Halloween!Commando☆2021 -3ページ目

Halloween!Commando☆


「あんたが残っているんで正直びっくりしてるよ。」

宿の小僧にそう言われて、男は少し困り顔だ。

「ハロウィーンの夜が過ぎたから、もうここには戻らないと思ってたんだ。なのに今晩の宿代をもらってしまっていたからさ、ちょっと悪かったかなって思ってた。」

黄金の蜂蜜酒をちびちびやりながら、男はシーツをとりかえている小僧をながめる。

「君までおれを超常現象だと思っていたとは知りませんでしたよ。」

男はドールハウスで使うぐらいの小さな瓶をとりだして、大きな手で器用に蓋をあけ 匂いをかいでうっとりとしながら答えた。

「でも、行ったんでしょ?うわさの場所へ?」

「行きましたよ 招待していただいたのでね、パーティーだということでしたし。」

「・・・で、どうだった?」

興味津々まるだしのどんぐり眼を見開いて、小僧の手が止まっている。

「なかなか、すごかったですよ。まさにこの世のものならざる集まりといいますか。

信じてはいなかったんですが、幽霊とか、ゾンビとか、想像の世界の怪物の実在とか。

でも、いましたね。魔女なんかも、普通にいるようで。」

そしてふ、と、遠い目をして言った。

「彼らはどういう心境で、ああして現れるんでしょうかねぇ。

ここに生まれて消えたことへの愛惜なのかな。」

男はまたちびりと酒をやる。

「たかだか数千年の歴史の中でねぇ・・・」

この客は、ときどきそんなふうにおかしなフレーズを会話に入れてくるから疑ったのだ、ヤバイのが来たって。小僧は心の中でつぶやいた。

「よく何事も無く帰って来れたね。人間がその宴に交ざったらひどいめにあわされるんだと思っていたよ。」

「そんなことはありませんでしたよ。幹事の方の後押しもありましたしね。」

男はそこで眉をひそめ

「ただ、みんな深夜0時の時の鐘とともに次々に消えてしまったりしてね。

お開きなんだと思って撤退してきたんですよ。」 小僧はうそ寒くなりながら聞いていた。



消えて行く闇の者たちが、男をみながら叫んでいたのを思い出す。

なぜ消えないのか、薄れていかないのか、おまえは何者なのかと。



男は懐から石笛をとりだして、おもむろに吹きはじめた。

知っている曲なのか知らない曲なのかわからない。

小僧は聞き入る。ふしぎな音色だ。

石器時代とか、そういった荒削りな形の石の笛からこんな音が出るなんて。


「楽しむ余裕のある死人たち、おかしなことだ。」

何を考えているのか。

「真の恐怖に御用心を。」

男はぽつりとそう言った。


ぞくりとした。小僧はそそくさとベットを整え おやすみなさいのあいさつをして部屋を出ようとしたのに、

後ろから呼び止められてしまった。

「早朝に、出発します。勝手に行きますから見送りは結構ですよ。」

「あ・・・、はいわかりました。 よい旅路を。」




うっすらと夜が明けてきても小僧は眠れずに、自分のふとんにまるまって聞き耳をたてていた。

あの旅人はまだ出て行った様子は無い。二階の階段は人が通ると軋んでそれとわかるから、間違いない。

自分がなぜ緊張しているのかわからない。でも。



冷たい霧の中に、あの石笛の音色がかすかに聞こえた。

そして男の声が何かを唱え。




「いあ、いあ、はすたぁ、はすたぁ、くふあやく、ぶるぐとむ、ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ、あい、あい、はすたぁ」




一瞬だけ、宿を揺るがす強風が吹いたが、それきり音がしなくなった。




朝になって、旅人の部屋へ行ってみた小僧がみつけたものは、

蜂蜜の香りのする小さな小さな瓶だけだった。











By.Purple











街はハロウィンの喧騒に包まれているのだろうけれど、ここはいつも通り静かだ。
先刻まで音も無く小さな雨粒が落ちていたようだったけれど、それすらももう去っていった。
細い三日月が雲間に時々現れる。
星も無く、ハロウィンには最適の夜だ。
きっと数多の悪霊たちが徘徊して、夜の闇を味わい尽くしているのだろう。
楽しい夜を、と、誰に言うというのでもなくグラスをかかげる。


本当はこの夜が嫌いだ。


馬鹿騒ぎが苦手なこともあるけれど、それ以上に誰も彼もがそのお祭りばかりに熱を上げて他のこと全部忘れているらしいのに耐えられなかった。
暗闇に潜む何者かの影も、それが悪戯を企む子供たちだったとしても、怖かった。子供だった頃は特に。
まだ幼い幼い頃には両親が傍にいたから、気づきもしやしなかったけれど。
そもそも我が家にはハロウィンという習慣は無かったし。
だから僕の記憶の中、そんな楽しい思い出しかないこの日が意味を違えてしまったあの日からずっと毎年毎年この日が苦痛でしかなった。友達もいたけれど、心の底から全てを話せるような相手はまだいなかったからずっとひとりで早く一日が終ることばかりを願っていた。


大人になっても周囲ではそれなりに行事としてのこの日が楽しまれていたようだけれど、無関心を通してきた。Studentという地位からさえ抜け出せれば、周りに合わせなければという苦痛はかなり軽減されるからどうにでもなった。
ただ一人、息を潜めてこの夜をやり過ごすことができさえすれば。
孤独な夜のひとつだと思えばそれは簡単だというのに、大人になるほどそれは子供だった頃より如実に痛みを感じさせるのが不思議だ。好きなものや無くしては困るものがひとつひとつと増えていくたびそれは酷くなる。馬鹿みたいだ、と笑いたくなるほど弱い自分自身を自覚する。


ああはやくこの夜が終らないだろうか?


いっそ徘徊する悪霊にでも魂を手渡してしまえれば楽になれるのだろうか、うろうろとどこにも行けずそれでも美しい空の国を探しては歩き回ることを止められない者たちの。
そこは確かに祝福に溢れた素晴しい場所なのだろうけれど、ただ時の止まった生ぬるい場所は多分僕には合わない。そんな何もかもとソリの合わない僕のもとには悪霊すら訪れるようなことは無かった。
今夜も夢もみず眠りたいと思うのに、さっきからアルコールを流し込み続けているはずの身体も脳も冷め切って、眠気などこれっぽっちも感じやしない。
ぽっかりと暇になってしまった夜をもてあましてばかりだ。

もう灯りを消して、ともかくベッドに行ってしまおうか?
そう思ったその時、
小さなコール音が響いた。
こんな夜更けに、ほとんど鳴ることのない携帯電話の着信音


ああまさか、と思ったけれどそれはほんとうに今会いたいと思ったひとからのもので、僕は信じられなくて液晶にならぶそのひとの名前をじっとみつめる。こんな機械にむけたところで馬鹿らしい、嘘じゃないのかなんて馬鹿げた問いかけをしたりしてそのコールに出られないでいる。


聞きなれたコール
それの意味すら忘れたみたいにただぼうっと見ている僕。いいかげん切れてしまうだろうに、なんてことに気づいたのはもう何十回とその音を聞いた後だ。それは辛抱強く鳴り続けて僕を待っていてくれるから、ようやく着信ボタンを押す。




Happy Birthday


回線がつながった瞬間、低い声が一番僕の欲しかったものをくれたから、僕は嫌いなものをひとつリストから削った。

















commando Blue







Halloween!Commando☆



ホテルの別館に位置する我々の居住区に戻ってきた彼は、満足げに窓からの景色を眺めて言った。

「お疲れ様だったな、アビシニアン。客たちの顔をみたか?度肝をぬかれていたぞ?まぁ無理も無いが。」

彼は普段より饒舌で、微笑から笑い声が聞こえそうなほどの上機嫌だ。

俺は生返事をして、さっさと燕尾服を脱ぎ 固めた髪の毛をふりほどき 二人きりの打ち上げの準備に取り掛かっていた。


今日は、客たちのために根城館のオープニングセレモニーを兼ねたハロウィーンパーティーを催したのだ。

早々に集まった珍しがりやな早耳の輩とか地元の盟主、新聞記者やら雑誌記者などで一日中賑わい、真夜中をとうに回ってもずっと放して貰えないのには困惑した。

それがようやくお開きになりそれぞれの部屋へ戻っていったところだった。


屋根に座す金木犀は勢いこそ増せ咲き止む気配は無く、香気の花は降り積もる。

窓から見える鎧戸のような木の根は恐怖どころか、ともすれば安心感さえ感じさせる。

オレンジ色の世界。
この館の最初のゲストたちも薄々感づいているだろうが、日を追うごとに何か、花が降るだけでなく地中から湧いてくるようにも見えたり、わからない影が通り過ぎていったり、話し声や歌声、クスクス笑いや何かが壊れる音など、まぁ怪現象といわれる類のことが頻繁におこっているのだ。

ハロウィンの余興の仕掛けだろう? 泊り客の中にはそう確認してくるものもあるが、わが支配人は超一流のビジネススマイルで「さあどうでしょう?」と煙に巻くのだ。これが仕掛けだったら大枚はたかなくちゃならないだろうな、彼は笑う。


暖炉に火をいれた。空調もあるが、炎が好ましい夜だ。

俺はオレンジの闇に魅入られてしまった彼に近づき、その灰色の瞳をこちらに向かせた。

「さあ、支配人、乾杯の用意ができましたよ、こちらへどうぞ。」



Halloween!Commando☆

ああ、空気がおかしい。

闇の者たちの影響を客寄せに使おうという段で、多少のリスクは背負わねばならないとわかっていたが。

秘めていたものが爆発しそうだ。

俺は彼の肩を抱いて火のそばへ導き、氷の海原を思わせる目の中で照り映える炎を見つめたまま上着を脱がせ帯をはずした。

「なんだよ、あの世の者たちにでも踊らされているのか?」

細められた瞳は鋭利で、簡単に俺を貫く。

おれは言った。

「そんな死人たちにとやかく動かされるほどうわっついたものでもなくてね。もちろんずっと知っているはずだけど?」

学生時代から、ずっと彼を追ってきたのだ。勉強でも環境でも、彼のすぐ横に立ち続けるのはまったく!容易なことではなかった。

なによりもそのハートに寄り添うことは特に。


苦労して 戦って、やっと手に入れたこのポジション。

自他共に認める彼の親友、腹心の部下、右腕、 そして。

このへんで、もう一つタイトルを手に入れたいと思っている。


パートナー。


彼は用意しておいたブランデーをあおり、そのまま俺に口移しで流し込んできた。

口の端から酒が伝う。灰色の瞳が、銀色に光る。

驚きのエロさにめまいしながら 俺は彼を抱きしめ貪った。


「アビー・・・、なにか一曲弾いてくれ。」

乱れの無い声音で彼が言った・・・。 アビー、職務を放れたときの呼び名が胸を打つ。

だが それはないだろう、やっとこれからというこのときに。

あらゆる手をつくして抗議を試みたが、結局俺はおとなしくグランドピアノの前にすわり彼のために奏した。

「君も弾け、バル 来いよ。」

俺の支配者バレンタインは、愉快そうに横に来てすわり追い掛け回すように鍵盤を弾いていった。

見事に。



ここで、この根城館で。

そんな柔な神経の持ち主ではないのは重々承知だけど、怪しいものに横取りされないよう注意を払いながら 俺は次のタイトルを目指そう。

すでに二人とも取り込まれているのかもしれないけど大丈夫。

俺の野望は何よりも勝る。


根城館で初めてのハロウィーンが過ぎて行く。客は満足しているだろうか?

盗み見徘徊上等だ。あの世の者たち。しっかり稼いでくれたまえよ。俺たちのために。

根城館に燃え盛るオレンジ色の花が降る。



Halloween!Commando☆



By.Purple








完全なる死というのはいかなるものか?
教授はいたって真面目ないつも通りの顔で学生たち方を見回しながら言った。


完全なるも何も、死にはひとつの意味しかないではないかと彼は心の中で突っ込む。
死とは無だ。
何も無くなること。
呼吸は止まり、体内の全ての細胞も働くことを止める。
思考は勿論。
そうして有機物はゆっくりと腐敗してやがて分解され尽くし、真の無となる。
簡単な話だ。
そんなことを彼が思ったとき、隣の席でいつもなら居眠りをしているはずの悪友が、ふと彼の方を向いて笑った。




「さっきの講義はなかなかに興味深いものだったね」


突然、話をふられて彼は顔をそちらに向ける。
講義の後はいつもなんとなく集ってはだらだらとコーヒーを飲みくだらない雑談に興じるのが、彼の仲間達の常だ。今日も午後の陽射しはかなり傾いている中、ぼうっと生産性のない時間を過ごす。
騒がしいというわけでもないけれど静かなわけでもない。
まったりとした時間の中、ふいに話しかけられて少々戸惑う。
さっきの講義とは?何のことだろうか。


「死生観というのは人其々だ。
 環境とか経験とか、そんな諸々で形成されているのだろうが」
「ああ、完全なる死?とかそんな話?」
「そう、くだらない話だと考えただろう?」
心の中をみられたようで、彼は少しばかり慌てる。この男は妙なところで聡い。
「別に、そんなことは思っちゃいない。ただ死んだらそれで終りだろう?完全も不完全もない」
「それは君の死生観だね」
やけに堅苦しい口調をして、そんなことを言い出すから彼は耐え切れなくて笑う。
「教授のマネか?似てやしないのに」
笑われたというのに、そのままに彼の目の前の男は続ける。
「死は無ではない、と。そう主張する者もいる。魂の再生とか、輪廻とか。ステップを上がるのだとか」
「馬鹿馬鹿しい。そんなものあるわけない」
「とは言い切れないと俺も思うのだがね」


そんなのはそれこそどうでもいい、なんて彼が言い出そうとしたその瞬間
ひっそりと顰められた声で
「死者を喰らいその魂を己のものとする、そんな者たちが実はこの世界には多く存在している」
そんなことを囁かれて彼はいささかたじろぐ。
「魂などないと言われればそれまでたが、しかし消化され血肉となるならその主張も否定はできない」
「それは、そうだろうけれど…」
いくら死後だからといって同じ種族に食われるというのはあまり気持ちのいい話じゃない。できるなら今のスタンダードな火葬で無に還りたいというのはあまりにも平凡な望みだろうか。


そう思ったから彼はそのままを告げてみたのだけれども、相手はあまりその話を聞いているようではなかった。


「俺は完全なる死とは記憶からの抹消だと考える」
「記憶?」
「そう記憶だ、例え身体は生きていたとしても誰一人君のことを知る者はいない。そんな状況こそが完全なる死だ。だから逆に肉体は滅びたとしても一人でも覚えている者がいたとしたらそれは完全な死とは言えない、時の流れこそが完全なる死を作り出すとも言えるね」


そうだ、何千年も経ったとしたらそれこそ自分のことを覚えているものなどいなくなるだろう。
きれいさっぱりと。


「けれど、もしこの身体を何者か喰われたとしたら、その人間の血脈が受け継がれていく限り死ではない。
 そう考えると死者を食らうものというのは案外親しみやすいじゃないか」
にっこりと笑ってそんなことを言う。


本当に嫌なヤツだ、彼は渋い顔をして吐き捨てる。
「俺は嫌だね、そんなふうにしてまで死を逃れたいとは思わない」


「俺が死んだら、喰ってくれてもかまわないよ」


無神経なその男はそんなふうに続けて、また彼の気分を害させるのだった。


















commando Blue











そのひとはひと目みただけで忘れられない印象を人々に植え付けるだけの容姿をしていた。
雨のざぶざぶと降る午後、駅の入り口には沢山の人が困ったように空を見上げている。
雨脚は強くなるばかりで、やがていつもより速いスピードで夕暮れも迫ってくる。
突然に降り出した雨に戸惑うように、そのひとも同じように空をみていたけれどどれだけ遠くにいたとしてもすぐさま見つけられるだろう。
まるで砂浜の中、きらきらした白い貝殻が一目でみつかるみたいに。
背が高いのも、勿論、頭一つまわりからぬけだしていたし。


浅黒い肌に漆黒の髪が少しだけ降りはじめの雨に濡れて光る。
小さな屋根を目指して走ってきたのかもしれない。けれど雨は止む気配もなくて、躊躇いながらも暗くなる一方の空に先を急ごうかと思案しているような表情。黒い瞳も濡れたようにつやつやしている。
その大きな目に吸い込まれそうで、きっとまっすくに見詰めることなんてできない。
きれいなきれいな生き物。
こんな田舎町の片隅にはとても似合わない異国風な容姿はそれだけで人目を引くだろうに。
まわりの者たちは感心ななさげで、それが不思議だ。
どうしてひっそりと尊敬の念をこめて盗み見ることもしないのか、さっきから目が離せないでいるのは遠くからみつめている自分だけなのだろうか?
きっと色々な血が混じっているに違いない、そのひとのアンバランスにみえて絶妙に配置された美に魅了されないものが居るとは俄かには信じられない。


ほら隣に立つ青年がちらりとその顔を盗み見た。
けれど、すぐに視線を逸らし手にした傘を広げ行ってしまった。


おかしい、きっとそのひとにはいくつもの傘が差し掛けられるはずだ。
そう思ってみていても、声をかけるものはおろか、顧みるものすらないなんて。
憮然とした気持ちで、じゃあ仕方ない自分がなんて気持ちになる。
いつもならこんな勇気だせやしないというのに、みていたら居ても立っても居られなくなって。
開いていた距離を一気につめて近づく。


「傘、良かったらはいらないか」


声をかけたら驚いたように振り向いた目がやはり美しくて息を呑む。
黙っていたら、相手はゆっくりと微笑む。
笑顔なんて、心臓に悪い。
ヒトとすら思えないほど整ったその造作はいっそ逢魔が時にひっそり現れる魔のものじみている。
けれど


「何故?」


声が一言返る。それは魔物とは言い難い、普通の応えで。
何故なんて、きれいだったからなんて答えられなくて黙っていたら


「あなた変ってるね、こんなのに声をかけるなんて」


そんなことを言うけれど意味もわからないまま、傘を差しかけて相手の示す方角に歩き出す。
ゆっくり駅を離れて歩きながらも、隣のことが気になって


「こんなのって、どういう意味?」


そう問い掛けたらまた驚いたような目をして


「だってこんな毛色の変ったのに気安く声をかけるヤツいないでしょう?
 オレ、雑種だから」


「雑種って、それこそ何言ってるんだ?」
「だってこの国のひとはみんな同じようなのが安心なんでしょう?
 ひとと違うのは嫌いで。だから、あなたは変っているって」


そんなことを言われ続けていたのか、と思うとひどく情けない気持ちになるけれど。それなら彼に言い寄るやつは少なかったのかもしれないなんて、密かに喜んでいる自分に驚く。


「変わり者って言われるのは慣れているけど」


そんなことをしれっと言って笑ったら、相手は少しだけ照れたように俯いた。


彼の目的地まで僅かの距離だけど、どうしたらこの魅力的な相手ともっと親密になれるかなんて下心いっぱいのフトドキ者に天は味方したのか、雨は降り止む気配もなかった。















commando Blue








Halloween!Commando☆

石鹸が 薄く小さくなって手からすべりおちた

アールグレイの薫り高くきめ細やかな泡が立つ薄茶色のそれは

灼熱の夏の太陽をよみがえらせる



大きく高い木々 ジャングルと海 レーザー光線のかなたの瞬く星ぼし

ただの箱型のものなど見当たらぬ 二つと同じ形のモノの無い輝く高層ビル群

さまざまな言語に多様な料理

自然の力と多くの種族に守られたきらびやかなその獅子の国に

たしかにわたしはいたのだが

思いがけず降り立つことのできたその国は熱気に満ちた非日常で

とまどいや大興奮で溢れていたっけな



石鹸が もうじき消えてなくなるのだ

泡と香りで顔面をおおいながら 朝のせわしない時間をこなしているというのに

なんだい?

目の奥なのか鼻の奥なのかが ツンときた



早送りされる灼熱の映像 

川を渡る小舟 浮かび上がる空の客船 とっ散らかって停泊する海上の船舶

エネルギーと放射される熱気

瞬きって こういうかんじだ

喧騒 静寂 のぼせ 笑顔 エガオ えがお

光の瞬間的なきらめく鮮やかな残像?

始まって終るそういった

朝っぱらから急なおセンチに見舞われて黄昏てしまったな




この石鹸が消えて無くなってしまったら

またどこか 冒険の旅にさらされてくればいいだろう

そのご褒美に

素敵な香りの おおらかに泡の立つ

新しい石鹸を手に入れてくればいいじゃないか


涼しくなってくるとどうしてこう気弱気になってしまうかな

とりあえず次は プチ遠出して温泉へ行こう

源泉かけ流しで地球のパワーを堪能してこよう

そして石鹸を買ってこようじゃないか




郷愁にひたる時間はない






By.Purple






Halloween!Commando☆


ああ、文章が追いつかない。

俺はあの世界をわかっているし その場にいたのも同然なんだから、もっとすらすら言葉に置き換えることが出来てもいいんじゃないかと思うんだが それがそうもいかないところがちゃんと修業した物書きではない泣き所だ。

もうひとふんばりだ、かたずけてしまおう。


双子というのがいるだろう。

俺には彼らがどんな関係になっているのかわからない。

まったく一つだった精神が二つの身体に半々づつ宿っているのか、同じ細胞が二つに分かれた違う精神のものなのか、その辺。

俺には、なんというか、そういった位置付けにあるような存在がいる。

それは双子ではない。

母親に、俺には死産したとか何かの事情でダメになってしまった兄弟はいるか聞いてみたが、胡散臭そうな目つきで答えた俺が生粋の一人っ子である確認しか取れなかった。


あいつは俺が眠っている時に、夢の中に現れる。というよりも、夢の中での俺自身の役どころがあいつの姿であることが常だというか。

俺にはそれがずっと昔から当たり前なことだったのでそういうものだと思っていたわけだ。

それが数年前の10月の終りに現実に出会ってしまったからびっくりした。

どうも 向こうも同じ状況だったらしく、お互いにもう金縛り状態だったな。

なんていうんだったっけ?ドッペルゲンガー。

印象としては適当なんだけど自分と同じ姿じゃないわけだからそれとも違うのだ。


もちろん意気投合はあたりまえだ。思い出話だって出来てしまうのだ。

自分なんだから、相手の経験は自分の(夢での)経験と同一なのだし。

出会ってしまってどちらかが死ぬとかそういうんでもない代わりに、どうやらこの季節にしか俺たちはこんなふうに会うことは出来ないようなのだ。

どちらが問題の立場かはわからないが、ハロウィーンがキーワードらしい。


あいつにとっても、この世界観の違う俺の環境が物珍しいらしく、周りの者たちにいろいろ話して聞かせるのだそうなんだが とんだお笑い種で終ることが実に多いとぼやいていた。

そこで俺もあちらでの経験を書きとめてみようと始めたのが この業界に入るきっかけになったのだ。


むこうでは俺たちは、いや、俺は、あいつは、か?

大きな食堂の厨房で、大鍋に得体の知れないなにかの肉だの香草だの鉱石だの骨だの、闇鍋のように投入しグツグツ煮込んで煮込みきって汁にする仕事を主にしている。その汁の用途は幅広く、薬にも、呪いにも料理にも魔術にも、何にでも応用が出来るのだ。


こちらにいる時俺は、そこでの日常を書いて せっかく書いたんだからと懸賞に投稿してみたらまさかの入選。

あれよあれよと持ち上げられて 今ではこれで御まんまをいただくまでになっている・・・。

ファンタジーじゃないよ。ミステリーでも、ホラーでも。オカルトでさえない。

リアルだ。ノンフィクションなのだ。だから、想像して組み立ててとかじゃないのだが。生みの苦しみとか厳密には無いし。

ただありのままを書けばいいだけなんだからな。そんなこと口には出さないけど。


 

それにしても、じれったいわが筆よ!

これを書き上げたら一眠りして、あいつと二人で会う時の計画を立てたいというのにな!

ああ、駄目か?

二人として会うまでは あいつは俺だし、今こうしている俺はあいつの夢の中でのあいつ本人か。。。





俺は、誰なのかな・・・・・・?   わからなくなってくる。





あいつに会うのが待ち遠しい。



Halloween!Commando☆               By.Purple