「でも、あの日美裕が死んだ。あたしのせいで」
勝手にページがめくれてゆくアルバムを見つめながら美佐枝は呟いた。
「もういいのよ、自分を責めたって誰も救われやしないんだから。いつまでもそんなこと言ってると美裕が悲しむよ。ヒロちゃん、美裕ちゃんはそこにちゃんと座ってるんでしょ」
母が覗き込むように前かがみになった。
「座ってるよ。ちゃんとかどうかは怪しいけど。いてッ」
美裕が裕史の足でも蹴ったのだろうか。裕史が左ひじで横をグイグイと押している。それはパントマイムの域を越えている。かなり体が傾いても倒れないのだ。やっぱり美裕がいる。
見たい。姉弟の仲の良い諍(いさか)い、母として、この目で、見たい。
生きていればもう25歳。けれど、自分の中で幼いころのままで成長を止めてしまった娘の今を、想像できないもどかしさ。
「そうよね。だってアルバムのページがめくれるものねえ」母はコクコクと頷いている。
ぷッ! 突然吹き出した母につられて美佐枝も吹き出した。
スッと浮き上がったアルバムが上下に激しく動いているからだ。
「美裕ちゃんお茶目ね」母が目じりをぬぐう。
するとアルバムがくるりと裏返った。
「この写真は何かって訊いてるよって、どれ」
裕史が腰を上げて覗き込んだ。
「ああ、ここに写っている人は誰かって、これね」裕史が指さす写真に、美佐枝はソファを下りてテーブルを回り込み、膝でにじり寄った。
「ん? ああ、ダメだ眼鏡」テレビ台の下から眼鏡を取り出し改めて写真を見た。
年のころは40台ぐらいの男女だ。近所の人? いや、ピクニックとはいえ、これは内々の弔いだ。そんなところに家族以外の人を連れて行った覚えなどない。

「知らない。……知らない人が写ってる」
グッと突き出されたアルバムを手に取った。
見えないけれど、美裕が手渡してくれたアルバム。
「もう一回。ね、美裕もう一回」美佐枝はアルバムを差し出した。
宙に浮いたアルバムが再び突き出される。
それを手に取ると、動かない。いたずら心で美裕が引っ張っているのに違いない。
目には見えない。触ることもできない美裕の存在が、アルバムを通して確かに伝わってくる。
涙で景色がぼやける。
「何引っ張り合いしてるの」裕史の声がする。
「あんた、今画期的なことが起こったって気が付かないの」
「ん?」
「無理だね。あんたにゃどっちも見えてるんだものね」
「ああ、そいういことかあ」裕史はできの悪い学生みたいに頷いている。
「お願い。美裕もう一回」
「しつこいね母さん」
「あんたは黙ってて」
要望に応えるように、掴んだアルバムが再び引っ張られた。
「それより、誰かって話は?」
「ああ、そうね。しかしあんた情緒がないね。いったい誰に似たんだろう」
開かれたアルバムが、再びこっちを向いた。
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