涼風文庫堂の「文庫おでっせい」358 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<殿谷みな子、

立原正秋、

永井路子>

 
 

1084「求婚者の夜」

殿谷みな子
短編集   林富士馬/三枝和子:解説
早川文庫
収録作品
 
1.求婚者の夜
2.海へ一歩を
3.海の城
4.島
5.暑すぎる一日
 
 
夜はゆっくり世界をおおい、
ぼくは深海の魚のようなやすらぎに満たされて、
闇の中へひろがっていく……
 
恋人の父親の所へ結婚の許しを得に行く途中、
土砂くずれのため、ぼくは海辺の水宮ホテルに
宿をとることになったのだが――
 
見知らぬ恋人の父に会う前日の求婚者の
期待と不安を描いた表題作「求婚者の夜」
をはじめ、
海ガメ観察にやって来た初老の水族館館長と
子連れの太った中年女の恋物語「海へ一歩を」
など、
喧噪の都会を離れ、
母なる海を求めさまよう人間たちのロマンをさわやかに謳いあげ、
独特な抒情世界を創りだした処女短篇集。
 
                        <ウラスジ>
 
 
私が勝手に名付けて、そう呼んでいた
<SF三人娘>
山尾悠子、大原まり子、殿谷みな子。
 
山尾悠子さんについてのおさらいはこちら。
 
 
大体同じ時期(実はそうでもない)に、
早川文庫のJAで現われ、
(失礼な言い方をすれば)
栗本薫(中島梓)、新井素子、
といった<メジャー>どころに組みするわけでもなく、
一定のファンを抱えてマニアックな世界に
住んで(甘んじて)おられたような気がします。
 
ホント、失礼。
 
<本題>
キーワードは、”海”。
 
またまた失礼ながら、丸っきり忘れていたので、
<ウラスジ>にある『求婚者の夜』と『海へ一歩を』を
パラパラと読み直してみました。
 
なんせ短いので……。
 
で、
これは幻想系小説だな、と感じました。
 
ストーリーでなく雰囲気を味わう作品――。
 
同じ人間が、姿かたちや役割を変えて何度か登場する。
 
会話が初めから破綻している。
 
ありえないことが普通に起こっている。
 
後々に読んだ長野まゆみさんの作品群にも似た、
どこか心地よく、癖になる要素が満載でした。
 
<余談>1
今回調べてみて分かったこと。
”殿谷” を長いあいだ ”とのや” と読んでいましたが、
正しくは、
”とのがい” 
という事でした。
 
人の名前を読み間違えるとは、失礼の極み。
 
だって、早川文庫の奥付きには、
”ふりがな” が打ってないんだもの。
 
<余談> 2
殿谷みな子さんの旦那さんは
あの『石川好』さん。
 
 
『ストロベリー・ロード』で大宅賞を受賞した
ノンフィクション作家――っていうより、
<朝まで生テレビ>の論客のひとりだった、
っていったほうが分りやすいかも。
 
<余談> 3
『海洋SF』
なる言葉があるのかないのか、
はたまた認知されているのかどうか。
 
この作品集はまぎれもない
海洋SF,海洋幻想譚、の部類に
収めていいかと思います。
 
で、思いつくままにそれらしい、
印象に残った作品を挙げてみたいと思います。
 
ただ、SF・SFした、
『海底二万哩』とか『海底牧場』の類いは省きます。
 
 
『不思議の一触れ』 スタージョン
『沖の娘』 シュペルヴィエル
『老水夫行』 コールリッジ
『さまよえるオランダ人』 ワグナー
『ウンディーネ』 フケー
『オンディーヌ』 ジロドゥ
『テンペスト』 シェイクスピア
 
う~ん、これはこれで、
”海辺ファンタジー”
と言った方が良さそうな。
 
 
 
 
 
 
 
 

1085「 薪 能 」

立原正秋
短篇集   駒田信二:解説  角川文庫
収録作品
 
1.薪能
2.四月の雨
3.情炎
4.焼けた樹のある風景
 
 
2人は薬を飲んだあと能楽堂に入り、
舞台にのべた其々の蒲団に横になった。
 
両足首と膝は紐で縛った。
 
秋の陽が沈み、
鎌倉薪能も始まる時刻だった……。
 
夜の闇を炎々と彩る篝火の様に、
悲しく燃え上がった人妻と若き従弟の恋。
 
男女の妖しい情念と微妙な心理を描いて一流の著者が
流麗な文体で綴る哀切のロマン。
 
                        <ウラスジ>
 
まずは初お目見えの作品から。
 
 
立原正秋の作品には、
ある家系の終焉のきわの、
あるいは、
対照的な二つの家系の結びつきの中での、
血の宿命についての苦悩をテーマにしたものがすくなくない。
 
                 <駒田信二:解説より>
 
そう、
この ”どろっどろっ” 感は家系にまつわる
血の澱んだ流れがそう思わせるのだと思います。
 
没落した毛織物の輸入商である壬生家。
 
広大な邸と土地は売り払われ、
残されたのは僅かな土地と、そこに立つ能楽堂。
そこに残された四つ違いのいとこ、俊太郎と昌子。
 
それぞれに相手がいるにも関わらず、
死出の旅路へと向かいます。
 
最後の十三章は、
丸々<相対死>の準備に費やされているのが
異質でもあります。
 
遺書の投函、最後の抱擁――。
 
三島の『憂国』のような激しい性描写こそありませんが、
その行為の残り香を匂わせるような一行、
 
最後の歓楽を交した。
 
そして、致死量の知れぬ薬の服用
 
しかし、
 
それから俊太郎の希望で二人はもういちど歓楽を交した。
それは数度つづいた。
二人とも、
かつてこんなに力強くこんなに残酷になったことはなかった。
 
 
死ぬと解ったら人間の性欲はいや増すのか。
<残酷>って、どんな行為に対して名付けたのか。
 
 
いささか本題から外れたところに、
頭が行ってしまいました。
 
<余談>
学生時代、先輩に連れられて、
護国神社の『薪能』を観に行ったことがあります。
能楽堂はなかったはずなので、
臨時の能舞台が設えてあったと思います。
 
真夏の陽が落ちて、
舞台の周りに篝火がいくつか焚かれ、
厳かな時間がすぎるなか、
拍手などもなく静々と舞台は始まりました。
 
見物客は大勢いたと思いますが、
隣の人の顔がよく見えないので、
全体像がつかめませんでした。
 
歌舞伎にも能楽にも門外漢なので、
ただ雰囲気だけを味わっていたような気がします。
 
正直な話、
暑さに負け、先輩ともはぐれたことを好い事に、
途中でさっさと退散してしまいました。
 
今思えば勿体ないことをしたな、と思います。
 
 
 
 
 
 
 

1086「歴史をさわがせた女たち」

外国篇
永井路子
長編   あとがき  文春文庫
目次
 
* 女だてらに国を動かす
 
アグリッピナ  暴君ネロを生んだ過保護ママ
エレオノール・ダキテーヌ  十字軍遠征で運命変る
マルグリット・ダンジュー  名門の花七転人生
イサベラ  新大陸に賭けた名ギャンブラー
カテリーナ・スフォルツァ  女丈夫とよばれた美貌の城主
カトリーヌ・ド・メディシス  バルテルミーの火つけ役
エリザベス一世  家康なみの我慢と権謀
メアリ・スチュアート  王冠を棒に振った愛欲遍歴
マリア・テレジア  生みも生んだり十六人
エカテリーナ二世  日本人も見た北国の女王
マリー・アントアネット  浪費夫人革命に死す
ヴィクトリア女王  マイホーム型もまた楽し
ジャンヌ・ダルク  神の声を聞いた聖少女
 
 
* 東洋の名花はサディスト!
 
呂后  ライバルを総括
則天武后  中国たった一人の女皇帝

西太后  清朝をつぶした時代錯誤夫人

 

 

*伝説と神話のヒロインの正体

 

トロイのヘレン  美しすぎたばっかりに――

エレクトラ  不倫の母に燃やした執念

エウリディケ  夫の愛が不幸をまねく

ブルンヒルデ  復讐に燃えた女武者

ジュリエット  純愛世界一

フランチェスカ  不倫の恋がこの人気!

サロメ  生首を愛した孝行娘?

 

 

* 上流社会に咲いたあだ花

 

クレオパトラ  鼻はさほどに高からず

楊貴妃  美女をめぐる不思議な真実

ルクレチア・ボルジア  イタリア版お市の方

ポンパドゥール夫人  ルイ王朝を手玉にとる

 

 

* ペンを片手に大奮闘

 

サッフォー  レズの元祖に偽りあり?

エロイーズ  恋文ベストセラーの修道尼

マルグリット  女王さまは女西鶴

ジョルジュ・サンド  男装作家の恋人コレクション

ブロンテ姉妹  大作家姉妹のかかわりあい方

ローザ・ルクセンブルク  理論家そして革命の女闘士

 

 

* 夫を売り出すテクニック

 

コンスタンツェ・モーツァルト  天才に愛された悪妻

マーサ・ワシントン  おかみさんトップレディー

メアリ・リンカーン  名大統領を悩ませたヒステリー

 

 

長い長い世界の歴史のなかには、

想像もつかないほどスケールのでっかい女性たちが、

男も息をのむ大奮闘を演じております。

 

これら猛女の活躍を、

史実にユーモアをまじえてつづった意外史外国篇。

 

登場人物――

マリー・アントワネット、エカテリーナ二世、ジャンヌ・ダルク、

則天武后、トロイのヘレン、クレオパトラら三十数人。

 

                        <ウラスジ>

 

まずは姉妹編というか兄弟編というか、

<日本篇>を。

 
 
 
この目次を見て、真っ先に思ったのは、
「実在するのか?」
という女性が多かったことです。
 
特に、
<伝説と神話のヒロインの正体>
のところ。
 
トロイのヘレン
シュリーマンを引っ張り出してトロイ戦争の有無を講ずるものの、
やはり実在とは言い難いようで。
 
 
エレクトラ
これもギリシア神話ですが、
父親のアガメムノンはトロイ戦争の功労者。
 
『エディプス・コンプレックス』と並び称される、
『エレクトラ・コンプレックス』
の語源となった彼女ですが、
これも実在しないよう。
 
 
エウリディケ
これもギリシア神話。
かの竪琴名人、オルフェウスの妻。
 
死んだエウリディケを冥界から連れ戻す話は、
日本の<イザナキ・イザナミ>と酷似しています。
 
二つの話とも、妻の奪還に失敗。
 
 
ブルンヒルデ
これは『ニーベルンゲンの歌』に登場する女性ですが、
この叙事詩の中でのヒロインは義理の娘である
クリームヒルトのはず。
 
夫であるジークフリートを殺されたあとの復讐譚は、
親族皆殺しというジェノサイドを引き起します。
 
ここはクリームヒルトに一票。
 
 
ジュリエット
御存知シェイクスピアの作品。
しかし、”元” があると言います。
 
と、言っても伝説レベルで、
場所がベローナだったってことらしい。
 
 
サロメ
『聖書』に登場。
 
彼女を有名にしたのはオスカー・ワイルド。
 
 
歴史をさわがせた、とは言えないかもしれませんが、
ブランヴィリエ侯爵夫人とか、エリザベス・バートリとか、
エグい女性たちが満載です。