<小林久三、
ジョセフィン・テイ、
福本和也>
1951「錆びた炎」
小林久三
長編 柿本学佳:解説 角川文庫
都心の一画に威容を誇る総合病院の一室から、
5歳になる血友病患者が誘拐された。
72時間以内に救出しなければ患者の命が危い!
捜査本部にあてられた病院経営者の邸に、
犯人から身代金要求の電話が鳴った。
犯人と接触づる現金受け渡しの
”決定的瞬間” に賭けて異常な執念を燃やす、
担当警部 遠丸とおまるは、
邸内に吊るされた鳥カゴのシャム猫を眼にした。
同じ頃、
ホテルの一室で若い医師が殺害され、
シャム猫の鳥カゴを持った女が目撃されたのだった。
二つの事件を結ぶ、シャム猫の謎は……。
鬼才、小林久三が、
誘拐をテーマに息づまるサスペンスで描く傑作長編。
<ウラスジ>
リンク先では回を跨いで連荘になってる小林久三氏。
『暗黒告知』
『皇帝のいない八月』
<内容>
大筋は「誘拐事件」で、
それは無事に解決するんですが、
そこに到るまで、そこから先の解決編に向けて、
怒濤の情報、伝聞、臆測が流れ込んできます。
まず、真っ先に挙げられている、
誘拐された子供の血友病とそのタイムリミットですが
これが徐々に大した「縛り」ではなくなっていきます。
身代金が子どもの親でなく病院に要求されたこと、
これは黒澤明監督の『天国と地獄』、
すなわちマクベインの『キングの身代金』との
類似を連想させ――
総合病院の種村一族の人間関係は、
横溝御大の『悪魔が来りて笛を吹く』
もしくは
山崎豊子さんの『華麗なる一族』の
疑心暗鬼ぶりに似ていて――
このように、古今東西のさまざまな疑惑や謎を身に纏い、
事件は推移していきますが――
エンディングに近づくにつれ、
とくに子供が無事保護されたのちは、
前述した通り、堰を切ったような情報の流入、
そしてあらたな人物の登場、
およびスポットライトの移動が押し寄せ――
結局、
尻すぼみなんでしょうか、
尻あがりなんでしょうか。
最後は「王道」の、
「犯人の供述書」で幕を閉じます。
<追記>
その他のガジェット(道具立て)も、
『鳥籠の中のシャム猫』。
それを持ち歩く女。
点字による犯人の指示。
などなど。
<余談>
この作品、映画化されてるんだけど、
その際、配役のクレジット順なんかで
早々に犯人のヒントが分かっちゃうかも。
原作だと物語の半分過ぎても、
印象が薄い人物なんだけど……。
<追記>
このあと「血友病」の記述を巡って、
論争が起きたようです。
1952「時の娘」
ジョセフィン・テイ
長編 小泉喜美子:訳 早川文庫
英国の薔薇戦争の昔、
王位を奪うため
いたいけな王子を殺害した悪虐非道の王、
リチャード三世。
捜査中不慮のの事故に会い
退屈な入院生活を送るグラント警部は、
ふと一幅の肖像画を手にした。
思慮深い双眸。
誰か判らないが、
犯罪者の顔つきではない。
だがこれがあの悪人リチャード王のものだと知った警部に
疑問がめばえた。
彼は本当に伝説どおりの悪の権化だったのか?
王の隠された素顔に興味を乗った警部は
かくして純粋に文献のみから
歴史の真相を推理する。
安楽椅子探偵ならぬベッド探偵登場!
探偵小説史上に燦然と輝くミステリ不朽の名作。
<ウラスジ>
”触発” ってことでこちらを。
真理は時の娘
――古い諺――
さて、
『時の娘』の特徴は。
形式としては安楽椅子(寝台)探偵、
内容としては歴史ミステリ、
この二つを結びつけてその二重の制約を作品に
課したところにあります。
<小泉喜美子;あとがきより>
全体像としての『時の娘』。
次に個別の形式について。
安楽椅子探偵ないし寝台探偵という形式は、
とにかく、探偵役が一歩も出歩かない。
事件のデータはすべて誰かしらの手を通して持ちこまれ、
探偵役は純粋に机上の推理だけで謎を解決する。
<同上>
小泉喜美子さんはこれに関して、
オルツィの「隅の老人」
(これまた高木彬光氏に「墨野隴人」と言うシリーズがある)
ヤッフェの「ブロンクスのママ」、
都筑道夫氏の「退職刑事」
なんかを例に挙げておられます。
が、こっから先が問題。
歴史ミステリの制約と申しますと、
提供されるデータはすべて、
史書に記載されているものだけを使う、
ということになります。
持ち出してくるデータは
万人衆知のものでも隠れた珍説でもかまわないが、
とにかく、作者のでっちあげでは困る。
先人の遺した記録として世上に通用する資料のみを
手がかりとするのですから、
条件としては歴史学者が研究をする場合と同じです。
これも読む前の心構えとしては分かります。
それでは史学の研究論文と同じかと言うと、
とんでもない。
歴史ミステリの生命は、
”歴史をみつめるに学者の眼をもってしてではなく、
あくまで推理作家の眼をもって眺める”
ところにあります。
重々承知のところ、
題材によっては
読むハードルが一気に上がります。
こっちは冒頭にある、
モーロウの「イギリス史」
なんか読んでないし、
「百年戦争」だ「薔薇戦争」だ、と
名前は知ってても、
世界史を選択もしてなかったので、
脳内のあちこちに落っこちてる知識を拾いあつめて、
何となく形にするしかありません。
引っかかりがある本はといえば、
『リチャード三世』 シェイクスピア
『英国王妃物語」森護
(エリザベス・ウッドヴィルの章)
あとは映画、
『リチャード三世』
『1000日のアン』
『わが命つきるとも』
(あとの二つはトマス・モアの関係だから薄いか……)
とにかく、曖昧至極。
しかもこの『時の娘』の主題は二つあって、
一つ目が、
リチャード三世の冤罪。
二つ目が、
では幼い王子を殺害したのは誰か、
という犯人捜し。
(これもよく分からん人間)
してからに結末は。
<余談>
のちに二人の王子は生き延びたという説が浮上。
<余談>
BBCのドラマ「シャーロック」で
シャーロック・ホームズを演じた
ベネディクト・カンバーバッチは
リチャード三世の血縁だそうな。
1953「赤い航空路」
福本和也
長編 中島河太郎:解説 角川文庫
ラオス上空は領空通過の許可を取ってないので、
大胆な天藤てんどうも不安を感じた。
その時である。
突然、まっ黒なジェット戦闘機が前方を上昇していった。
操縦士が降下命令を出している。
こんな所で降ろされてたまるか、
天藤は大きく首を横にふった。
すると素早く背後に廻った戦闘機が銃撃してきた!
一匹狼のフェリー(空輸)・パイロット天藤謙けんは、
タイから香港まで依頼された小型機を空輸中、
謎の国籍不明機に襲撃を受けた。
見事な操縦で危うく難を逃れたものの、
やがて天藤は、
彼の身辺に続発する不可解な事件の渦中に
巻き込まれてしまった……。
巻を置かせぬサスペンス、。
傑作航空アドベンチャー・ミステリー!
<ウラスジ>
福本和也、第二弾。
漫画の原作者として、
『ちかいの魔球』 ちばてつや (魔球)
『黒い秘密兵器』 一峰大二 (秘球)
という野球漫画をオンタイムで読んでいた私。
これに
『ミラクルA』 貝塚ひろし (快球)
が、三大野球漫画でした。
( )は各漫画内での「魔球」の呼び名
『巨人の星』の前です。
とにかく野球漫画と言えば「魔球」だったので、
「魔送球」以外、魔球らしきものが登場しなかった
『巨人の星』には少し不満を覚えました。
ですから「大リーグボール第一号」が登場したときは、
「だよなあ」
と狂喜したものです。
あと、『宇宙少年ソラン』の原作も――。
もとい。
元航空自衛隊のパイロット、
天藤謙の香港・南ベトナムを主戦場にした、
”空の” 冒険小説。
どこまでも政情不安定な東南アジアの空を飛び回り、
地上に降りると、
拘束されたり、逮捕されたり、挙句は拷問されたり、と
要は天藤の類いまれな飛行技術と知識、
を利用したい【悪の組織】。
それは、必要な物品運送が目当てなだけ。
そこに目をつけるのは、
アメリカの軍人、ベトナムの逃亡兵、香港の警察、
麻薬組織、ついでにパレスチナ・ゲリラに
謎の日本人旅行者。
彼らの魔手を逃れたり、受け流したりしながら、
天藤はフライトへと向かう。
<余談 1>
インドシナが舞台ってえと、
やっぱスパイ小説は外せないけど。
あと三好徹さんの『風葬戦線』も
ベトナムが舞台だっけ。
<余談 2>
前回、福本和也氏を、
「日本のサン・テグジュペリ」
と評しましたが、
本編の中にその記述が出てきます。
「きみたちパイロットは、
サン・テグジュペリの作品を聖書バイブルのように
愛読しているようだな」
と、これは拷問に到る前口上。
<余談 3>
現役パイロット兼小説家としては、
『亜宇宙漂流』
『超音速漂流』 二冊とも文春文庫
のトマス・ブロックがいます。
とくに『超音速漂流』の、
乗客が全員狂人となって
ゾンビ化する描写がおぞましくて……。
失礼しました。









