その店はいつも日が落ちきる頃にならないとクローズのプレートが外されないから、とても不思議だった。
バーとか飲食店ですらない、多分小さな雑貨店で。
店の中に入ったことがないから定かではないけれど遠目からみたウィンドウには小さなテディベアとティセットがひっそりと置かれていたから。
渋いグリーンのクマと、暗い赤の陶器、クリスマスカラーだな、なんてぼんやりと思っていた。
その日はなんだかいつもよりずっと帰りが遅くなってしまって、その店に明々と灯がともっていたのがふいに目に飛び込んだ。
そろそろ秋も深まって、ちらちらと色付きはじめた街路樹の葉がいちまいにまいと舞い散る舗道、寒さがふいに身に染みて矢も楯もたまらずその店のドアを押していた。
途端にからんと鳴るカウベル
一歩店に踏み込めばそこは色が溢れていて圧倒される。
淡いレモンイエローのラグ、シックな黒のスツール、海の色をしたきらきら光るアクセサリーや綺麗な藤色のガラスの壜
雑多な物が置かれたその奥には暗い木の色のカウンターと背の高い椅子がいくつか並んでいる。
香しい香りの元はどうやらそのカウンターの奥から
燻した豆の挽きたての香り
「こんばんわ、いらっしゃい」
声は落ち着きのある男の人のもので、ようやくそこに人がいたことに気づいた。
その色は金色
とろりと溶けるはちみつみたいな金色の目が優しい笑みを浮かべていて、誘われるようにふらふらとカウンターに近づいていく。
正直、後から思い出そうとしてもその顔は愚か若いか年寄かすら思い出せなかった。
ただその瞳だけをおぼえていて。
美味しいコーヒーをご馳走になって、たわいない話をして
最後にひとつだけ買い物をしてその店を出た。
なんでこんなものを選んだのか、あんなに色々なものが溢れている店の中でと、家に着いてから荷物を開いてみて思った。
もっと欲しいものもあったようにも思えるのに。
でもこれが欲しかったのだ、あのときの自分は。
夕日の色、明るい南の果実、燃えるような紅葉、その全てを集めたようなオレンジ
小さいけれどしっかり存在を主張しているオレンジ色のカボチャは陶製、ランタンにするのだろう中は空洞で。
ああ、ハロウィンが近いのだったと思い出した。
次はもう少し役に立ちそうなものを買いたい
それからちゃんと店のひとの顔もみてみたいものだと、そのカボチャのオレンジを眺めては思った。
BY Blue