ぼくの棲家は大きな樫の木の洞の中だ。
クッキーのぼくが木に棲んでいるのをおかしいと思うかもしれないけど
わけあって、宴の幹事を任されるくらいの資格あるクッキーだ。
その日はとてもお天気が好かった。
高い青空に時折寒さを感じさせる風が交ざり、冬鳥の声も秋本番を告げる。
ぼくは月末のパーティーのあれやこれやを考えながらひとときのお茶を楽しんでいた。
そこに突然アイツが現れたんだ!
アッ!という間に目の前の空間に暗黒が開いた。
その奥に宇宙的星星のいくつも流れる瞬きを見、
ここに何かとてつもなくでっかい獣がいて、
大きく羽ばたいた様な風圧を感じたのだ!
そして冷気!
冷気!!
はばかりながら魔性のこのぼくは、霊的冷気には慣れっこなのに、これはハートも存在も、凍えて砕け散るレベルの身も凍る恐怖の絶対的冷気だった!!!
回りが元通り明るくなった。
また鳥の声が聞こえだしたから
恐る恐る目を開けてみた。
!!!!!!!ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~っっっっっ!!!!!!!!!!
ぼくの洞の入り口が、暗黒冷気の余韻を纏ったままの男の顔で塞がれていた!
「ああ、ここだここだ^^
ここに蜂蜜があるでしょう?それをおれにくださいよ。」
ひいぃぃぃぃ~~~っっっ! 蜂蜜っ?
何、この魔物っ!パーティーリストに載っていたっけ?
聞いてない知らない。
とにかくわからないままとっても恐いから、ぼくは普通のお菓子のクッキーに化けてバックレることにした。
男は眉をひそめ怪訝な顔をして、少しだけ洞からはなれ
ななななななんと!
ぎゃぁぁぁぁ~~~っっっ!!ぼくを食うなぁ~~~っっっ!
からだが無くなる~っ!やめろぅ~!
男はおもむろにぼくをつまんで口へ運んだので、ぼくは思い切りくちびるに蹴りをおみまいし、すんでのところで男の手から逃れたのだった。
「・・・! ああ、やっぱりただのクッキーじゃないんですね。
くちびるがピリピリする。不思議な存在がいるものです・・・。」
弱い!
空間を裂いて現れた男のくせにぼくの攻撃が充分通用するって。
「あんた、ナンなんだぃ?人間みたいだよ弱っちくて☆
パーティー参加希望の新顔さんか?だったらぼくが受け付けるよ。
幹事だからね!」
「おれはれっきとした人間ですよ。君のような不思議くんじゃないです。
流星群の間を移動していたらふと懐かしくなったんです、ここが。
で、側まで来たら、えもいわれぬ甘露な蜂蜜の匂いに誘われて今ここにいるわけですよ。」
・・・とりあえず、なんらかのこちらサイドの仲間なんだろうと思う。
「この蜂蜜が欲しいんだ?分けてあげてもいいけどあんたが舐めるには少量すぎかもね。
パーティーではきっと、この蜂蜜を使ったお菓子なんかもたくさん出るはずだよ。よかったじゃない。」
「お菓子はともかくとして。
それをわけてもらえるならとてもうれしいですよ。
蜂蜜の黄金酒には最高の材料になりますからね。」
蜂蜜の黄金酒?
ぼくが蜂蜜の瓶を、そのでっかい顔面の前までもって行くと
男はまた身体を後ろへ退いて、巨大な手を出しそれを受け取った。
それからぼくを見て「酒に浸して食べてもうまそうですね。」と言った。
「ぼっぼくは魔性のクッキーなんだからな!幹事なんだからなっ!
ぼくを食べたりしたらすごいことになるんだから、止めておくのをすすめるよ!いろんな毒が仕込まれているんだ、魔物だってただじゃすまないんだからなっ!!」
本当に酒に浸されて食べられちゃうところが簡単に想像できてしまって、ぼくとしたことが取り乱してしまった。
「毒入りクッキー・・・。それは いただけないですね、それは。」
男はものすごく渋い顔をして腹をさすった。
そしてパーティーとやらはいつなのかと聞いてきたので、いささか腑に落ちないこととは思ったけれど、31日零時からだと教えてやった。
初参加らしいから、それまで人間に混じって準備とか仕度とかをすればいいとも言っておいた。
まあ、すでに仮装しているような出で立ちだけど。
男は言った。
「人間ですよホンモノの。仮装じゃなくて、私服ですしねこれは。」
それから手の甲に歯を立てて・・・
プックリとみるみる大きくなってくる真っ赤な玉をぼくにむけて「ね?」と言った。
いやいやいやいや、トリックだ。
魔性のクッキーはだまされないのだ☆
こうしてこの奇怪な新入りはパーティーに参加することになった。
名は、セラエノ。生まれは、1760年、だそうである。
By.Purple