「あ、ところで足のサイズは?」
美裕は突き出した手提げのビニール袋を、ちょっと引っ込めた。
「21センチだけど」
「ちょうどいい!」
再び突き出された手提げ袋を僕は受け取った。
中を見ると、シューズが2足入っていた。そのうちの1足は明らかに僕の盗まれたものと同じだった。というか、どこかに捨てられたのだろうけど。
「なにこれ」
「弟がね」
ランドセルを下ろして隣に座った美裕は、ん? と言って、僕の頬から何かを摘み取った。そしてそれを、ふっと吹いた。枯れた芝だろうか、それとも髪の毛だろうか。
「もういらないからって、あたしの友達の弟にって」
「もらっちゃっていいの?」
「あげるって友達に言ったわけじゃないから、いいんだ」
取り出したアシックスのシューズは僕のものよりちょっと新しそうだった。
「ほんとにいいの?」
「いいんだよ。嬉しい?」
「すごくうれしい」

「あたしもうれしい! 初めて自分で自分をほめたいと思いますッ」
それは、マラソン選手の誰だかが言った言葉だった。
「有森裕子だよ」
僕の心を読んだかのように、美裕が口にした。
「ヒロ君のお役に立ててうれしい。うん」
きっぱり、といった感じで空を見上げて、ベンチに座ったままシューズのかかとで地面を交互に叩いた。
「もう一足ももらっていいの」
「それも必要なんだ」
「なんで?」
「ヒロ君のシューズはランドセルにしまって、それを靴箱に入れておくの」
「また盗まれちゃうよ」
「それでいいの。それがいいの。作戦があるの」
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