ライ・クーダー『The Prodigal Son』 | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

普段、このブログでは主に70年代前半頃のアルバムを取り上げているので、新譜を紹介することはありませんでしたが、5月11日にライ・クーダーの新作アルバム『The Prodigal Son』が発売されましたので、ライ・クーダーがフェイバリットの私としては記事を書いてみることにしました。

 

前作『Election Special(2012)』から約6年ぶり新作ということなので、私がこのブログを始めてからは初めて出たライ・クーダーの新譜ということになります。

アルバム全体を通して聴いてみて、曲調は様々で全体としての統一感は無いような印象はありますが、本作でライ・クーダーが取り上げた歌の作者を調べてみると黒人、南部の白人であるとを問わず、敬虔なクリスチャンであるとか、宣教師をやっていたなどというゴスペルの匂いのする人が多く、曲名もそれっぽいのが多いですね。

一般的にゴスペルと言われるものは音楽的にはブルースやR&Bと大きな差はないのですが、違うのは詞の内容ですね。

神に向けて苦悩を訴えたり、神への愛を歌えばゴスペルということになります。

詞の内容がゴスペル(福音)であれば曲調がロックであれカントリーであったとしてもゴスペル音楽と呼んでもいいのだと思います。

私見ですが、本作はライ・クーダーによるゴスペルのアルバムではないかと感じました。

 

このニュー・アルバムの中から、ライ・クーダー自身によりYouTube に3曲のスタジオ・ライブと1曲のCD収録音源がアップされていますので、これらの動画を交えつつ、以降は順に収録曲について紹介していこうと思います。

 

The Prodigal Son The Prodigal Son
1,509円
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Track Listing

 1. Straight Street(The Pilgrim Travelers)

 2. Shrinking Man(Ry Cooder)

 3. Gentrification(Joachim Cooder / Ry Cooder)

 4. Everybody Ought to Treat a Stranger Right(Blind Willie Johnson)

 5. The Prodigal Son(Traditional)

 6. Nobody’s Fault But Mine(Blind Willie Johnson)

 7. You Must Unload(Alfred Reed)

 8. I’ll Be Rested When The Roll Is Called (Blind Roosevelt Graves)

9. Harbor of Love (The Stanley Brothers )

10. Jesus And Woody (Ry Cooder)

11. In His Care(William L. Dawson)

カッコ内には作者ないしは原曲のアーティスト名を入れています。

 

オープニングのナンバーは1940〜50年代にかけて流行したリード、テナー、バリトン、ベースという4つのパートからなるコーラス・スタイルで歌うゴスペル・カルテットの一つピルグリム・トラベラーズ"Straight Street"

サム・クックが在籍していたソウル・スターラーズと同時代に活躍したゴスペル・カルテットですが、R&Bの影響を受け、世俗的な音楽としても高度に洗練されたピルグリム・トラベラーズの原曲よりもライのカバーは、むしろ敬虔な雰囲気が感じられます。

 

 

このスタジオ・ライブには参加していませんが、CDに収録されたスタジオ録音にはバック・コーラスが入っています。

このアルバムで特筆すべきことは、1974年の『Paradise& Lunch』のレコーディングから1987年の『Get Rhythm』までのライ・クーダーのサウンドで重要なパートを占めていた男性ヴォーカルによるゴスペル・コーラス隊が、この当時に参加経験のあるボビー・キング、テリー・エヴァンス、アーノールド・マックラーにより再編成されていることです。

この1曲目から音全体に厚みと奥行きを与え、その真価が発揮されてますね。

 

2曲目はライ・クーダーのオリジナル曲"Shrinking Man"

途中で、どう聴いてもチャック・ベリーの"Johnny B. Goode"のような間奏が入ります。ライがこんな超有名でベタなナンバーを演るのは珍しいですが、ライも70歳過ぎて人間が練れてきたということか(笑)

 

 

『Get Rhythm』に収録されていたようなライにしては少しハード目でキャッチーな作りの曲です。この曲と4曲目の"Everybody Ought to Treat a Stranger Right"、タイトル・チューンの"The Prodigal Son"、ラスト・ナンバーの"In His Care"がそうした系統の曲に当たりますね。

 

続く"Gentrification"はライ・クーダーの息子、ヨアキム・クーダーとライの共作。アルバム全体のプロデュースも彼と父親のライが共同で行なっています。

ドラム、パーカッション奏者のヨアキムが作った曲らしく、イントロ部分がパーカッションのみで構成されています。。

先程、述べた『Get Rhythm』を彷彿とさせるサウンドの印象はヨアキムのパーカッションによるところが大きいと思いますね。

Joachim Cooder YouTube で検索すると彼がアフリカの民族楽器、カリンバのような音階のある楽器を指で弾いている動画を観ることができますが、見たこともない楽器なので自作で打楽器も作っている人なのかもしれませんね。

ファンの勝手な願いとしては一子相伝でスライドギターの職人芸の極意を引き継いでもらいたかったのですが…

 

4曲目はライ・クーダーのアルバムではお馴染みのブラインド・ウィリー・ジョンソンの曲"Everybody Ought to Treat a Stranger Right"

1897年に生まれ、優れたスライドギター奏者だったジョンソンは、ブルースに多大な影響を与えましたが、ギターを弾きながら福音を伝える宣教師だった彼はゴスペルの先駆的な存在です。

こちらのスタジオ・ライブではピックアップ付きですが、アコースティック・ギターで小指にボトルネックをはめたライのスライド・プレーを観ることができます。

 

 

5曲目でタイトル・チューンの"The Prodigal Son"もヨアキムのパーカッションとともに始まります。

今度はライもエレキギターでかなりロックっぽいプレイを聴かせてくれています。

 

 

トラディショナル・ソングですが、アルバムに収録されているスタジオ録音の方はギターの音にもミキシングが施されており、このスタジオ・ライブよりも更にガレージ・ロック的な雰囲気に仕上がっているので、これはヨアキム・プロデュースの曲でしょうか。

曲名のProdigal Sonとは「放蕩息子」を意味していますが、新約聖書ルカの福音書に、キリストが語った神のあわれみ深さに関する放蕩息子のたとえ話というものがあるそうなので、これに関係した伝承曲と思われます。

これをアルバム・タイトルにしたということは、ひょっとして「放蕩息子」とはゴスペル的な意味合いと同時にヨアキムのことを指している?(笑)

 

6曲目もブラインド・ウィリー・ジョンソンのブルース曲"Nobody’s Fault But Mine"ですが、ダニエル・ラノワのプロデュースを思わせるアンビエントとルーツ・ミュージックを融合したようなサウンドに仕上がっています(これもヨアキムのアイデアのような気がしますね)

『Paris, Texas』での"Dark Was the Night"のような弦の擦れる音のするスライドギターを聴くことができますが、音の間から救いようのない苦悩が立ち上ってくるようです。

 

次の曲"You Must Unload"は1stアルバム『Ry Cooder』で取り上げた不況時代の歌"How Can a Poor Man Stand Such Times and Live?"と同じアルフレッド・リードの作品。

リードは1880年にアパラチア山岳地方の貧農の白人層に生まれた盲目のフォーク・シンガーですが、敬虔なクリスチャン(メソジスト教会の宣教師もしていました)のようでホワイト・ゴスペル的なメッセージ性のある曲を作っています。

フィドルを演奏して弾き語りをした人のようですが、ライ・クーダーもこの曲でフィドラーを起用しています。

それにしてもライはこの曲では切々とした情感を込めてこの曲を歌い上げていますね。

"How Can a Poor Man Stand Such Times and Live?"を歌った当時の23歳のライにはまだ歌えなかった曲なのだと思います。

ライ・クーダーはギタリスト兼ヴォーカリストの人ですが、70〜80年代の頃には圧倒的に優れたギタリストとしての存在感が際立っていましたが、近作になるにつれてヴォーカリストとしての比重が高くなってきたように感じられますね。

 

8曲目の"I’ll Be Rested When The Roll Is Called"ではライ・クーダー初期の不況三部作を思わせる演奏が聴けます。

ドラムス&ベースはジム・ケルトナーとクリス・エスリッジではないものの、こういう音は70年代のライ・クーダーを愛好する者としては堪らないですね。

原曲はブラインド・ルーズヴェルト・グレイヴズ。この人は1909年の生まれでミシシッピ州ハティズバーグを拠点にギター、ピアノとコルネットから成るブルース・バンドを編成して1920年代から30年代初めにかけて活動していたようです。

この人も盲目ですが、ライ・クーダーが昔から盲目のシンガーの歌をよく取り上げるのはライ自身も幼い頃に片目を失明したということと関係しているのかもしれませんね。

曲のタイトルは「天国から呼ばれて、やっと休めるだろう」と言ったような意味なので、貧乏暇なしの生活を歌ってるのでしょうが、歌の内容としては、やはりゴスペル寄りなのかな。

 

続く"Harbor of Love"はブルーグラスの創始者ビル・モンローのフォロワーとして1946年にキャリアをスタートした、バージニア州のクリンチ山脈近くの牧場に生まれた白人の兄弟デュオ、スタンレー・ブラザーズの曲ですが、ギターとリード・ヴォーカルのカーター・スタンレーはシンプルな歌詞に強い感情をのせた曲を作る人で、この曲にもホワイト・ゴスペル的なソウル・フィーリングが感じられます。

 

10曲目の"Jesus And Woody"はライ・クーダーのオリジナルですが、まるで古くから伝わるトラディショナル・ソングのように聴こえてきますね。

 

さて、最後はヨアキムのメタリックなパーカッションとライのエレキのスライドが唸りを上げるハードなナンバー"In His Care"で幕を閉じます。

作曲者はウィリアム・ドーソンとなっていますが、この人は1899年生まれの黒人ながらクラッシックの作曲家になった人(レヴィというミドルネームからするとフランス人を父親に持つクリオールでしょうか)

ゴスペルの元となった黒人霊歌(スピリチャル)を合唱曲に編曲するという仕事も行なった人なので、この曲にも本歌となるスピリチャルはあったのだと思います。

 

 

世界的なヒット作となった1997年の『Buena Vista Social Club』以降、ソロ・アルバムでもラテン・ルーツのアルバムが多かったライ・クーダーですが、本作で本格的にアメリカン・ルーツの音楽に戻ってきたという感じがしますね。

前作『Election Special』で既にその兆しはありましたが、あまり作り込まれた印象はないアルバムでした。本作はかなり本腰の入ったライ・クーダーのアメリカン・ルーツ・ロックが久々に楽しめる作品だと思います。

何よりも嬉しいのは、ここのところプレイすることが少なくなっていたスライドギターをかなり弾いてくれたことでしょうか。

 

 

ライ・クーダー、71歳にしてこの力作は立派、息子ヨアキム39歳の貢献も大きいね。