見えない彼女「21」 | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

「え? 靴がなくなったことと、このインクと関係あるのか」
先生は怪訝そうな顔で交互に見た。その表情には面倒なことは避けたい色が、ありありと浮かんでいた。

この先生はいつもそうだ。生徒の人気は高いけど、具体的なことは何もしない。

「僕の靴の中に赤インクを入れておいたんです」
それで先生も理解したようだった。

「だからってなあ……やり過ぎじゃないのか」
「僕の靴は返ってきていないんです。たぶんどこかに捨てられました」

「本当なのか、高橋」
「嘘です」
水で洗ったであろうその顔にも、まだインクの赤が無残に残っていた。
「じゃあ、その赤インクは何なの」僕は言い放った。

俯く高橋の頬を涙が伝った。一番に、親への言い訳を考えていたはずだ。
彼にとって不幸だったのは、今日着てきたのが、新しい服だということ。

「これ、落ちるのか?」
先生はまた、厄介ごとを避けようと必死だった。

「重曹と食器用洗剤がいいそうです」
僕は美裕に言われた通りを口にした。

「じゃあ、帰ったらすぐに洗ってもらえ」
「親にどういえばいいんですか」
高橋は、親に怒られることで心がいっぱいいっぱいになっている。

「職員室でいたずらをしたとでもいえばいい」
「僕がいたずらをしたことになるんですか」心細い声を出した。
「だってお前、靴を盗んだんだろう? 先生は責任持てないからな」高橋に背を向けて教壇に向かった。
これが人気者気取りのこの先生の限界だ。



「犯人はひとりじゃないんです。みんな知ってると思うけど」
僕はみんなを見渡した。
「いじめを見て知らんぷりをするのは、いじめをしているのと同じです。僕は、もしも誰かがいじめられていたら、助けます。それが誰でも、助けます」

クラスのほとんど全員が俯いた。
「僕は戦うと決めたんだ。僕をいじめた人たちは覚悟をしておいて」
ゆっくりと立ち上がった僕を見る人はいなかった。

すべての展開において、美裕の読みが当たっていたことに、僕は驚いた。
彼女はこうも言った。
「四年生になったら、ヒロ君は学級委員長になるの」


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