涼風文庫堂の「文庫おでっせい」485 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<ハル、

ポーター、

マクベイン>

 

1459「伯母殺人事件」

リチャード・ハル
長編   大久保康雄:訳  中島河太郎:解説
創元推理文庫
 
 
アイルズの「殺意」、
クロフツの「クロイドン発12時30分」
と並ぶ倒叙推理小説三大名作の一つ。
 
遺産をねらって、
伯母を殺そうとたくらむ男が試みる
可能性の犯罪!
 
一度二度三度、
彼の執拗な計画の前に、
いまや伯母の命は風前の灯となったが――
 
がぜん、
後半にいたって物語は意外な展開を示す。
 
犯罪者の側からの周到な計画とその実行を描く、
新形式の倒叙推理のおもしろさを満喫させる代表作。
 
                        <ウラスジ>
 
 
 
まずは『殺意』。
 
 
エドマンド・ビクリー博士が妻を殺す決心をしてから、
それを実行に移したのは、
何週間かたってからのことだった。
 
そして、終始<三人称>。
 
次に『クロイドン発12時30分』
 
 
アンドリュウ・クラウザーの痛ましい空の旅の
およそ四週間前のこと、
彼の甥のチャールズ・スウィンバーンは、
コールド・ピカービイにあるクラウザー電動機製作所の本社で、
革張りの椅子にどっかと腰をすえ、
いささかむさくるしい部屋の向かい側の壁を飾っている
ソープ工学会社の暦を、
それとないふうで見つめていた。
 
そして最後の二章を除き、犯人目線の三人称。
 
翻って本作品、
『伯母殺人事件』
 
ぼくの伯母は、
小さな町(まったく、すごく小さな町なのである)
ルウール(Llwll)のすぐ外側に住んでいる。
これが、ぼくには、じつに苦悩のたねなのだ。
どちらの面からいっても、そうなのである。
 
Ⅰ.ある暑い午後
Ⅱ.ブレーキとビスケット
Ⅲ.「ソムノキュウブ」
Ⅳ.花の茂る庭で
Ⅴ.後記
 
最後の<後記>を除き、
主人公エドワードの一人称。
 
最後の<後記>は――
言わずが花。
 
とにかく、自動車事故、火災、毒薬、
と、試してゆくこのエドワードという青年――。
 
なんにせよ、
学問教養もなく、怠け者の主人公が、
「血というやつは、ひどく虫が好かない」ので、
直接行動に訴えず、
証拠の残らない完全犯罪を企もうとするのだから、
おのずからユーモラスな雰囲気が
ただよって来ないわけにはいかない。
 
<中島河太郎:解説より>
 
また、乱歩はこの主人公エドワードをして、
”無邪気な悪人”
と評しており、
この『伯母殺人事件』そのものに対しては、
”犯罪計画の綿密度が弱く、
探偵小説的興味では『殺意』に劣るが、
単なる小説としては、むしろ、
この方が面白いとも云える”
と述べているようです。
 
<結論>
この『伯母殺人事件』が
『殺意』『クロイドン発12時30分』と
大きく違っているところは主にふたつ。
 
1.全体がほぼ、主人公の一人称で書かれている。
2.殺人?どこに?
 
最後の最後の文章(段落)は、
ひねりのきいた考えオチ、
となっています。
 
<余談>
舞台となっている ”ルウール” を、
私はしばし、”ルワール” と勘違いしていました。
 
なんかフランスっぽい地名だな、
と思ったからか、この『伯母殺人事件』、
シビアな心理描写で貫いていったら、
アルレーの『目には目を』
みたいな作品になったんでは、
と思っています。
 
最後の結末なんて一緒だし。
 
 
 
 
 

1460「 奮 闘 」 

ドーヴァー警部シリーズ

ジョイス・ポーター
長編   乾信一郎:訳  早川文庫
 
 
 
ウィブリー家が村に埋蔵されている陶土に目をつけ、
寝室用便器の製造・販売に力を注いだおかげで、
平凡な村ポットウィンクルは小さな町にまで発展した。
 
だから、
湿っぽい初秋のある日、
ウィブリー氏の一人娘で21歳の主婦、
シンシアが撲殺された事件は、
町の警察を一種の恐慌状態に陥れた。
 
こんな厄介な事件はスコットランド・ヤードに任せるにかぎる――
 
かくて不機嫌そうな二人の男ドーヴァーとマグレガーは
ポットウィンクルの小さな駅に降り立つことになった。
 
”妻殺しの下手人は亭主に決っておる”
難事件に迷推理、
ドーヴァー警部大活躍!
 
                        <ウラスジ>
 
 
ドーヴァー警部初登場はこちら。
 
 
『ドーヴァー5 奮闘』
 
……とかく殺人事件は面倒くさい。
 
現行犯とかならともかく、
目撃者がいない、犯行から時が経っている、
捜査に割く人数もいない――
 
そんな地方の、片田舎の警察は、
すぐさま、捜査をスコットランドヤードに丸投げしがち。
 
そしてやって来るのは
ドーヴァー警部と部下のマグレガー。
 
<本編>
便器で財を成すって、
わが福岡は北九州の
<TOTO>を思い浮かべてしまうなあ……。
 
それはともかく。
 
地方の素封家にまつわる、
濃淡(?)のある血縁関係の中で起こった事件、
動機とそれに至った経緯が徐々に分かって来ます。
 
まともに行けば、
<横溝風>の物語になろうとも知れませんが……。
 
そこはそれ、
早く事件を解決したいドーヴァーと、
そうはさせじと、
真相を究明しようとするマグレガー。
 
この駆け引きゆえに、
ローギア運転で進んでゆくのがこのシリーズの特徴。
 
ちなみに本作品で、
ドーヴァーは二度ほどボコられます。
 
……痛快、
もしくは天罰。
 
 
 
 
 

1461「通り魔」 87分署シリーズ

エド・マクベイン
長編   田中小実昌:訳  早川文庫
 
 
 
街は女、
秋は死の季節――
 
通り魔はマントのように漆黒の闇を身にまとい、
路地の暗がりに立っていた。
 
夜の闇は彼の親友、
そして獲物は女だった。
 
だが、
この通り魔は一風変わっていた。
 
女を襲ったあと、
被害者に優雅なお辞儀をしてこう言うのだ――
 
「クリフォードはお礼を申します、マダム」
 
87分署の刑事たちは職業的な密告者を使って、
この不可解な通り魔を追求した。
 
むなしくついに殺人事件が……
 
大都会の犯罪を追って今日も生きる警察官の哀歓を描き、
探偵小説史に輝かしい一ページを加えた
<87分署シリーズ>第二弾!
 
                        <ウラスジ>
 
87分署初登場はこちら。
 
 

……と、ここまでは

原作の刊行順と、
文庫の刊行順が一致しています。
 
次の三作めは
原作が『麻薬密売人』1956
文庫が『われらがボス』1973
 
すっごい乖離ぶり。
 
 
ちなみにここに出て来る<通り魔>は、
殺人鬼ではなく、”ノックアウト強盗” みたいなもの。
 
しかし、ついに殺人事件が起こってしまい――。
 
<レギュラー>
薄毛のユダヤ人二級刑事、
マイヤー・マイヤー参入。
 
ハル・ウィリス (小男・柔道の達人)
ロジャー・ハヴィランド (暴力刑事・その後、死亡)
バート・クリング (パトロール警官から出世)
そして
捜査主任ピーター・バーンズ
は引き続き登場。
 
<本編>
クリフォードは名前もそのままで、実在した――
が、殺人に関しては否定、アリバイを主張する。
 
で……。
 
泣きのミステリー。
 
これ、私が勝手に名付けた用語です。
 
他にプロンジーニの『誘拐』とか、
リューインの諸作品とか。
 
ああ、
よく言われた横山秀夫さんの『半落ち』は
私にとっての<泣きのミステリー>とは
なりえませんでした。
 
面白かったんですが……。
 
で……。
 
最後の章で、キャレラが新婚旅行から戻って来る。
(この作品においては、ほぼ不在)
 
で……。
 
こうして、また、新しい週がはじまるのだ。
 
で締めくくり。
 
<余談>
つい最近、遅ればせながら、
マクベインの別名、エヴァン・ハンターの
『暴力教室』
を読みました。
 
1955年作とは思えないほどの臨場感。
日本で言われた1970~1980年代の<荒れた学校>の
ほぼ四半世紀前のお話。
 
アメリカらしく、
人種や貧富の差が複雑にからみあって――。
 
……これ、いつになったら辿りつけるのやら。