逢魔が時 | Halloween!Commando☆2021

そのひとはひと目みただけで忘れられない印象を人々に植え付けるだけの容姿をしていた。
雨のざぶざぶと降る午後、駅の入り口には沢山の人が困ったように空を見上げている。
雨脚は強くなるばかりで、やがていつもより速いスピードで夕暮れも迫ってくる。
突然に降り出した雨に戸惑うように、そのひとも同じように空をみていたけれどどれだけ遠くにいたとしてもすぐさま見つけられるだろう。
まるで砂浜の中、きらきらした白い貝殻が一目でみつかるみたいに。
背が高いのも、勿論、頭一つまわりからぬけだしていたし。


浅黒い肌に漆黒の髪が少しだけ降りはじめの雨に濡れて光る。
小さな屋根を目指して走ってきたのかもしれない。けれど雨は止む気配もなくて、躊躇いながらも暗くなる一方の空に先を急ごうかと思案しているような表情。黒い瞳も濡れたようにつやつやしている。
その大きな目に吸い込まれそうで、きっとまっすくに見詰めることなんてできない。
きれいなきれいな生き物。
こんな田舎町の片隅にはとても似合わない異国風な容姿はそれだけで人目を引くだろうに。
まわりの者たちは感心ななさげで、それが不思議だ。
どうしてひっそりと尊敬の念をこめて盗み見ることもしないのか、さっきから目が離せないでいるのは遠くからみつめている自分だけなのだろうか?
きっと色々な血が混じっているに違いない、そのひとのアンバランスにみえて絶妙に配置された美に魅了されないものが居るとは俄かには信じられない。


ほら隣に立つ青年がちらりとその顔を盗み見た。
けれど、すぐに視線を逸らし手にした傘を広げ行ってしまった。


おかしい、きっとそのひとにはいくつもの傘が差し掛けられるはずだ。
そう思ってみていても、声をかけるものはおろか、顧みるものすらないなんて。
憮然とした気持ちで、じゃあ仕方ない自分がなんて気持ちになる。
いつもならこんな勇気だせやしないというのに、みていたら居ても立っても居られなくなって。
開いていた距離を一気につめて近づく。


「傘、良かったらはいらないか」


声をかけたら驚いたように振り向いた目がやはり美しくて息を呑む。
黙っていたら、相手はゆっくりと微笑む。
笑顔なんて、心臓に悪い。
ヒトとすら思えないほど整ったその造作はいっそ逢魔が時にひっそり現れる魔のものじみている。
けれど


「何故?」


声が一言返る。それは魔物とは言い難い、普通の応えで。
何故なんて、きれいだったからなんて答えられなくて黙っていたら


「あなた変ってるね、こんなのに声をかけるなんて」


そんなことを言うけれど意味もわからないまま、傘を差しかけて相手の示す方角に歩き出す。
ゆっくり駅を離れて歩きながらも、隣のことが気になって


「こんなのって、どういう意味?」


そう問い掛けたらまた驚いたような目をして


「だってこんな毛色の変ったのに気安く声をかけるヤツいないでしょう?
 オレ、雑種だから」


「雑種って、それこそ何言ってるんだ?」
「だってこの国のひとはみんな同じようなのが安心なんでしょう?
 ひとと違うのは嫌いで。だから、あなたは変っているって」


そんなことを言われ続けていたのか、と思うとひどく情けない気持ちになるけれど。それなら彼に言い寄るやつは少なかったのかもしれないなんて、密かに喜んでいる自分に驚く。


「変わり者って言われるのは慣れているけど」


そんなことをしれっと言って笑ったら、相手は少しだけ照れたように俯いた。


彼の目的地まで僅かの距離だけど、どうしたらこの魅力的な相手ともっと親密になれるかなんて下心いっぱいのフトドキ者に天は味方したのか、雨は降り止む気配もなかった。















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