Jim Beamの「Devil's Cut」です。
バーボン好きな私にとってはJim Beamは入門編みたいなもので、随分お世話になったものです。けれども、この「Devil's Cut」というものは、初です。結構ガツンとくる味で、お気に入りになりました。
この名前、京都橘のファンの方にとってはスルーできないでしょ?京都橘の動画を観ながらグラスを傾ける。酒に酔うか、橘に酔うか。お試しあれ。ちなみに、アルコール度数45度です。
京都橘高校吹奏楽部が演奏するポップスに魅了されている人は、全世界にいます。
人気がある京都橘の部員も、普通の高校生。個人個人の技術も、ごく普通です。もちろん、時々突出したプレイヤーも登場しますが・・・。毎年メンバーが変わるにもかかわらず橘サウンドが継承されている源を探っていくと、京都橘の魅力がその「一体感」にあることに気付いて行くのです。
ロック・バンドやジャズのビッグ・バンドには、基本的に指揮者は存在しません。リズム・セクションが曲のテンポやグルーヴを決定付けて、曲が成立するのです。吹奏楽でポップスを演奏する場合でも、基本の考え方は同じです。
吹奏楽でロックやポップスを演奏する場合、オリジナルの単なる「劣化コピー」になってしまっては全く意味がないと思います。
吹奏楽ならではの、楽器の種類の多彩さによるキラキラしたアンサンブルや、吹奏楽でしかありえない大人数での生音の迫力。それによって楽しさが観客に伝わる、ということが吹奏楽ポップスの理想形だと言えます。
コンクール常連の強豪校でも、ポップス演奏になると途端にその楽しさを表現できていないケースをしばしば見かけます。これは、ひとえに指導者の責任です。原因は、指導者がポップスを軽視しているか、ポップ・センスがないために指導ができていないということだと思われます。
京都橘は、創設者である平松久司氏の時代からジャズ・ナンバーをレパートリーに入れていました。まだ20世紀だったことを考えると、全国的にかなり珍しかったんじゃないでしょうか。毎年夏にはプロのジャズ・ドラマーを呼んで、セミナーを行っていたという話もあります。
京都橘を世界的に知らしめることになった前顧問の田中宏幸氏は、大学時代はオーケストラ専攻だったものの無類の歌謡曲・ポップス・ロック好きとして知られています。
交代する時にファンが危惧していた現顧問の兼城裕先生ですが、ポップ・センスもある上に、ユーモアのセンスも垣間見えます。さらに冒険心もあって、私はこれからの展開に期待しています。
という具合に、京都橘は歴代のポップ・センスのある指導者に恵まれて、「橘ポップス」を継承してきたのです。
京都橘は、昔からメイン・ドラマーを中心にして、パーカッション・パートが同じグルーヴでまとまっていました。数少ない動画からでもまとまりの良いリズムを聴かせてくれています。
長年ポップスやロック、ジャズなどを聞いてきた私なので、橘の演奏はミドル・テンポの曲などでは速すぎるように感じることがあります。高校生なので仕方のないことではあります。「もう少しテンポを落とした方がカッコ良いんだけどなぁ。」なんて思うこともしばしば。けれども、ドラム・セットを中心にしてパーカッション・セクションが一体になってノリノリのリズムを奏でていると、それはそれで「アリ」かなぁ、と思わされるのです。
パーカッション・セクションの強烈で安定したリズムの上で、吹奏楽器のメンバーも気持ち良くノレることが、メンバー自身の「楽しい」気持ちに繋がります。そうすると、当然その「楽しい」が観客に伝わる。これこそが、「橘ポップス」の最大の魅力なのです。
これまで何度も書いていることですが、彼らは普通の高校生です。春先にドラム・セット担当になった部員は、当初危なっかしいところもあるけど、夏を過ぎる頃には大黒柱として部員全員が信頼する「リズムの要」に成長して行きます。毎年の彼らを追っかけていると、その成長を直に感じることができるのも楽しみのひとつなのです。
ということで、歴代のパーカッション・セクションが活躍する動画を今回はご紹介します。まぁ、コアな京都橘ファンならご存知のものばかりですが。
パーカッションに焦点を当てた動画としては最も古いものが、こちら。
2016年10月の、大江山酒呑童子祭りでのパフォーマンスです。
この年はパーカッションに3年生がいなかったため、2年生と1年生だけの編成です。それでも臆することなく気持ち良くリズムを刻んでいるのがわかります。
ここではスーザフォンが走り回っているのにも目を奪われます。京都橘のもうひとつの魅力である低音パートについては、また別の機会に書こうと思っています。
同じメンバーによる、翌年3月の「京都さくらパレード」でのパフォーマンスです。
全員のノリも当然素晴らしいのですが、どうしても目が行ってしまうのは、ドラムスとマルチタムの絶妙なコンビネーションです。この二人は、正確にリズムを刻むドラムスと気持ちが先行して速くなりがちなマルチタムという組み合わせで、とても気持ち良いグルーヴを作り出しています。この年の年末アメリカに渡った京都橘は、このパーカッション・チームが中心になって作り出す楽しさ溢れるサウンドで、瞬く間に世界中にファンを増やしていくことになります。
次は、新しいメンバーに変わったばかりの2018年の「京都さくらパレード」での演奏です。
5人もいた3年生が抜けた直後で、パーカッションはたった4人です。けれども、既に強烈なグルーヴを作り上げていて、実に見事です。私個人的には、歴代最高のリズム・セクションのひとつだと思っています。
ファンの中では近年最高のステージ・パフォーマンスだと評価の高い2018年10月の「楽器フェア」でのパフォーマンスですが、今回はあえてパーカッションの動画を。吹奏楽器の音が前面に反響して遅れて聞こえてくるので、音楽的には聴きづらいです。1年生5人を含めて、全員のノリが一体感を作り上げていることがよくわかります。
撮影者にとっては残念な場所だったのかもしれませんが、偶然に撮られたパーカッション・セクション全員の姿は、京都橘の魅力を発信するには絶好の動画になりました。「カッコ良い!楽しい!」が詰まったゴキゲンな作品です。
次は、2019年11月の「伏見お城まつり」です。
パーカッションの一体感もさることながら、観客へのアピール力が見事です。横や後ろにいる人たちまでも巻き込むパフォーマンスは、パーカッション・パートの重要な役割でもあります。
その20日後には、大阪城公園でも演奏しています。「大阪キャッスルマーチング」から。
ここでは肩から下げるドラム・セットを使っています。橘ファンには有名な秘密兵器ですね。2012年のテレビ番組では、このセットの開発の様子が細かく放送されていました。当時でも軽く20キロを越えていましたが、改良を重ねてさらに大きいタムを付けているので、もっと重くなっているのは確実ですね。
ということで、彼らの魅力をまとめてみました。どれも、ドラム・セットを中心にしてパーカッション・セクションがまとまっていることが明白な動画ばかりです。
歴代素晴らしいドラマーがいる京都橘ですが、それが語られるようになった原点とも言うべき動画を最後にご紹介。
2010年5月の「ブラスエキスポ」です。休憩時間に他の学校の生徒からのリクエストで、自然に始まった珍しい記録です。
まだ「フラッシュモブ」なんて言葉がなかった頃です。おなじみのリズムが始まったら、「吹かなきゃしゃーないでしょっ。」って感じで参加者が増えていく様子がとても楽しいです。
この時のドラマーが橘の伝説のひとりで、現在京都橘のOGを中心に作られたグループO-vils.の創設者です。このグループについても、後述するつもりです。
今回も、長い記事になってしまいました。けれども、最後にどうしても書いておかなきゃいけないことがあります。
私は、このブログではネガティヴなことは基本的に書かないようにしています。ただ、大好きなミュージシャンには敢えて苦言を呈したりすることもあります。愛するが故のファンとしての声です。
「伝統の継承と変革」をテーマにしている近年の京都橘。その多くを、私はポジティヴに捉えています。ただ、ここまで書いてきたパーカッション・セクションにおいては、今年度は様相が違います。メイン・ドラマーが存在しないのです。5月の「ブラスエキスポ」で、たった2曲なのにドラム担当が交代したことに違和感を感じていました。高校生の部活動としては、間違ってはいないと思います。事実他の学校でも数多く見かけます。京都橘としての「変革」のひとつなのかもしれません。ただ、メイン・ドラマーが存在しないことで、ドラム・セットを使ったパフォーマンスは安定感を感じられません。少なくとも年末までの演奏を見たり聴いたりした限り、「橘ポップス」の中心になれていない気がするのです。これは、個人個人の技量の問題ではありません。実際に、今年度におけるドラム・セットを使わない演奏は、どれも実に素晴らしいです。皆上手いし、安定感抜群です。でも、ドラム・セットの練習に集中する時間が極端に少ないはずで、その結果が如実に現れています。これは今年度の部活動の方針の問題だと思います。
今年度の集大成である3月末の「定期演奏会」までにどう立て直すか、どういう成果を導き出すのか?不安だらけではあるけれども、期待して見届けたいと思います。
「なんとかする。」ということも、京都橘の歴代の先輩たちが得意としていたことだから。