「え? ここで降りるの? 病院、ここじゃなかったよね」
「先生は今日はここにいるらしくて」

高瀬先生に、今日はふたりとも呼ばれているからと連れてきた。
もちろんそれは嘘ではない。
昨日、それを聞いてからの彼は落ち着きを失っていた。
大丈夫だよ。体はぜんぜん平気だよ。
慰めても気の抜けたような返事しか返ってこなかった。
彼と高瀬が会うのは2年ぶりになる。
この2年のなんと早かったことか。
彼の横顔を見る。万感の思いを込めて見る。
あなたはわたしの勇気だった。
あなたといれば、何でもできるような気がした。
「ここ、病院じゃないよね」
訝し気に建物を見上げる。
「病院じゃないんだけど、検査機器は揃ってるらしいわ」
何か質問が来るかと思ったけれど、そか、と歩き出した。
「先に検査してもらうから。その後、涼ちゃんの番かな」
彼の手を握り、検査室の前のソファから立った。
ついにこの日がやってきたのだ。
手のひらは離れても、離れがたい指先が切なくてしょうがない。
これで、最後だ。けれど、それを伝える術(すべ)はない。
否応なく時は過ぎる。すべてのものには終わりが来る。
彼の肩を撫で、行ってくるねと呟いた。
「まず最初に」小さく咳払いをして、高瀬は少し苦しげな顔になった。
「美玖は?……」
ふたりで話を聞くはずだと思っていたが、彼女がいない。まだ検査の途中なのだろうか。
ゆるゆると首を振った高瀬は、目を閉じた。
「彼女は──美玖さんは、もうすでに、この世にはいません」
「え?」椅子から上半身を乗り出した僕は首を傾げた。
「な……何を言ってるんですか?」
余命宣告を受けてから紹介という形で会ったのが、高瀬と名乗るこの男だった。美玖の命の恩人だったはずだ。
閉じていた目を開けて、高瀬は話を始めた。
とても長くて、とても不思議な話を。
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