「作戦?」
「そ」
「なにを……するの」
「んーとね」
美裕は、膝の上に乗せたランドセルの中から赤い液体の入った小瓶を取り出した。それも二つも。
「ほら、万年筆のインク」
彼女の企てた作戦は、僕をすごく躊躇させた。
「中学生ならいざ知らず、相手はたかが小学三年生よ」
初めて出会ったころから、美裕は時々、大人みたいなものの言い方をした。
「知らんぷりして靴箱に近づいて、そっと扉を開けて、シャッと引く」
うんうん、凄い早さでシャッと引く。美裕はしぐさを交えた。
「そのあと、どうすればいいか、教えてあげるからね」
そしてまた、空を見上げた。

「高橋、どうした」担任の先生が、廊下側の席に驚いて歩み寄った。
「いえ、なんでもないです」
「血じゃないよな」
「違います」
その顔は、今にも泣きだしそうにゆがんでいた。
「インクかこれ」
「靴が盗まれたんです」窓際に座る僕の声にクラスが静かになった。
「僕の靴が、盗まれたんです」
「え、いつの話だ」
「昨日です。靴箱から消えたんです」
「勘違いじゃないのか?」
「いえ、そのための犯人捜しです」僕は高橋を指差した。
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