雑談 | Halloween!Commando☆2021


完全なる死というのはいかなるものか?
教授はいたって真面目ないつも通りの顔で学生たち方を見回しながら言った。


完全なるも何も、死にはひとつの意味しかないではないかと彼は心の中で突っ込む。
死とは無だ。
何も無くなること。
呼吸は止まり、体内の全ての細胞も働くことを止める。
思考は勿論。
そうして有機物はゆっくりと腐敗してやがて分解され尽くし、真の無となる。
簡単な話だ。
そんなことを彼が思ったとき、隣の席でいつもなら居眠りをしているはずの悪友が、ふと彼の方を向いて笑った。




「さっきの講義はなかなかに興味深いものだったね」


突然、話をふられて彼は顔をそちらに向ける。
講義の後はいつもなんとなく集ってはだらだらとコーヒーを飲みくだらない雑談に興じるのが、彼の仲間達の常だ。今日も午後の陽射しはかなり傾いている中、ぼうっと生産性のない時間を過ごす。
騒がしいというわけでもないけれど静かなわけでもない。
まったりとした時間の中、ふいに話しかけられて少々戸惑う。
さっきの講義とは?何のことだろうか。


「死生観というのは人其々だ。
 環境とか経験とか、そんな諸々で形成されているのだろうが」
「ああ、完全なる死?とかそんな話?」
「そう、くだらない話だと考えただろう?」
心の中をみられたようで、彼は少しばかり慌てる。この男は妙なところで聡い。
「別に、そんなことは思っちゃいない。ただ死んだらそれで終りだろう?完全も不完全もない」
「それは君の死生観だね」
やけに堅苦しい口調をして、そんなことを言い出すから彼は耐え切れなくて笑う。
「教授のマネか?似てやしないのに」
笑われたというのに、そのままに彼の目の前の男は続ける。
「死は無ではない、と。そう主張する者もいる。魂の再生とか、輪廻とか。ステップを上がるのだとか」
「馬鹿馬鹿しい。そんなものあるわけない」
「とは言い切れないと俺も思うのだがね」


そんなのはそれこそどうでもいい、なんて彼が言い出そうとしたその瞬間
ひっそりと顰められた声で
「死者を喰らいその魂を己のものとする、そんな者たちが実はこの世界には多く存在している」
そんなことを囁かれて彼はいささかたじろぐ。
「魂などないと言われればそれまでたが、しかし消化され血肉となるならその主張も否定はできない」
「それは、そうだろうけれど…」
いくら死後だからといって同じ種族に食われるというのはあまり気持ちのいい話じゃない。できるなら今のスタンダードな火葬で無に還りたいというのはあまりにも平凡な望みだろうか。


そう思ったから彼はそのままを告げてみたのだけれども、相手はあまりその話を聞いているようではなかった。


「俺は完全なる死とは記憶からの抹消だと考える」
「記憶?」
「そう記憶だ、例え身体は生きていたとしても誰一人君のことを知る者はいない。そんな状況こそが完全なる死だ。だから逆に肉体は滅びたとしても一人でも覚えている者がいたとしたらそれは完全な死とは言えない、時の流れこそが完全なる死を作り出すとも言えるね」


そうだ、何千年も経ったとしたらそれこそ自分のことを覚えているものなどいなくなるだろう。
きれいさっぱりと。


「けれど、もしこの身体を何者か喰われたとしたら、その人間の血脈が受け継がれていく限り死ではない。
 そう考えると死者を食らうものというのは案外親しみやすいじゃないか」
にっこりと笑ってそんなことを言う。


本当に嫌なヤツだ、彼は渋い顔をして吐き捨てる。
「俺は嫌だね、そんなふうにしてまで死を逃れたいとは思わない」


「俺が死んだら、喰ってくれてもかまわないよ」


無神経なその男はそんなふうに続けて、また彼の気分を害させるのだった。


















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