ボビー・チャールズ 最期の3枚 | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

この前、書いたのはボビー・チャールズのファースト・アルバムでしたが、今回は彼の最期の3枚のアルバムについて。

 

ボビー・チャールズは2010年1月14日に自宅で倒れて死去しますが、Apple Music では彼が2004年、2008年、2010年にリリースしたアルバムを聴くことができます。

Apple Music のサーバー上にあるのは、ウッドストックで収録された1972年の1stアルバム『Bobby Charles』、それ以前に彼がチェス・レコードなどで発表したシングル・レコードのコンピレーションと今回の3枚のアルバムだけですね。

 

ボビー・チャールズはウッドストックから立ち去った後に、1976年のザ・バンドの解散コンサート『ラスト・ワルツ』に参加。1978年にはレヴォン・ヘルムのRCOオールスターズの一員として来日。その後、暫くの空白期を経て、1987年『Clean Water』、1995年『Wish You Were Here Right Now 』、1998年『Secrets of the Heart 』とアルバムを発表します。

 

 

さて、ここからがボビー・チャールズが遺した最期の3枚のアルバムについて。

2004年にリリースされた『Last Train to Memphis』には1975~2001年の未発表音源15曲+先述した3枚のアルバムからのベストテイク19曲という2枚組。

 

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 収録された時期がバラバラなので、一堂に会したという訳ではありませんが、このコンピレーション・アルバムにはファッツ・ドミノ、ウィリー・ネルソン、ニール・ヤング、ジェフ・マルダー、マリア・マルダーなどの錚々たるアーティストがゲスト参加しています。

ボビー・チャールズはライブ活動を極端に嫌っていたこともあり、一般的に知名度のある人ではありませんが、それだけルーツ系のアーティストからは絶大な支持をされていたということなのでしょう。

 

まずはDisc1に収録されたこちらのタイトル・チューン"Last Train to Memphis"

 

 

う〜ん、これが未発表音源だったとは何とも、もったいない…

デルバート・マクリントンというブルース系のシンガーソングライターのハーモニカ(列車に関する曲にハーモニカはつきものですね)がフィーチャーされており、バック・ヴォーカルも担当。

この曲に限らず、未発表音源を集めたDisc1に収録されている15曲はどれもいい感じですねぇ。一応は発表されている3枚のアルバムからのベスト・テイクを集めたDisc2に勝るとも劣らない良質の曲揃いです。

 

ボビー・チャールズのレコーディングの参加ギタリストで目立つのがボビーと同郷のルイジアナ州出身のサニー・ランドレス

この1曲目のナンバー"Last Train to Memphis"のスライド・ギターも彼によるものですが、1995年の『Wish You Were Here Right Now(1995)』 以降のボビーのソロ・アルバムには全て参加していますし、このDisc1の未発表曲の内8曲に彼の名がクレジットされています。

サニー・ランドレスのスライドギターを楽しむなら、本人のソロ・アルバム(本職がギタリストなのでヴォーカルが弱いですね)よりもボビー・チャールズのアルバムで聴くというのも良い選択だと思います。

 

ウッドストック時代の仲間、ジェフ・マルダーがアコースティック・ギターを弾くtrack:2の"The Legend Of Jolie Blonde"

ウィリー・ネルソン、ニール・ヤング、マリア・マルダーという豪華なメンバーが参加しているtrack:11の"Full Moon On The Bayou"は後述する『Wish You Were Here Right Now』のアウト・テイクでしょうか。

track:13 "Sing"にはマッスルショールズでソングライター・チームを組んでいたダン・ペンとスプーナー・オールダムがギターとオルガンで参加。数々のサザン・ソウルの名曲を生んできた彼らもボビーの書く曲を認めていたということなんでしょうね。

 

Disc2は『Clean Water』『Wish You Were Here Right Now』『Secrets of the Heart』という3枚のアルバムからのベストテイク集。

このDisc2の曲を聴いて、DiscogsのBobby Charles ディスコグラフィーで出所のアルバムを調べると、今では入手困難なこの3枚の各アルバムの凡その雰囲気を知ることができます。

 

『Wish You Were Here Right Now』収録曲は、このDisc2のtracks:1〜8に当たります。

ウィリー・ネルソン、ニール・ヤング、ベン・キースが参加しているカントリー系の曲が特徴的ですね。

ニール・ヤングのギター(残念ながらハーモニカは別の人)、ベン・キースのペダル・スティールによるtrack:3の"I  Want To Be The One"

ウィリー・ネルソンのギターとバック・ヴォーカルが聴けるtrack:5の"I Remember When"

音が歪んでいないので(笑)判りにくいですが ニール・ヤングのギター・ソロが入っているtrack:7の"I Don't See Me"

これらの曲の中から1曲と思ったのですが、YouTube上には無かったので、代わりにこのアルバムの収録曲の中からは、ボビー・チャールズがファッツ・ドミノに提供して彼の代表曲の一つとなったtrack:4の"Walking To New Orleans"を貼っておきます。

最後の部分では何とファッツも参加してボビーと掛け合いで歌っています。

 

 

 

さて『Secrets of the Heart 』収録曲は、Disc2のtracks:9〜18に当たりますが、『Clean Water』に収録されている曲名がtrack:10,12,13と重複しています。クレジットされている演奏メンバーが同じなので、おそらく同じテイクが再収録されたものと思われます(同じセッションの別テイクの可能性はありますが)

『Clean Water』については単独で収録されているtrack:19のタイトル曲と併せても4曲だけでは全貌は掴みづらいですが、『Secrets of the Heart 』に関して言えば、テックス・メックスのtrack:11の"Angel Eyes"、ニューオリンズのマーチング・バンドのように賑やかなtrack:13 "Party Town "、ケイジャンの家系に生まれたボビーが祖先のルーツにまで遡ったかと思わせるシャンソン風のtrack:18 "Les Champs Elysées"などバラエティに富んだルーツを持つボビーの楽曲を聴ける内容だと言えそうです。

これもルーツ・ミュージックの一つと言えるオールド・タイムの小粋なジャス風のアレンジでtrack:12として収録されている"But I Do"

 

 

この曲はボビー自身が書いた曲の中でも、お気に入りだったようで『Clean Water』『Secrets of the Heart 』と次に紹介する『Homemade Songs』にも収録されています。

ボビー・チャールズが書いて、1961年にクラレンス・フロッグマン・ヘンリーという人が歌って全米4位になったヒット曲のようで、彼が書いた曲の中では"See You Later Alligator"と"Walking To New Orleans"に次ぐ有名曲なのでしょうね。

 

 

さて、お次は2008年リリースのこちらの作品。

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 このアルバムでも前作『Secrets of the Heart 』と同様、ボビーのアメリカン・ルーツ・ミュージック全般への造詣の深さが感じられる様々なスタイルの楽曲を楽しむことができます。

ですが、ここは一つ これぞボビー・チャールズという雰囲気のタイトル・ナンバーtrack:9の"Homemade Songs"を、

 

 

歌という素材そのものを活かした、非常にシンプルなアレンジです。これはボビー・チャールズ、よほどの自信作なのでしょう。

アーティストによっては時代の流れとともに音楽性が進化していくというタイプの人もいる訳ですが、この人は変わらないですねぇ。

1stアルバムの時とはバッキングのミュージシャンは変わっていても(ベン・キースだけはボビーをサポートし続けていますが)この最期の3枚で聴くことのできるボビー・チャールズの歌の本質は30年以上の月日を経ても不変です。1stアルバムに収録されていた名曲"Tennessee Blues"もこのアルバムではtrack:14で再演されています。

 

オープニングとラストの曲がアメリカの一般庶民が大好きなスポーツであるアメフトの"The Football Blues"と野球の歌と思しき"Sweep ‘Em"という曲であることが象徴的ですね。

ボビー・チャールズも晩年はスポーツ観戦を一番の楽しみにしているその辺のアメリカのオヤジさんといった感じだったんでしょうね。

この2010年のラスト・アルバムのジャケ写真を見てもそんな佇まいです。

 

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遺作ですがほのぼのとした暖かいボビーの歌声が楽しめる作品です。

1年程前に肝臓がんで亡くなったグレッグ・オールマンの遺作『Southern Blood』に濃厚に感じられる、自らの死を悟った男の最期の作品という雰囲気は微塵も感じられません。

腎臓がんの治療から回復中だったということもあるのかもしれませんが、これはやはり彼の人柄。死を予感していたとしてもこういう、いつもと変わらぬ自然体の歌声の聴けるラスト・アルバムになっていたのではないでしょうか。

特にこのtracks: 1 "Happy Birthday Fats Domino"の何とも賑やかで陽気なこと。

 

 

この曲のギターはデレク・トラックス、ピアノがニューオリンズ・ピアノの伝統を受け継ぐジョン・クリアリーという中々のラインナップなんですが、どうもこの曲は1998年の『Secrets of the Heart 』にも収録されておりクレジットも同じなので、この時のレコーディングが再度、収録されたもののようです。

1998年に演奏されたものだとすると、デレクはまだ19歳。デレク・トラックス・バンドの2ndアルバム『Out of The Madness』がリリースされた頃にあたります。そう思って聴くとデレクの間奏のギター・ソロもこの曲のほのぼのとした雰囲気にそぐわないくらいアグレッシブで若々しい感じがしますね。

 

もちろん、サニー・ランドレスはこのアルバムでもギターを弾いていますが、デラニー&ボニーの『Accept No Substitute』に参加したジェリー・マギーがtracks: 2, 7, 8, 12でリード・ギターを担当しているのも嬉しいところ。

プロデュースはボビーとドクター・ジョンが共同で担当。ドクターは何曲かピアノとオルガンを弾いてるようですね。

 

実はこの『Timeless』は、ボビー・チャールズが敬愛するファッツ・ドミノに捧げるために制作されたアルバムで、2010年2月のファッツの誕生日近辺に合わせて発売予定でしたが、当のボビーが1月に自宅で倒れて71歳で亡くなってしまったという何とも皮肉な話ですが、自身の体調も優れないのに他人の誕生日を祝おうとして自分が先に死んでしまうというのも、実にこの人らしい死に方という感じがします。

ちなみにボビーより10歳ほど年上のファッツ・ドミノはこの7年後の昨年、2017年に89歳で大往生。。。

 

この人の場合、詞も良さそうですよねえ。特にtrack:7では1stアルバムで歌った"Grow Too Old"をこのラスト・アルバムで"Before I Grow Too Old"と変えてボビーは歌っていますが、実際に歳をとったボビーどう歌詞を変えたのか興味深いところです。

このブログはCDを買う小遣いのない人間が、月980円のApple Music でどこまで音楽生活を楽しめるか試しているブログではあるのですが、訳詞付きの日本盤CDが欲しくなりますね。

 

死亡する直前のレコーディングでこのクオリティです。もう少し長生きして、もっとたくさんのいい歌を聴かせて欲しかったです。

 

 

photo credit: Robin May