ライ・クーダー 『Paris, Texas』 | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。


ライ・クーダーに関しては、これまで彼が70年代に発表したの作品の中から5枚のアルバムについて記事を書いてきましたが、このあたりはいわゆる「後追い」で聴いている作品です。
私が最初にライ・クーダーのスライドギターを聴いたのはヴィム・ヴェンダース監督のロード・ムービー『Paris, Texas』のサウンドトラックでした。


今回、ブログのジャンルを「Apple Music」ではなく、YouTube上にある良質な音楽動画を紹介する「YouTube ミュージック・ナビ」としたのは、このサウンドトラックの音源がApple Music のサーバーに無かったからです。
厳密に言うと1曲目のテーマ曲"Paris,Texas"だけは存在するのですが他の9曲が全滅でした。
こういうことはApple Music ではよくあるんです。
1984年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞して話題になった映画だったので、何かそのあたりの権利関係の問題なのでしょうか?


とは言え今回のブログ、ロビー・ミュラーの撮影した映像にぴったりとハマるライ・クーダーのギターを楽しんでいただけると思います。


まずはこの映画のオープニング・シーン。
テキサスの原野を歩く一人の男、トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)
その目的地は「テキサス州のパリ」
この荒涼とした風景の中でライのスライドギターだけが鳴っています。



弦の擦れる音までマイクがクリアに拾っていますね。
このレコーディングのエンジニアを担当したアレン・サイズはライ・クーダーとは様々な映画音楽を録音してきた仲で、ライの意図をよく汲み取った収録を行なっています。
ライのギターの背後で響いているサウンドエフェクトのような音はライの盟友デヴィッド・リンドレーによるものでしょうか。


私がスライドギターの魅力に目覚めたのは、この"Paris, Texas"からでした。
以来、デュアン・オールマンやローウェル・ジョージなどスライドギターの名手と言われる人たちの演奏を聴きまくってきましたが、ことアコースティックのスライドではこの人の演奏が一番だと思いますね。




この後、トラヴィスは辿り着いたガソリンスタンドで行き倒れになりますが、持ち物の中の一枚の名刺から彼の弟に連絡が取られます。
4年前に妻のジェーン(ナスターシャ・キンスキー)と息子のハンターを残して失踪していたトラヴィスを弟のウォルトは苦労の末、テキサスからロサンゼルスの自分の家まで連れ帰ります。


このサウンドトラックに使われている曲の大半はライ・クーダーが1stアルバムでも取り上げたブラインド・ウィリー・ジョンソン"Dark Was The Night"の変奏曲で占められていて、トラヴィスの不安や絶望などの心理描写をギターで見事に表現しています。

もう1曲、使われているのが古いメキシコ民謡の"Cancion Mixteca"
こちらの方は次に貼ったような心温まる回想シーンに用いられています。


トラヴィスの失踪後、大切な息子を自分で育てることが出来ないと悟ったジェーンは、ハンターをウォルト夫婦に預けて自分は一人になります。こうして三人の家族はバラバラになってしまいます。
弟のウォルトの家でトラヴィスとハンターは再会し、幸せだった頃の3人の家族がウォルト夫婦とキャンピングカーでビーチに遊びに行った時の8ミリフィルムを観ます。



これも定評のあるライ・クーダーのフィンガー・ピッキングのギター演奏。
このサウンド・トラックのレコーディングに参加したのは、各種の楽器を担当したデヴィッド・リンドレー、ピアノのジム・ディッキンソンというライ・クーダーのアルバムではお馴染みのメンバー。
この曲でも息の合った演奏を聴かせています。
わずか4日間でサウンドトラックを仕上げたと言われていますが、気心の知れたこの3人なら、あり得る話しです。


再会はしたものの、何となくぎこちないトラヴィスとハンターですが、8ミリフィルムを観たときから少しずつ二人の関係は変わっていきます。


さて、この映画ではライ・クーダーのギターが映像のバックで常に流れている訳ではないんです。
こちらのシーンをどうぞ



父親らしくスーツを着込んでハンターを学校に迎えに行ったトラヴィス。
最初はお互いを意識しながらも道を隔てて歩いていた二人ですが、ついにトラヴィスが道を渡りハンターと並んで歩き始めるところでライのギターが入ってきます。非常に効果的な音楽の使い方ですね。


ウォルトの妻、アンヌは母親代わりにハンターを育ててきましたが、そんな二人の様子を見てやはり自分は本当の親にはなれないと悟ります。アンヌはトラヴィスに「ジェーンがヒューストンの銀行から毎月送金してくる」ことを教え、トラヴィスとハンターはジェーンを探しに、ヒューストンに旅立つことになります。



次に聴いて頂きたいのは"Houston in two seconds"
二人がジェーンのいるヒューストンに向かうシーンで流れます。
残念ながらYouTubeではこのシーンが見つからなかったのですが、この映画の中では一番好きなトラックなので貼ってみました。



これも"Dark Was The Night "の変奏曲なのですが、原曲とは違う、ほのかな希望の匂いがするところがいいですね。
二人の期待と不安が入り混ざった微妙な心理を描写しています。


ヒューストンで銀行を見張っていた二人は、ジェーンらしき女性の後を追い、トラヴィスはジェーンが「のぞき部屋」で働いていることを知ります。
翌日、「のぞき部屋」を訪れたトラヴィスはマジックミラー越しにジェーンとお互いの気持ちを語り合い、最後にハンターのいるホテルのルーム・ナンバーを告げて立ち去ります。




最後の曲です。


ラストシーンでついにブラインド・ウイリー・ジョンソンの"Dark Was The Night"が原曲どおりのカバーで流れます。



自分のせいで離ればなれになった母と子を再び結び付けるという、彼がやり遂げなければならなかったことの成就を見届けたトラヴィスが夜の闇に消えていくラストシーンに、この曲は本当に相応しいですね。


ヴェンダースは『Paris,Texas 』の制作を始める前から、脚本はサム・シェパード、音楽はライ・クーダーに依頼することを決めていたそうですが、確かにこの映画のサウンドトラックはライ・クーダー以外は考えられないですね。


80年代にライはこの映画の他、『ロング・ライダース(1980)』、『クロス・ロード(1986)』など数多くの映画で音楽を担当しています。
映画音楽の仕事について彼は「自分のアルバムだけでは食えなかったから」と語っていますが、元々、ライの作る音楽は優れて映画音楽的です。
私もライ・クーダーのアルバムはいつもBGMとして流している感じですね。
彼の音楽はそこに流れているだけで、その場の空気を変えてしまう力を持っています。


数あるライ・クーダーのアルバムの中でも、彼の名人芸と言うべきアコースティックのスライドギターを満喫できるのは、やはり、このアルバムでしょうね。



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