低温と日照不足に悩まされた関東地方にも、やっと梅雨明けの兆しが見えてきた。待ちに待った盛夏も僅か数日で潰えた1993年の例があるだけに何ともいえないが、予想通りなら、関東地方も冷夏から一転、しばらくは高温と蒸し暑さ、そして天候の急変にも悩まされそうだ。持病や古傷を抱えた者にとっては最悪の季節でもある。
この梅雨明け、「梅雨明け十日」の例えはあるものの、いつまでも好天が続くわけではない。往々にして激しい天候急変に見舞われるもの。戻り梅雨も心配だが最も厄介なのは台風であろう。今年は特に少ない。まだ3号すら発生していない。例年に比べても異例の少なさである。だがこうした年ほど危ない。大荒れの予兆でもあるのだ。
〈天気図〉
こうした天候の悪化には特質がある。誰もが体調不良に悩むかと思いきや、そうでもない。真逆もまた多い。悪天候(気圧が降下する)ほど万全(身軽)になるとも言われている。
1968年、メキシコで開催された夏季五輪の走り幅跳びでは、ボブ・ビーモン(米国)が、8m90という驚異的な世界記録を叩き出して金メダルを獲得した。それまでの記録を55cmも上回る大記録である。誰もが目を疑った。追い風2.0mに恵まれたとはいえ、とても人間業ではない。結局は、長距離を除く投擲や短距離走でも好記録が続出したことから、メキシコシティの高さ(海抜2400m)が注目された。
大リーグでも、コロラドロッキーズなど高地に位置する球場は、ホームランが飛び交う。理由は気圧が低いことにある。だからこそ「低気圧」であっても記録は出やすい。日本でも、小平奈緒や高木美帆に代表されるスピードスケート陣は、どんな悪天候であれ、強い低気圧の接近は(室内での競技会に限り)大歓迎だそうだ。
地震ではどうか。前兆には必ず、頭痛に発熱、耳鳴りや関節の痛みに加えて、動悸に息切れと「体調悪化説」が多数登場する。否定はしない。でもその多くは認知的なバイアスではなかろうか。自然界の動物は、鳴動を事前に察して、ほぼ無事に逃げ延びることで知られる。そう、不調どころか極めて『万全』なのだ。体調不良なら逃げ遅れて死滅してしまうだろう。
《大地震を前にした気圧配置をご覧頂きたい》
〈関東大震災(9月1日)直前の天気図〉
(1923年8月30~31日)
関東大震災は、九州に上陸した強い台風が新潟沖を通過した頃合であり、それまでの安定した夏場の気圧配置を一変させた直後であった。
意外と知られていないが、2004年10月23日に発生の中越地震も台風が通過した直後である。この地震では死者68人、負傷者4805人といった大きな被害のほか、上越新幹線が脱線していることからも覚えている方は多いのではないかと思う。
《中越地震(10月23日)の直前にも台風が上陸していた》
(2004年10月20日)
《熊本地震(4月14日)の前日には九州南岸を低気圧が通過していた》
(2016年04月13日)
東日本大震災でも同じだ。
《東日本大震災(3月11日)直前の気圧配置》
(2011年03月10日)
これは2011年3月10日の気圧配置だが、オホーツク海に発達した低気圧があることから、南岸低気圧が日本近海を通過した直後であることが分かる。東日本大震災の数日前(3月7~8日↓)には気圧が降下していたということだ。
(2011年3月7日の天気図)
阪神淡路大震災でも条件は変わらない。下図の如く、強い冬型の気圧配置で吹き荒れた強風も収まり、移動性高気圧に覆われつつある穏やかな日和の中で発生している。
《参考》
(1995年1月13日)
(1995年1月16日)
(阪神淡路大震災は1995年1月17日)
このように、大きな地震ほど天候の変わり目に多い。強い低気圧(台風)の通過後であり、気圧配置が大きく変わった直後であって、いずれも穏やかな日和であることに注目して頂きたい。
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随筆家で物理学者でもある寺田寅彦は、関東大震災の様子から「天災は忘れた頃にやってくる」の名言を吐いたが、これは長い歳月だけを意味するものではない。梅雨明け十日も然り。久しぶりに陽光を浴びて活力に溢れ、「今日は何もないだろう」との思える最中だって『忘れた頃』なのだ。
因みに、大方は(関東地方の)梅雨明けを月末から8月上旬と予想する。問題はその後だ。一転、猛暑が続くのか、数日を置かずして梅雨空に逆戻りするのか。後者なら益々、大揺れだった1993年以降に似てしまうからだ。ともあれ梅雨の狭間を含めて明けてからの数日(晴れ間)は全国的にも要注意ではなかろか。