱陶しい。


塔の入り口に戻ってきた。

寄り添っていたものは消えていたが、はげしい嘆きの波が充満し、地べたにうずくまり突っ伏している様子が感じられた。



男は、片方の口の端をあげ 冷淡に嗤った。

おまえたちが期待することを、おれは絶対に叶えはしないのだ。

なぜなら そんなおまえたちの無様な姿を おれは何よりもおもしろいと思うからだ。



男は 懐から酒の小瓶を取り出しゆっくりと口に運んだ。

遠い歳月をかけてもまたここへ来て 悲嘆をアテに美味い酒を一杯やろう。

舌鼓を打ち 想い馳せ、一人凍てついた瞳をほころばせた。







By.Purple





 夜が長くなって、空を見上げることが嫌でも多くなる季節が巡って来た。
 季節は秋、屋外でそんなふうにじいっと上ばかり見上げていると体は芯から冷えてしまうというのにどうしても止められない。白い丸い月の中に、いつもひとりきりの淋しい兎が佇んでいるのをみるたびになんだか居ても立ってもいられない気分ででもどうすることも出来やしないのに目が離せない。



 そんな言葉を彼は早口で告げると、一気にお茶を飲み干す。
 いれたばかりのアールグレイはまだ熱いのに、よく舌を火傷しないものだとのんびり考えながらまだポットにたくさん残っているお茶をカップに注ぎ足す。


 「兎、そんなに好きだったんだ?」


 道ですれ違う犬にはいつもどんな時にも目を輝かせていたから好きだと知っていたけれど、そんなものまで好きだったなんて少し意外だ。まあ可愛いけれど飼いたいとか思わないし。


 「好きとか、別にそういうわけじゃなくて。というか、おまえそこらにいる兎と同列にみてるだろ」
 「ちがうの?白い兎、確かイトコの家では飼ってたけど、あまり頭良さそうじゃなかったよ」
 「違う、俺が気になるのは月の兎、だから」
 だって兎は兎じゃないか、形が兎だから同じことなのにと思っているのを察したらしい彼は溜息をついた。
 「月の兎の話、知らないのか」
 「知らない、なにそれ?」


 無知なことは悪いことじゃないって知っている。別に知らなくてもいいことは一杯あるから、おまえはそれでいいんだなんて馬鹿にされているわけでもなく良く言われたし、気にもならない。物知りな彼の話を聞くことは、だから本当に楽しい、すぐに忘れてしまうものもあるけれど、そんなことも彼は気にしないから。


 「猿と狐と兎が、飢え死にしそうな老人を助けようとして、猿と狐は獲物を獲ってあげた。
  でも兎は何も獲ることができない。それで、自分が火に飛び込んでその身を食べさせようとした。
  その行いに免じて神さまは月に兎を籠めたんだって、みんなが見習うように」
 「へえ、兎可哀想。そんなの食べる気にならないよねえ」
 「…まあ、そこじゃないんだけど。でも可哀想だと思うだろ?
  しかもひとりでずうっと月に残されたまんまだ。
  いくら捨身の善行を見習えとか言われても、そんなのは兎には関係ないのに」


 また見えない月を探すように彼は天井のあたりに視線を彷徨わす。
 やさしいひとだなと知ってはいたけれど、そんなものにまで心を砕くなんて、彼のことの方が心配になる。疲れてしまわないのか、と。
 秋の夜じっと空を眺めているだろう彼の姿がはっきりと思い浮かぶ。
 冷たい指先を時々自分の熱で暖めながら、じっとひとり立ち尽くすその姿。


 「これからはちゃんと兎をみるね、この話は忘れないから。
  それから今度、一緒に兎を見ようよ。
  ひとりぼっち同士じゃ淋しいのは無くならないでしょ?」


 いつか兎にも友達が増えるかもしれない。
 それが彼の望みならぜひ叶うといい。
 そう言って笑いかけたら、彼も小さく笑って
 おまえどっかずれているんだよな、なんて言いながらも嬉しそうだった。



 そうだ、兎をみる夜には甘い紅茶をポットにつめて、それから甘いお菓子もたくさん持って行こう。
 兎みたいに、自分もきっとなにもできないから、おなかが空いたひとにあっても困らないように。






Commando Blue





Halloween!Commando☆



それは変わった鳥だった。



遠目にも何かおかしいかな?と思い、できるだけ間近まで行き双眼鏡をのぞいたら

ああ、なるほど。一本足だったのだ。

何らかの事故などで片方の足を失った鳥を見たことはあったけど

この鳥は、最初からこの姿で生まれたらしい。

一本ながら発達した長く太い足で飛び跳ねながら移動している。

単独で行動する種類のようだ。まわりに同類はいない。非常にかわった羽の色だ。

光線によって常に見え方が違うらしい。あの構造で飛べるのかどうかさえ疑わしいほどアンバランスなプロポーションで、後でぜひとも図鑑で調べてみなければと思った。

こんな日に限って、カメラを忘れてきたことに舌打ちしながらせめてもと 自前の網膜にその姿を焼き付け、なんの足しにもならないようなへたくそながらのスケッチなどをしてみたり。


昼近くになったので、ぼくは草むらに身を隠したまま持参のポットからコーヒーをそそぎ、ビスケットと共にいただいた。

鳥は、ごっついくちばしでさっきからずっと川の水を飲み続けている。

飲み続けて・・・って、ついぼうっとその様子をながめていたが、それだっておかしなことじゃないか?


鳥はおもむろに空をあおいだ。

ぼくは双眼鏡を構え見据える。

次の瞬間、くちばしから空高くへ鉄砲水を吐いた(!!)

とたんに いきなりスコールばりの雨が降ってきたっ・・・!


1分くらいで雨は止み、まるで何事も無かったかのように。

鳥はまた、ぐんぐん水を飲んでいる。

いやはや。・・・アンビリーバボゥ~ッ・・・!理解不能だ。


再びグラスを構えてレンズをのぞいたら、なにか川面を黒っぽい人影らしきものが走った気がした。

影は大きなとりかごに、その野鳥をつかまえて、あっというまに宙に消えた。

ぼくは濡れ鼠のまま、ひとり川畔に取り残された。




誰に話したって信じてもらえるはずも無い。

カメラさえ持っていれば ムービーだって撮れただろうになんてことだ

本当のことだと証明するには力不足もはなはだしいスケッチが一枚あるだけなんて。


一応、世界の野鳥図鑑で調べてみたのだが 

あの一本足の鳥は やはり載っていなかった。









By.Purple








Halloween!Commando☆



たしかにここのはずだ。

だがあの木々、そしてわが君の愛でられているあの木が無い。

ああ・・・大変だ、かの方がお知りになられたらどれほどお怒りになることか。



      


この丘は去年まで荒れ果てた雑木林だった。

それを父が買い取って整備し、ここに小さなホテルを建てたのだ。

この秋オープンするこの館をわたしが取り仕切るよう命を受け、ここに赴任してきたのは九月も最終週に入ったころだ。

丘から街を見下ろす風景は素晴らしく、喧騒から隔離された場所特有な都会では味わえない開放感と、ちょっとした優越感にも浸れ、知らず気分が高揚する。

わたしはここを気に入った。


オープンまではなにかと忙しく、日中は職人たちが出入りしたり、装飾品や食事のメニューの最終打ち合わせをしたりと、とかく人の出入りが激しいのだが

夜ともなれば皆下の街に帰っていき、ここに残るのはわたしと、腹心の部下であり学生時代からの親友の二人きりだ。

この親密な大切な時間を過ごすのに、この館はなんとうれしい存在か。

雨が降ってきた。ちょっと強いな。ひどくならなければいいんだが。

とはいえ明日は工事も休業で、静かなひとときをすごせるだろうか?

わたしたちは視線を絡め、ほくそ笑んだ。





どうしてくれようか、人間どもめ

わが最愛の香木たちをなぎ払って あのようなものを建てるとは!


なんとしても探し出せ!

わが香木の行先を!

朽ちていようとその残骸、必ずや わが下へ持ち帰るのだ!


下知が下った。


それは丘のはずれに哀れな姿で放置されていた。

根は掘り起こされ飢え切ったまま息絶えて、幹は輪切りに打ち砕かれて散乱し、

枝葉など、すでに土に還ろうとしていた。

しもべはそれらのパーツをすべて持ち帰り、かの君へ献上した。



その魔物は

香木の残骸を胸に掻き抱き大きく咆哮すると 紅蓮の瞳を館へ向けた。



絶大な魔力をもって魔物は、その香木の在った場所、今新たな館が建っているその真上から残骸を降り注ぎ、 願い、念じ、呪った。取り返すのだ!すべてを。

この季節の魔物の威力に不可能は無い。

おびただしい稲妻が、嵐の空を猛り狂った。








Halloween!Commando☆




完全に、あの嵐の晩にこれは起きたのだ。

その時は何が起きたのかわからなかったのだが、窓窓から見える太い毛深い木のようなものが、ぐんぐんと落ちてくる様子がうかがえたのだ。

新造の石造りの屋敷が悲鳴をあげていたっけ。あれは風雨の音かと思っていたが。



翌日わたしたちは驚くべき光景を見たのだ。

館が、天を隠さんばかりの巨大な金木犀の木に覆われていたのだ!

覆われていた・・・?いや、むしろ取り込まれていた、というほうが正確かもしれない。

根は上から地中にしっかりとたどりつき、ゆるぎなく着地を完了したようだ。



集まってきた職人たちがひそひそと囁き合うのを小耳にはさんだところ、ここはなかなかいわくのある丘として有名な場所であるらしい。

以前には、たくさんの金木犀がこの丘をおおっていたそうな。

その木をかこんでハロウィンには、怪しい者たちが宴をするらしいとか、どこかの大物がたいそう大事にしているらしいとか、胡乱な話で満ちていた。

つまりこれは、闇の世界の呪いの仕業で怖ろしい出来事なのだというわけだ。



結構ではないか。

さいわいホテルを閉じなければならないような傷みは無い。

窓から見える木の根は異様だが、屋上にそそり立つ大樹の不思議さと、見てみたまえ、満開の花々の拡散する香りの芳醇なこと、降る花びらの豪華なこと!




肝はつぶしたが、これはいける。

新しいこのホテルの最大の売りになる。

呪いでも結構だ。執着だって言い方を変えれば愛というのだろう?

秘密めいたいわくなど、わたしたちの城にぴったりじゃないか。


咲きっ放しの降りっぱなしな花々を集めて、酒でも菓子でもポプリでも、みやげ物にもことかかないだろうな。

だがしかし、矛盾といえばそうなんだけど

願わくば、流行すぎませんように。

忙しすぎてもぶち壊しだし、不思議や秘密は知る人ぞ知るくらいが調度いいから。









魔物は、ゆっくりと香気をすいこんだ。

これは二度と枯れることはない。

ひとつだけした約束事は、開花は10月朔日から、きっかり31日の23時59分までだということ。

普通の花より充分永いが、せっかくだからこの時季だけは香っていてほしいのだ。


この香木はこの先ずっと、もちろん魔力と、この館の人間たちの欲望で守られていくことだろう。


そしてゆったりと 大きく 満足げに笑った。










By.Purple





それは遠くからでも気づく、印象的なもので
暗闇の夜の底であったとしても、見過ごすことなど不可能な
それほど強い拘束力を持つものでした
わたしにとっては



たぶんまだ物心がつくよりずっと前
もしかしたら生まれてくる以前からだったのかもしれません
暑い、なにもかもが強い輝きに埋め尽くされる圧倒的な光がふいにやわらかくなると
それは突然香りはじめふと見上げた樹木の影には甘いオレンジの色彩



遠目にその色はまるで溶け出しかけたシャーベットみたいで
きっとおいしいのだろう、なんてずっと思っていました
花の盛りにはその香りはむせ返るほどで
食べ物としては、あまり好ましいものではありませんでしたけれど



だから幼い日ふと落ちていたその花を口にいれて
その時のがっかりした気持ちを今でも忘れられません
甘くも冷たくも柔らかく解けてゆくことも無くて
花の色はその正体を語るものではないと思い知らされました



家の前の道にはずっとその樹が並木のようにだらだら町まで続いて
一人歩きするようになってわたしはその樹に送り迎えされている気分でした
きれいなけれど強い女の人に手をひかれているような
季節の変わり目の使者でもあったのですが



生まれた家を出て
あの花に迎えられて家に帰ることもなくなってしまった今になっても
あの花の香りに街中で気づくと
わたしは無性に帰りたいと、落ち着かないのです



暗闇の中ぼんやり光るオレンジに呼ばれ続けているみたいで
隣に並んで歩く連れの足取りまで気になって
無言で早くなる歩調を指摘されるまで
ただ家路ばかりを急ぐことになる



いつかその話をゆっくり美味しいお酒でも飲みながら話したい
子供の頃からいやしかったとか笑って
いっしょに笑って
もしかしたらその花を拾いに行って
同じように口にしてくれる
そんないくたりかの仲間たちに



それから小さな家の庭に
その樹を植えて
ずっと守っていけたらと
そんなことを思っていました
また巡ってきた冷たい季節と
甘い香りに








Commando Blue





Halloween!Commando☆


ぼくの棲家は大きな樫の木の洞の中だ。
クッキーのぼくが木に棲んでいるのをおかしいと思うかもしれないけど
わけあって、宴の幹事を任されるくらいの資格あるクッキーだ。


その日はとてもお天気が好かった。

高い青空に時折寒さを感じさせる風が交ざり、冬鳥の声も秋本番を告げる。

ぼくは月末のパーティーのあれやこれやを考えながらひとときのお茶を楽しんでいた。


そこに突然アイツが現れたんだ!



アッ!という間に目の前の空間に暗黒が開いた。


その奥に宇宙的星星のいくつも流れる瞬きを見、

ここに何かとてつもなくでっかい獣がいて、

大きく羽ばたいた様な風圧を感じたのだ!


そして冷気!

冷気!!


はばかりながら魔性のこのぼくは、霊的冷気には慣れっこなのに、これはハートも存在も、凍えて砕け散るレベルの身も凍る恐怖の絶対的冷気だった!!!




回りが元通り明るくなった。


また鳥の声が聞こえだしたから

恐る恐る目を開けてみた。







!!!!!!!ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~っっっっっ!!!!!!!!!!






ぼくの洞の入り口が、暗黒冷気の余韻を纏ったままの男の顔で塞がれていた!






Halloween!Commando☆



「ああ、ここだここだ^^

ここに蜂蜜があるでしょう?それをおれにくださいよ。」


ひいぃぃぃぃ~~~っっっ! 蜂蜜っ?

何、この魔物っ!パーティーリストに載っていたっけ?

聞いてない知らない。

とにかくわからないままとっても恐いから、ぼくは普通のお菓子のクッキーに化けてバックレることにした。


男は眉をひそめ怪訝な顔をして、少しだけ洞からはなれ


ななななななんと!


ぎゃぁぁぁぁ~~~っっっ!!ぼくを食うなぁ~~~っっっ!

からだが無くなる~っ!やめろぅ~!


男はおもむろにぼくをつまんで口へ運んだので、ぼくは思い切りくちびるに蹴りをおみまいし、すんでのところで男の手から逃れたのだった。


「・・・! ああ、やっぱりただのクッキーじゃないんですね。

くちびるがピリピリする。不思議な存在がいるものです・・・。」


弱い!

空間を裂いて現れた男のくせにぼくの攻撃が充分通用するって。

「あんた、ナンなんだぃ?人間みたいだよ弱っちくて☆

パーティー参加希望の新顔さんか?だったらぼくが受け付けるよ。

幹事だからね!」


「おれはれっきとした人間ですよ。君のような不思議くんじゃないです。

流星群の間を移動していたらふと懐かしくなったんです、ここが。

で、側まで来たら、えもいわれぬ甘露な蜂蜜の匂いに誘われて今ここにいるわけですよ。」



・・・とりあえず、なんらかのこちらサイドの仲間なんだろうと思う。

「この蜂蜜が欲しいんだ?分けてあげてもいいけどあんたが舐めるには少量すぎかもね。

パーティーではきっと、この蜂蜜を使ったお菓子なんかもたくさん出るはずだよ。よかったじゃない。」


「お菓子はともかくとして。

それをわけてもらえるならとてもうれしいですよ。

蜂蜜の黄金酒には最高の材料になりますからね。」


蜂蜜の黄金酒?

ぼくが蜂蜜の瓶を、そのでっかい顔面の前までもって行くと

男はまた身体を後ろへ退いて、巨大な手を出しそれを受け取った。

それからぼくを見て「酒に浸して食べてもうまそうですね。」と言った。


「ぼっぼくは魔性のクッキーなんだからな!幹事なんだからなっ!

ぼくを食べたりしたらすごいことになるんだから、止めておくのをすすめるよ!いろんな毒が仕込まれているんだ、魔物だってただじゃすまないんだからなっ!!」

本当に酒に浸されて食べられちゃうところが簡単に想像できてしまって、ぼくとしたことが取り乱してしまった。


「毒入りクッキー・・・。それは いただけないですね、それは。」


男はものすごく渋い顔をして腹をさすった。

そしてパーティーとやらはいつなのかと聞いてきたので、いささか腑に落ちないこととは思ったけれど、31日零時からだと教えてやった。

初参加らしいから、それまで人間に混じって準備とか仕度とかをすればいいとも言っておいた。

まあ、すでに仮装しているような出で立ちだけど。



男は言った。

「人間ですよホンモノの。仮装じゃなくて、私服ですしねこれは。」

それから手の甲に歯を立てて・・・

プックリとみるみる大きくなってくる真っ赤な玉をぼくにむけて「ね?」と言った。



いやいやいやいや、トリックだ。

魔性のクッキーはだまされないのだ☆

こうしてこの奇怪な新入りはパーティーに参加することになった。

名は、セラエノ。生まれは、1760年、だそうである。









By.Purple











Halloween!Commando☆-04


2011ハロウィーンとりあえず手をだしてみました

今年は新たなお題を設けてみました。



己の首を絞めるようなお題ばかりです。

どうなるか、始めてみたものの未だ手探り状態。

どんな死に様をさらすのか?!

乞うご期待!!





Halloween!Commando☆





ドラ

浮かれちゃったな・・・


今日からは平日だぞ?


酔っぱらいネコ



また後で来いよ


めしと水、用意しといてやるからさ