ぴょんぴょんしちゃ、ダメ。 | "楽音楽"の日々

"楽音楽"の日々

音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

京都橘高校吹奏楽部には、国内外にたくさんのファンがいます。音楽にも吹奏楽にも全く興味のなかった人も、京都橘の動画を見てハマるケースもあります。また、楽器経験者が驚いてハマるケースもあります。

どちらにしても、京都橘が目指している「観客の笑顔と歓声が、最大の喜び」が直接観客に届いた結果、ファンが激増しているのです。楽器未経験者も、京都橘の動画を見て「カッコ良い、美しい、可愛い」から、沼にはまってしまいます。実に正しい反応です。楽器経験者の第一印象は、多分「そんなバカな?!」から「凄い、カッコ良い、美しい、可愛い」となり、やっぱり沼にハマるのです。

 

私は中学生の時、吹奏楽部に所属していてトランペットを吹いていました。その他にも様々な吹奏楽器を経験しています。そんな私の楽器経験から、言わせていただきます。

 

「ぴょんぴょんしちゃ、ダメ。」

 

マウスピースと言われる部分を唇に押し当てたり咥えたりして息を吹き込んで音を出すのが、吹奏楽器です。音程を保って美しい音を出すために、最良のポイントを見つけ出してそれをいかにして持続するか、ということが最も大切なことです。とても微妙な調整が必要になるのです。ですから、吹奏楽器奏者としては、当然のことなのです。

 

「ぴょんぴょんしちゃ、ダメ。」

 

ブラスバンドの発祥は、軍楽隊です。軍人の隊列を先導して、演奏しながら行進するのが始まりです。パレードという言葉が一般的になって、吹奏楽が盛んな我が国では全国各地でパレードが開催されています。私も学生時代にパレードに参加したことがありますが、歩く時の振動が唇に伝わっただけで、安定した音を出すことができませんでした。ですから、安定した姿勢で上半身に振動を伝えない形でパレードすることが肝心になります。事実、ほとんどの楽団はそのようにパレードしています。とても正しいことなのです。

 

 

 

ところが、演奏者は楽しむ余裕もなく、観客も楽しい気持ちにはなれません。「素晴らしい!」と感じることはありますが。

 

京都橘としては、観客を笑顔にして自分たちも楽しんでしまおう!ということで、吹奏楽界のタブーに敢然と立ち向かったのです。

結果として、パレードをエンタテインメントにしてしまったのです。この点では、京都橘は世界でも唯一無二のバンドになったのです。近年では嬉しいことに、振り付けやステップを入れている楽団が徐々に増えつつあります。それでも、京都橘のパレードは圧倒的に楽しいし、カッコ良いのです。まさに吹奏楽界の「異端児」なのです。

 

 

京都橘のパレードのプログラムは、毎年新しく作られます。そこも、ファンが楽しみにしている大きな部分です。毎年新しくなると、飽きるヒマがないんですよねー。これって、大手のテーマパークと同じですね。いかに、リピーターを増やすか?

 

今回は、歴代のパレードでも最も「ぴょんぴょん」率の高い、2018年度の動画を見ていただきましょう。

 
 

2018年11月11日に開催された「長岡京ガラシャ祭」のパレードです。

このお祭りは、戦国時代に細川ガラシャが嫁入りのために歩いたと言われる、勝龍寺城までの旧街道約3キロの道のりを1時間ほどかけて行進するもので、国内でも最長のパレード・コースのひとつと言われています。パレードでは、通常2〜3曲を繰り返して演奏するのが普通のことです。ところが、京都橘は毎年17分以上のプログラムを組みます。年によっては20分を超える年もあります。次々に登場する様々なタイプの曲と、曲の世界観を見事に表現した振り付けを楽しんでください。歴代最高と言われるビッグ・ジャンプも含まれています。

 

 

慶次郎前田さん撮影「長岡京ガラシャ祭パレード2018」

 

 

普通に見てても十分に楽しめるんですが、曲の成り立ちを知っていると、更に楽しさが倍増します。私のような音楽ファン、映画ファン、ディズニー・ファンにとっては堪らないプログラムです。オリジナルの振り付けと比較すると、楽しめます。卒業生へのインタビューでも、オリジナルをリスペクトして振り付けを考案した、という言葉がありました。

今回のプログラムの中でそれが顕著なのが、韓国の歌手PSYのヒット曲「Gangnam Style」です。ちょうど10年前、2012年9月に私もブログで紹介しています。

 

オリジナルを見てみてください。

 

PSY / Gangnam Style

 

 

 

印象的な振り付けを、京都橘は巧みに取り入れていることがお分かりでしょう。

下品な歌詞なので橘にはふさわしくない、などの批判がありましたが、どうしてもオリジナルの振り付けを再現したかったのでしょう。さらに、ブレイク(音楽も振り付けも一斉にストップする部分)のカッコ良さは、京都橘の歴代プログラムの中でも最も印象的なもののひとつでしょう。

 

京都橘のパレードの中でも人気があるのが、5分を越すディズニー・メドレーです。次々に出て来る様々なタイプの曲は、まるでディズニーランドのような楽しさです。通常のパレードでは、行進しやすいことを前提として、一定のテンポを保った曲を選びます。けれども、京都橘では、スローな曲も3拍子や5拍子の曲も平気でぶち込んできます。要は、やりたい曲をやる、ということが大前提なのでしょう。さらには、このメドレーの中には、歌う曲が毎年含まれます。それも、コーラスをするわけでもなく、元気いっぱいにユニゾンで歌うというのがキモです。これが、京都橘のイメージになっている感じもあります。

 

もうひとつ、このパレードで注目してもらいたいのが、京都橘名物の「踏切での隊列分断」です。この動画では、20分過ぎたあたりですね。警報器がなり出して、パーカッションの後ろの隊列が取り残されます。演奏もパフォーマンスも全く止まることなく、平常運転なのが笑えます。踏切が開いて後ろ半分がダッシュして隊列に復帰する様子は、実に見事です。今では危険回避のためにこういうことはなくなりました。この時が最後ですが、過去にはいくつも見ることができます。

 

 

 

京都橘のパレードのプログラムでは、ラストの曲はサンバ調が定番です。この年は、古い名曲「Tristeza」です。心浮き立つサンバのリズムにメランコリックで印象的なメロディ。私の大好きな曲です。途中で、「う〜っ、サンバ!」から「きゃ〜」という嬌声も、定番の楽しさです。毎年曲が変わっても、この部分だけは必ず入ります。楽器を吹いていない時のステップは更に大胆で、空中に浮いている滞空時間が長いのが見ものです。

 

最後に、私が「Tristeza」に出会った時のことを・・・。

ボサノヴァからブラジル音楽に興味を持っていた私が、高校生の時に出会ったのが、1977年発売の長谷川きよしのライヴ・アルバム「Sunday Samba Session」でした。生音のグルーヴに身を委ねてるうちに、あっという間に1枚を聴き終える名盤です。その最後を飾るのが「Tristeza」でした。この曲の虜になった私は、今でもブラジル音楽の最高傑作の一曲だと思っています。

音源がありました。是非、聴いてみてください。

 

長谷川きよし「Tristeza」

 

 

 

この曲も好きな人が増えると嬉しいです。

 

 

 

 

ということで、今回は京都橘のパレードの魅力について書いてみました。

 

「ぴょんぴょんしちゃ、ダメ。」

 

と言われても、京都橘はエンタテインメントの世界へ、まっしぐらなのでした。