空っぽの靴箱の前で、僕は茫然と立ち尽くした。
間違いなく仕舞った。確かにここに靴を入れた。
視線の端で動く影に、僕はぎろっと目玉を動かして、それを見た。
あのグループだ。僕をいじめるあのグループ。その中に、僕が幼稚園のころから知る近所の男子が混じっていることが、何とも悲しいことだった。
「お靴がにゃーい!」
一人の女子の声でそのグループは大笑いを始めた。
僕は靴箱を閉じて、上履きのままで歩き出した。
靴が一足なくなったことを、母さんは絶対気づく。よりによって一番新しい靴。
なんて言おう。
失くしちゃった。
失くしたって、どこで失くしたのよ。
外で靴を脱いで何をしていたのよ。
盗まれちゃった。
学校で?
先生に言わなきゃダメよ! 学校に泥棒がいたらだめよ!
あたしが学校に電話するわ!
ダメだ、どれもだめだ。親が騒いだら、余計にひどいことになる。
僕はベンチに座り、頭を抱えた。
どうしよう。

「上履きでどうしたの」
声に顔を上げると、いつも通り、ピンクのランドセルを背負った美裕だった。
「靴を、盗まれちゃった」
「盗まれたって、どこで?」
「学校」
「ひょっとして、靴箱からなくなったの」
「そう」
「ふうん」
そのふうんは、興味なさげというより、ほら見ろと言わんばかりのものだった。
「でもそれは困るね」
「困る」
「いじめを受けていることを知られるのが?」
「え?……」
「違ったの?」
「いや……」
「いいんだよ。あたしはね、ヒロ君を守ると決めたんだから。何を言ってもいいの」
「いや……うん、いじめかなあ、あれは」
「弱気だなあ。まあ、いいや。じゃじゃーん」
美裕は、手に持った手提げのビニール袋を突き出した。
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