「え……」
僕の発した小さな驚きの声は、ぷかりと宙に浮かび、空気に紛れていった。
僕が裕江叔母さんの子供?
母が最初に口にした双子というのは、嘘だったということ?
それは、目の前の母が、疑うことすらしなかった母が、実の母ではなかったということに他ならないではないか。
晴れた空に突如とどろく雷(いかずち)。
そう、それは僕にとって、まさに青天の霹靂(へきれき)だった。
アイデンティティクライシス……自己認識の危機。
真っ白な頭の中に、その単語だけが浮かんだ。

「ヒロちゃん、落ち着きなさい。ほら、泣くんじゃないよ美佐枝」顔を覆い、肩を震わせている母を祖母が励ます。
「裕江が生んで、あんたが育てた。ね、ね。美佐枝も裕江もあたしの子供だって、さっき言ったでしょ? 美裕も裕史もあたしの孫だって言ったでしょ? あんたたちにとっては大事なことだろうけど、あたしにとっちゃ、大した問題じゃない」
だからさ……。祖母は言葉を整理するように間をあけた。
「どこの誰だかわからない他人を育てたわけでも、どこの誰だかわからない人に、我が子を預けたわけでもない。あたしがお腹を痛めて生んだ娘が、あたしの孫を生んで、そして、育てたってことだから」
祖母はかなり強引な論法を展開した。けれどそれは、奇妙な説得力を持っていた。
「そうだよ」美裕が頷いた。
「ほら美佐枝、話をしてあげなさい。あんたのかわいがってた妹の話を」
口を引き結んで顔を上げた母は、ひとつ鼻をすすって話し始めた。
「あたしも出産間近でね」ふぅーっと吐いた息が、リビングの空気を震わせた。
「お互いの子供のために、産着やおくるみを贈りっこしてさ。あたしもセーターやら帽子を編んでさ、楽しみにしてた。
一緒に育った妹がさ、もうほとんど同時と言ってもいいぐらいに命を授かったんだからさ、嬉しかった。だから」母は手の甲で涙をぬぐった。
「裕江が生みたいって気持ちが痛いほどわかって……強く止められなかった。あたしが弱かったのかねえ」
ソファに背を預けた母は、封印した記憶を探るように窓の外を見た。
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