涼風文庫堂の「文庫おでっせい」352 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<草野心平、

エド・マクベイン、

小林信彦>

 

1068「草野心平詩集」

草野心平
豊島与志雄:解説  新潮文庫
 
 
猥雑で無垢な「蛙」の世界に心のふるさとを求め、
存在を超えた無限の象徴として「富士山」をうたう詩人――
 
「蛙」の詩が独特であるように、
草野心平の詩人的資質および活動は
日本の詩の系統からみて孤立孤高の存在である。
 
身近な情感と遥かな夢とを豊潤な韻律によって
鮮やかなイメージに造形した詩の数々を、
本詩集では創作年月の順を追わず
作品の内容や性質によってまとめている。
 
                        <ウラスジ>
 
草野心平と言ったら……。
 
     『ばつぷくどん』
 
   ばつぷくどんがうたたねの眼をさますと、
   毛脛がある。
   見ると物凄い大人物だ。
   ばつぷくどんは観念した。
   ただ一撃を待つだけである。
   燈臺の灯が闇をつらぬく勢ひで。
   ばつぷくどんの眼はらんらん。
   今世の見納めに右と左の景色をみた。
   悲しく波うつエーテルなど。
   氣がつかなかつた色んなものが。
   初めて見える。
   しまつた。おれの人生は。
   と。
   思つた次の瞬間。
   大人物はいつに間にかゐなくなつ」ていた。
   きらめく光。
   ぬくい雲。
   ばつぷくどんの平べつたい頭をやさしい風がなでてとほる。
   ばつぷくどんは生れてはじめて平和といふものの實體を
   知つたかのように。
   ああ。せいせいする。
   するなあ。
   といつた。
   ばつぷく。ばつぷく。
   ばつぷくどんの両眼に碧と雲とが映る。
 
註 五島列島では蛙のことをばつぷくどんといふ由。
 
 
 
中学時代、親の転勤に合わせ、
都合三つの府県の中学を渡り歩きました。
 
その度、
新しい国語の教科書を買う(読む)羽目に遭い、
習っていないところも含め、
パラパラとめくってみることにしていました。
(国語の教科書ならでは)
 
そこで、
ほぼ3分の2の確率(?)で掲載されていたのが、
この草野心平の『ばっぷくどん』でした。
 
……中学だから新仮名遣いに直してあったと思いますが……。
 
 
高校に入ると、
萩原朔太郎や中原中也が登場しますが、

やはり、この草野心平の『ばつぷくどん』は異色で、

どこか楽しい気分を味わわせてくれました。
 
ゲロゲーロ。
 
地方色というか、土の匂いというか。
 
<余談>
そう言えば、
どことなく雰囲気が似てると思う、
大関松三郎
の詩集が文庫で出てるみたいですね。
 
昔、あれだけ探したのに見つからなくて。
 
『虫けら』、『山芋』。
これも中学の国語の教科書の定番でした。
 
戦争で18歳で散った少年詩人。
農民詩人と呼ぶにふさわしい……。
 
ゆえに、”和製ランボオ” ではない。
 
 
 
 
 
 

1069「警官嫌い」

エド・マクベイン
長編   井上一夫:訳  青木雨彦:解説
早川文庫
 
夏の夜の大都会――
まばゆい照明のかげに、
街があり、夜空の下でうごめく、
暗い生活があった……。
 
その夜、
市警の87分署の刑事マイク・リアダンは、
分署から三丁離れた暗い舗道で、
二発の銃声に顔半分を吹き飛ばされ即死した!
 
87分署づめの刑事15人は無残な死体を見て声もなかった。
マイクはいい人間だったのだ。
 
憤怒に燃えあがった彼らは、犯人検挙に全力をそそいだ。
 
だが、
警官殺しの犠牲者はつぎつぎに生れていった……!
 
大都会の喧騒の裏に隠された犯罪を執拗に追いつめ、
探偵小説に新分野をひらく<87分署シリーズ>第一弾!
 
                        <ウラスジ>
 
 
50巻以上ある<87分署シリーズ>の記念すべき一作目。
 
私はその十分の一の5冊しか読んでいませんが、
好みであることには違いありません。
 
で、内容は――。
意外な犯人に、迷彩を凝らしたトリック、
と、ミステリーの定石を踏まえたようなつくり。
考えオチのようにも取れる……。
 
 
しかし、カバーの折り返しにある、
<登場人物>の欄を見ると、
「あれ?」
 
あいつはどうした?
 
この作品は、第一作だけあって、
キャレラとテディのほかには、
若いバート・クリングが巡査として活躍するだけだが、
キャレラとテディが結婚し、双生児を産むころには、
このクリングも刑事に昇進し、
さらには
マイヤー・マイヤー、コットン・ホースといったメンバーが
次第に登場してくる仕組みになっている。
もちろん、捜査主任のピーター・バーンズも、
同僚のハル・ウィリスも、レギュラーだ。
 
                 <青木雨彦:解説より>
 
そう、マイヤー・マイヤーだ。
 
二級刑事(刑事には一級から三級まであるようです)
みたいな呼び方。
(アメリカの警察にも昇格試験があるんだ――)
 
そして、今では誰もが知っているであろう、
『COP』の呼び名――。
 
この作品の原題は
”COP HATER”
 
日本で
『コップ=警官』
って認識されるようになったのは
いつ頃だろうか?
 
それまでは
『POLICE』
一択だったのに。
 
エディ・マーフィーの映画『ビバリーヒルズ・コップ』
がヒットした1985年(昭和60年)頃からかな?
 
<余談の予告>
あ~あ。
なんか書きたいことがいっぱいあるのに、
ここじゃ収まりそうもない。
 
* 警察小説について。
 (ヴィカーズ、ウォー、マッギヴァーンから
          マルティン・ベックへ)
 
* 87分署の映画化について。
 (『天国と地獄』、『複数犯罪』、
     『刑事キャレラ/10+1の追撃』)
 
* エド・マクベインのいくつものペン・ネームについて。
 (エヴァン・ハンター、カート・キャノン、
          リチャード・マーステン)
 
* 火曜サスペンス劇場、『わが町・シリーズ』について。
 (渡辺謙、有森也実、蟹江敬三 etc.)
 
 
……謙さんがキャレラ役で、
  有森さんが、”口のきけない” テディ役。
  いたいけな感じがたまりませんでした。
 
その他もろもろ。
 
次に来るのは、
<87分署>か<酔いどれ探偵>か。
いずれにせよ、その時にも続きの<余談>を
書かせていただこうと思っています。
 
 
 
 
 
 

1070「唐獅子株式会社」

小林信彦
連作短編集   筒井康隆:解説
新潮文庫
目次
 
第一話  唐獅子株式会社
第二話  唐獅子放送協会
第三話  唐獅子生活革命
第四話  唐獅子意識革命
第五話  唐獅子映画産業
第六話  唐獅子惑星戦争
第七話  唐獅子探偵群像
第八話  唐獅子暗殺指令
第九話  唐獅子脱出作戦
第十話  唐獅子超人伝説
 
 
任侠道はもう古い、
ヤクザだって近代的にならねば――
 
大親分の号令で須磨組一家の、
シティ・ヤクザへの大変身が始まった。
 
社内報の発刊を皮切りに、
放送局、映画産業、音楽祭……と、
流行の先端に追いつけ追い越せ。
 
背なで泣いてる唐獅子もあきれ返る
大騒動が展開する。
 
ページからあふれ出るギャグに乗せて、
現代風俗から思想、文学までパロディ化した
哄笑の連作10編。
 
                        <ウラスジ>
 
 
これぞパロディ小説の金字塔。
 
にしても、
小林信彦さんの熱狂的ファンである友人に誘われて、
福岡の紀伊國屋で行われた
『小林信彦サイン会』に行った事を思い出します。
 
タートルネックにブレザー姿、
小柄ではありましたが、
存在感は半端なかったです。
 
一冊一冊、丁寧にサインを書かれていました……。
 
にしても、
この文庫が登場した昭和56年あたりには、
角川商法も根付いていて、
売れる書籍は新書版のノベルズから、
完全に文庫本に取って代わられていました。
 
この『唐獅子株式会社』も、
すでに文藝春秋から出ていたものの、
人気に火がついて映画化されたのは、
文庫化されたことからでしょう。
 
主役は横山のやっさん。
 
ただ原作とは役柄にズレがあります。
 
残念ながら私はこの映画を観ておりません。
 
ただやっさん主演の映画は、
『ビッグ・マグナム黒岩先生』
を観ております。
 
 
新田たつお先生の原作。
 
私らの世代だと、『静かなるドン』ではなく、
『怪人アッカーマン』。
 
『がきデカ』を上回る、エロギャグ漫画。
 
 
<最後に>
パロディということで、
解説の筒井康隆さんが、
いわゆる ”原典探索” をやっておられます。
 
いくつか短めの例を。
 
P20. 「切るの切られるのは……」
   泉鏡花『婦系図』でお蔦が言う科白。
   「別れろ切れろは芸者のうちに言う言葉」
 
P26 「ペッパー警部にもまけず……」
   宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」と
   ピンク・レディーの歌「ペッパー警部」の合成。
 
P67 「娑婆だわ……」
   テレビ番組「11PM」のテーマ・ソング。
 
P117 「安穏」
   AN-ANとNON-NO.
 
P266 「緊張の夏……」
   蚊取り線香のテレビCM「金鳥の夏、日本の夏」
 
P321 「飛んで富田林」
   は庄野真代の「飛んでイスタンブール」
 
P352 「ダークが翔んだ日」
   渡辺真知子「カモメが翔んだ日」
 
で、これが言いたかったのかどうか、
最後の最後。
 
 
……これで筆をおくが、
最後にひとこと言わずもがなのことを。
諸君。
註釈とはこのような作品にこそ必要なのですぞ。
なんのことを言っとるのか、
おわかりでしょうな。
 
                 <筒井康隆:解説より>
 
これ、当時話題となった 
”註釈だらけの小説” 
『なんとなく、クリスタル』
のことを仰っているようです。
 
作者は元・長野県知事の田中康夫さん。
 
まあこの当時、
野坂昭如さんはじめ、田中康夫さんは
いろんな人に嫌われていたような……。
 
私としては、
ビリー・ジョエル……ニューヨークの松山千春。
の ”註釈” がちょっと面白かったんですが……。