リック・ウェイクマンがイエスに加入する前に在籍していたバンドとして、当時、彼の在籍時のものを少しだけ聴いたストローブスのことを想い出し、Apple Musicで検索したところ、こんなアルバムを発見しました。
1967年のレコーディング
オール・アワ・オウン・ワーク/サンディ・デニー&ザ・ストローブス
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アーティスト名はサンディ・デニー&ストローブスとなっていますが、ストローブスの前身、ストロベリー・ヒル・ボーイズのアルバムとして収録が行われたもので、サンディ・デニーもゲストではなく、このバンドのメンバーでした。
サンディがブリティッシュ・フォークを代表する女性シンガーとして有名になってから、1973年にサンディ・デニー&ストローブスの名前で発売されたもののようです。
サンディ・デニーについてはブリティッシュ・フォーク・ロックのフェアポート・コンベンションのメンバーとして、その歌声は耳にしていましたが、その前にストローブスのデイヴ・カズンズ、トニー・ホッパーと一緒にやっていたとはまったく知りませんでした。
エレクトリック・トラッドとも呼ばれるフェアポート・コンベンションの電気的な楽器演奏をバックに歌うサンディ・デニーと比べ、このアルバムは全篇アコースティックの楽器をバックに歌うサンディのボーカルが楽しめます。
まずは、このアルバムではサンディ唯一の自作曲でジュディ・コリンズがカバーした"Who Knows Where The Time Goes"
サンディ・デニーは芯の強い声を持った歌い手ですが、電化されたサウンドよりも、こういったアコースティックギターの伴奏で歌う方が透き通った彼女の声が活きるように思いますね。
ブリティッシュ・トラッド(イギリスの伝承曲)は無伴奏が基本だということですが、サンディの歌は声だけで聴かせるものがあります。
この後のストローブスはイギリス的な深みのある音作りをするグループへと変化していく訳ですが、ストロベリー・ヒル・ボーイズはイギリス人によるブルーグラスのバンドとしてスタートしたということなので、このアルバム全体としてはブリティッシュというよりもアメリカンな空気が漂っています。
ストローブスというバンドはブリティッシュ・トラッド・リバイバル直系の流れの上にあるバンドという訳ではないようですね。
この"I'm On My Way"などは、正にこの時代のアメリカのフォーク・ロックといった感じの曲です。
後の方でリード・ボーカルをとっているのはトニー・ホッパー 。
アメリカ的なフォーク・ロック向きの声をした人です。バック・ボーカルをやらせても上手いですね。
トニー・ホッパーは次第にブリティッシュ色が濃くなっていくストローブスと方向性が合わなくなったのか1972年の『Grave New World』の発表後、脱退してしまいます。
対して、もう一方の結成時からの中心人物にして現在もストローブスを率いるディヴ・カズンズがリード・ボーカルの曲"How Everyone But Sam Was A Hypocrite"を聴いてみましょうか。
ここではアメリカのシンガー・ソングライター然として歌っているディヴ・カズンズですが、この後、次第にイギリス的な深い陰影を帯びたボーカリストへと進化していきます。
1973年の『Bursting At The Seams』あたりになると、ピーター・ガブリエルを彷彿とさせるようなメランコリックでドラマチックなボーカルを聴かせるようになります。
アコースティック楽器に加えてエリクトリック・ギターやメロトロンを使用した音は初期のジェネシスからハードなパートを抜いたようなサウンドです。
相変わらずディヴ・カズンズはバンジョーを弾いていてブルーグラス時代の片鱗は残っているもののブリティッシュ・トラッドにクラシカルな要素を加えロック(ポップ)ミュージックとして構成された音世界は既にプログレッシブ・ロックの域に達しています。そういえば、ジェスロ・タルもブリティッシュ・トラッドの要素の濃いプログレ・バンドでしたね。
プログレ時代のジェネシスの叙情性が好きな人には、このアルバムはいいかもです。
Bursting at the Seams/Strawbs
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さて、最後はやはり、サンディ・デニーのボーカルに戻りましょうか。
"Stay Awhile With Me"をお聴きください。
リズムをとる打楽器もドカドカした派手なドラムスではなく、これくらい控え目なほうがサンディのボーカルを聴くにはいいですね。バックのディヴとトニーのボーカル・ハーモニーも美しい。
サンディはこの翌年1968年にフェアポート・コンベンションに参加し、3枚のアルバムを残し1969年に脱退。
1971年にはアートスクールでジミー・ペイジ 、ピート・タウンゼントと同窓だった関係で『Led Zeppelin IV』とピートのソロ・アルバムにゲスト参加。
1974 - 75年、フェアポート・コンベンションに復帰しますが、1978年、階段の転落事故で死亡。
31歳でした。
この間、4枚のソロ・アルバムを発表しています。
サンディ・デニーの代表的なソロ・アルバムはこちら
1971年
The North Star Grassman And The Ravens
海と私のねじれたキャンドル+4/サンディ・デニー
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今回、紹介した『Sandy Denny & The Strawbs : All Our Own Work』というアルバムは、チャック・ベリーよりビートルズのロックンロール、黒人ブルースマンのアルバムよりもジョン・メイオール&ブルース・ブレーカーズ(クラプトンも含めて)のようなイギリス人によるブルースの方が日本人には馴染みやすいのと同じように、イギリス人の解釈によるフォーク、ブルーグラスは本場のものより聴きやすいように思います。
いい悪いは別としてアメリカの音楽から雑味を除いて旨みだけを蒸留したという感じですね。
サンディのボーカル曲を中心にディヴ・カズンズ、トニー・ホッパーがリードをとる曲、ブルーグラスのインスト・ナンバーを適正に配置したアルバム構成もバランスがいい。何よりもサンディ・デニーの歌声が非常に活きてるアルバムだと思いますね。
サンディ・デニーを初めて聴くにはフェアポート・コンベンションやソロ・アルバムよりこちらをオススメします。
Apple Musicで
Sandy Denny & The Strawbs : All Our Own Workと検索してお聴きください。
今月からApple Music使用料の引き落としが始まります。
まあ、使い倒しているので1カ月980円分は完全に元を取っていますが。。。