前回、紹介した『On Tour With Eric Clapton 』はデラニー&ボニーのボーカルとフレンズの演奏が渾然一体となって、スワンプ・ロックのグルーヴ感を醸し出しているライブ・アルバムでした。
今回、紹介するのは『On Tour…』の前年に発表されたデビュー・アルバム『Accept No Substitute 』(実質的にはセカンド・アルバム)
デラニー&ボニーのソウルフルなボーカルを中心に据えたスタジオ・アルバムです。
1969年の作品
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メンバーはこのアルバムの発売後のイギリス・ツアーと大体は同じなのですが、違いはギタリストとドラマー。
この時のツアーの模様を収録した『On Tour…』というライブ・アルバムはエリック・クラプトン、ジョージ・ハリソン、デイブ・メイスンというイギリス人のロック・ギタリストと豪快で疾走感のあるドラミングが持ち味のジム・ゴードンというドラマーが参加したことにより、前作のこのアルバムよりも、かなりロック色が強まった作品だと思います。
対して、『Accept No Substitute 』の収録に参加したギタリストとドラマーの特徴とこの作品に及ぼした効果については後で触れたいと思います。
Delaney Bramlett - guitars, vocals
Bonnie Bramlett - vocals
では、まずはミシシッピ州の深南部(ディープ・サウス)に生まれ、デルタ・ブルースやゴスペルに親しんで育ったデラニー・ブラムレットのボーカリストとしての実力を遺憾なく発揮している、この曲から、お聴きください。
デラニーとボニーが共作した、ゴスペル・ソウル
このアルバムでデラニー&ボニーと並ぶほどの存在感があるのがレオン・ラッセル
彼のピアノを堪能するには、ソロ・アルバムよりも、演奏に徹している分、このアルバムが最適と言えるかもしれません。
この曲のピアノも素晴らしいですね。
Leon Russell - piano
デラニー&ボニーとしての最初のレコーディングはサザン・ソウルの中心地、メンフィスのスタックス・レコードとの契約で1968年に収録されました。
演奏もスタックス・レコード専属のスタジオ・バンドとしてオーティス・レディングのバックも務めた、ブッカー・T&ザ・MG'sが担当してますので、これはもう、立派なソウル、R&B (現在、使われている意味ではなく、1950~60年代のリズム&ブルース)のアルバムと言ってよいのでしょう。
ところが、この音源はお蔵入り(『Accept No Substitute 』の成功により、アルバム『Home 』として発売されることになります)してしまいます。
そこで、2人は出逢って結婚した地、ロサンゼルスに戻り、エレクトラ・レコードと契約。LAで活動する南部出身の白人ミュージシャンを集めて収録したのが、このアルバムです。
スワンプ・ロックの原点となったアルバムと言われているようですが、ロック・リスナーの私の耳には、どうしてもソウル、R&B(この2つの区別も、どうも曖昧です)に聴こえてしまいますね。
白人ミュージシャンによるものなので、黒人によるソウルとはフィーリングに違いはあるのでしょうが。
さて、来歴の説明が長くなったので曲いきましょう。
ニューオリンズ・テイストの濃い、この曲はドクター・ジョンの作品。
ボニーとデラニーは交代でリードをとり、最後は夫婦ならではの息の合った掛け合いを披露しています。
南部っぽいねえ
このアルバムでドラムスを担当しているのは当時、LAスワンプ・シーンではジム・ゴードンとライバル関係にあった名手ジム・ケルトナー。
この曲でも、かなり複雑なリズムを難なくこなしてますね。
フロントマンをうまく引き立てるドラミングをする人なので、このアルバムでデラニーとボニーのボーカルが際立って素晴らしく聴こえるのも、彼の演奏によるところが大きいように思います。
アルバム全体にも落ち着いた雰囲気が感じられるのも、そのせいでしょうか。
Jim Keltner - drums
次はセント・ルイスで育ち、メンフィスで様々な歌手のバック・コーラスをして、歌唱力を磨いたというボニー・ブラムレットのリード・ボーカルをお聴きください。
ボニー・ブラムレットのボーカルはデニーよりも明らかに黒っぽいです。
さすがはアイク&ティナ・ターナー専属のヴォーカル・グループ、アイケッツに、初の白人メンバーとして加入しただけのことはあります。
ソウル界の大御所ご夫妻も認めたボーカルということですね。
デラニーとボニー、それぞれのリード・ボーカルをお聴きいただいたので、最後はデュエット曲をどうぞ。
アレサ・フランクリンの名唱で有名な楽曲です。
曲が曲なので、これはもうスワンプ・ロックではなく、スウィート・ソウル・ミュージックですよね。
このアルバムでギターを弾いているのはジェリー・マギーという人。
幼少期からケイジャン・ミュージックやカントリー、ブルースといった音楽に囲まれた環境で育った人だということです。
このレコーディングの後、ベンチャーズに加入するため、ジェリーはバンドを脱退しました。後釜に座ったクラプトンは、ジェリーの在籍時に残した音源を聴いて非常に感銘を受け、カントリー・ミュージックやアメリカ深南部のブルースに開眼することになったというのは有名なエピソードらしいです。
この曲を聴いても、この頃のクラプトンのギターと比べて、格段に渋い演奏ですね。
Gerry McGee - guitars
『On Tour…』やデレク&ザ・ドミノスを聴いてスワンプ・ロックを好きになった人が聴くと、少し肩透かしをくらったように感じるかもしれませんが、ひとつひとつの楽曲の素晴らしさは、ロック・リスナーの私にも、よく分かりました。
同じ黒人音楽の影響を受けた白人でもアメリカの白人とイギリス人とでは出てくる音がずいぶん違うなと思いますね。アメリカの白人の方が、より現場に近いというか。特に南部では黒人音楽と白人音楽が互いに影響し合った共通の音楽文化があるようですから。
今回、『On Tour With Eric Clapton 』とこのアルバムを比較して聴いてみて、ロンクンロールはアメリカで誕生したが、ロックはイギリスで生まれてアメリカに逆輸入されたものだということを改めて感じました。
さて、次回の『Motel Shot』はスタジオ・アルバムでもライブ・アルバムでもありません。
えっ、それってどんなの⁇