トリニダード発ジャマイカ経由マルティニーク行き | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

リミッターが外れたかのように気温が上昇していく毎日が続いていますが、

いつも聴いているカントリー、ブルース系の音が身体に入ってきません。

おまけにクルマのクーラーもぶっ壊れて、何もかもがどうでもよくなるような暑さの中、窓を全開にして聴くのにこういうバカみたいなゆる〜い曲(失礼、笑)がピッタリきました。

 

 

こちらは1950-56年の間にロンドンで録音された、当時はイギリス領だったトリニダード出身のカリプソ歌手たちの楽曲を集めたコンピレーションからの1曲、ロンドンのカリビアン・コミュニティで絶大な人気を誇っていたロード・キチナー"London Is the Place for Me"

この頃のアメリカでは黒人音楽も商業的に洗練されてきており、ちょっとこんな感じの曲がレコーディングさすれるということはあまり無かったんじゃないでしょうか。

もちろんアメリカにも1920〜30年代頃にはジャグ・バンドを組んでいる黒人とか、こういうゆるい感じの連中は居て録音も残している訳ですが、そのくらいの時代に収録されたものだと音質的に聴くのはちょっと辛いです。このコンピが収録されたのは1950年代前半頃なのでモノラル録音だと思いますが、2トラックで録音ができるレコーディング機器が普及していた時代ですから音質的には充分です。

私がワールド・ミュージックというモノを聴く理由はコンディションの良い音で、もう先進国には居ないような、とんでもなく身体性の高い演奏や歌唱を聴くことができるということなんですが、ライ・クーダーがハワイ、インド、マリ、キューバで現地のミュージシャンとセッションを重ねてきたのも、おそらく同じような理由だと思います。

 

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ヴァン・ダイク・パークスの『Discover America(1972)』の冒頭で"Jack Palance"を歌っていたカリプソの帝王マイティ・スパロウ(1956年デビュー)は入っていませんが、彼の先輩格にあたる先ほどのロード・キチナーをはじめとしたカリプソニアンたちのちょっとトボけた歌が楽しめます。まぁ、暑いのもしょうがないかという気分になれますね。

英語の歌詞の内容が判らず聴いてる分には南国的なのん気な歌に聞こえますが、実はカリプソというのは島にニュースを広げる方法として発展し、政治腐敗に対しても歌い、歌詞に鋭い批判性を有するものだったそうです。とぼけた歌い方をするのは比喩や暗喩を用いて当局の検閲から逃れるためだったのだと思いますね。

 

 

このカリプソをはじめとしたカリブの音楽というものを初めて世界に知らしめたのが"Day-O(バナナ・ボート)"の大ヒットで知られるハリー・ベラフォンテ

ベラフォンテはN.Yのハーレムに生まれ、父親はマルティニーク、母親はジャマイカ出身で共に黒人と白人の混血でした。

1956年秋に発表され、57年にミリオンセラーに輝いたのがこちらのアルバム。

 

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 ハリー・ベラフォンテはもちろん本場トリニダードのカリプソも歌っているのですが、それ以外にもカリブ海の島々の様々な民謡なども歌って、カリビアン・ミュージックというものを世界に向けて紹介しました。

 

ベラフォンテは7歳から13歳まで母方の故郷ジャマイカで少年時代を過ごしましたが、カーネギー・ホールでのコンサートでこの歌を唄う前にこう語っています。

「私はそこ(ジャマイカ)にいた頃、大抵の週の大抵の日の大抵の時はドックの周辺でほかの子供たちともっぱら泳いで過ごしました。でも船員たちが唄ってくれる歌や語ってくれる話に聞き入ることもありました。そのほとんどはここでリピートすることはできませんが、船員たちがどこか遠い国の島へ向けて出航していく時に唄った歌はいつも思い出します。彼らが唄ったのは"Jamaica Farewell(さらばジャマイカ)"という曲です」

 

 

この曲と同系統の "Come Back Liza"、"Brown Skin Girl"にも感じられますが、ハワイのフラにも通じる「島唄」の風情がありますね。浜辺で潮風に吹かれながら聴いているかのような雰囲気に浸れます。

ベラフォンテもアメリカの歌手なので、現地トリニダードのカリプソ歌手と比較すると洗練された感はありますが、何と言っても彼が選んだカリブの島々の歌という素材が良い。

さまざまな形で抑圧を受けてきた人々の辛い日常を歌った曲が多いのもカリビアン・ミュージックの特徴ですが、そこからも島人特有の楽観性と前向きさからくる、からっとした明るさが放たれていています。

 

 Harry Belafonte(1927-)

 

 

さて、ジャマイカの歌が出たところで、このスカやレゲエで有名なこの島にも寄ってみます。

ドン・ドラモンドのいた1964-65年のオリジナル・スカタライツの演奏もむせ返るような熱気の充満した街の雑踏を歩くときにはいい助けになってくれますが、ここはひとつ、スカ以前に1950年代のジャマイカで流行っていたメントという音楽でも聴いてみますか

実は"Day-O(バナナ・ボート)"も伝統的なジャマイカのメントソングをハリー・ベラフォンテがカリプソ風にアレンジして歌ったものなんですね。

この頃のジャマイカはトリニダードと同様にイギリス領でした。メントでもカリプソと同じく貧困や社会問題への批評が歌われますが、穏やかなものが多くテンポはカリプソに比べるとゆったりとしています。

ジャマイカで初めて録音された音楽であるメントは基本的にはヨーロッパから入ってきたクァドリールなどのダンス・ミュージックがジャマイカの黒人文化のなかで成長してきた音楽で、ルンバ・ボックス、バンジョー、ギター中心のバンドで演奏されます。

こちらはジャマイカの観光地ポートアントニオのホテルのショーバンドとして長年、メントを演奏していたというジョリー・ボーイズ。何と1945年から活動を続けているオジイさん達です。

少し長いですが、このビデオは中々、面白いですよ。

 

 

歯を抜きっぱなしにしてるとこが本物っぽいっすね(笑)

社会風刺はしているのでしょうがスカやレゲエの中にある過激に思想的なものとは関係なく、飯を食うために音楽を続けてきたという風情の彼らの中にスカ以前のジャマイカの音楽が保存されているように思います。

こちらは1989年の録音のデビュー(!)アルバム。

おそらく時代的にはデジタル・レコーディングされたものだと思うので、音が薄い感じはするものの、この夏の暑さに充分に対応できる音ですね。

そうしてみると、この破壊的な暑さをやり過ごすための音楽というのは音質だけでなく、人間的な要素も大きいようです。クーラーのない時代に育った人たちの出す音はやはり違います(笑)

 

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さて、最後はハリーベラフォンテの父方の故郷、カリブ海小アンティル諸島に浮かぶフランス海外県マルティニーク島から。

1990年前後、ワールド・ミュージックが日本でもブームになっていた頃、この島の伝統的なダンス音楽ビギンを継承しながら現代的なアプローチの作品を世界に向けて発信したマラヴォアが有名ですね。

同じくビギンで特徴的に使用される弦楽器のセクションをシンセに置き換え、バンジョーをリード楽器として用いるというスタイルのカリという人もマルティニークのアーティストでしたね。1988年の名作『Rasines』は私も当時よく聴いていました。

久々にこの2組のアーティストをこの夏、聴いてみましたが、何というか、音がクリアで気持ち良すぎて、この不快な暑さには合わないんですね。

この1990年前後の当時というと、軽井沢などの避暑地なら夏でもクーラーなしでも過ごせていましたし、夏の夜に多摩川の河川敷で聴いたオルケスタ・デ・ラ・ルス(世界的に活躍していた日本のサルサ・バンドです)のライブ演奏と夜風が心地良かったを想い出します。

昔の日本の夏というのは最高気温が大体27〜28度くらいで、たまに30度を超えるといった感じでしたもんね。スペイン語圏のプエルトリコ(→N.Y.)のサルサもドミニカのメレンゲもこの夏の不快なまでの暑さにはどうもしっくりきません。

若い頃ならサルサのような活力のある音楽を聴いて、自分自身の活力も湧かせていたもんですが、いまは歳のせいで肝心の活力が自分の中に残っていないということもあるんでしょうが。

弦楽器を中心に演奏されるエレガントで流麗なサウンドのマラヴォアも、カリの南の島のペンギン・カフェ・オーケストラという風情のミニマムなサウンドもこの暑さには適応できないという訳で、ビギン系のアルバムの中で、この夏に私が実際に使用しているのがこちら。

同じビギンを基調にしたスタイルでも弦楽器なしでクラリネットとピアノがリードをとる1966年に録音された、マルティニーク島と同じくフランスの海外県グアドループ島のビギン・オーケストラによるビギンの傑作集。

 

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ロベール・マヴンズィーという人のクラリネットがフィーチャーされていますが、アラン・ジャン=マリーのアドリブの多いピアノも非常にスリリングです。アフロなパーカッションもいい。

弦楽器を使用しない方がこの暑さには似合っていますね。

こちらは"Nous les cuisinières"というアルバム冒頭の曲です。

 

 

 

 

今回の記事は、単に暑いからカリブの島々の音楽を聴いて、この夏の暑さ対策として実用性のあるアルバムを選んでみただけで、私自身はカリブの音楽に詳しい訳ではありません。カリビアン・ミュージックをもっと知りたい方はこちらのタワー・レコードの『ヴィヴァ!カリビアン・ミュージック』で本当にカリブの音楽を愛する方々が書いた記事をどうぞ。

 

もうひとつ、今回の記事を書くにあたって、河村淳さんが書いた『ラテン音楽パラダイス』の第3章、カリブ海の島々の音楽について語られた〈バナナ・ボートでカリブ海めぐり〉を参考に一部引用させていただきました。

カリブ海の音楽としてはキューバ音楽というのが最も大きな存在なのですが、ルンバやマンボを生んだラテン音楽大国キューバについて書くには、あまりに巨大すぎて一介のロックリスナーの手には余るのでとても書けませんでした。

キューバの音楽について知りたい方はこの本の第1章〈音楽大国キューバ〉に詳しいです。