夏はいつまでも居座り続けて、少しも涼しくならなかった10月。
なのにどうしたことか、一夜あけたら冷気にがっちりと絡め取られたようなひんやりとした朝。
それはもう秋という爽やかな季節ですらなくて、初冬という言葉すら浮かぶ。
秋になったら、とアレコレ先送りしてきた片付け無くてはならない事象を今度は冬だから寒いからと言ってまた先延ばしにしてしまいたくなる。
それほど寒いのは苦手だった。
けれど、日が昇りゆるゆると気温が上がればそれは秋の爽やかさを纏いはじめるから、機嫌を直してようやくずっと気にかかっていた旅立ちの支度を始めてみる。
傍を離れ何年経つだろうか、ずっと会いたいと思っていた相手の元へと、秋になったら会いに行こうと夏が始まりじりじりとした気温にうんざりしながら考えた。
ようやくその思いつきを実行に移せる。
小さな旅行鞄を引っ張り出し、僅かばかりの着替えと財布と。
携帯電話のメモリーなんて細い細い糸を手繰って、旅立とうと決める。
最後に出したばかりのお気に入りの外套を掴んで立ち上がったその時
インターホンのけたたましい音に呼び止められる。
なにか買い物でもしていただろうか、と、きっと宅配業者だろうと思いながらドアをあけたら
さっきまで思い描いていた会いたいその相手が佇んでいる。
にっこりと記憶に残ったままの笑顔を浮かべて。
BY Blue