保守的な、異端。 | "楽音楽"の日々

"楽音楽"の日々

音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

京都橘高校吹奏楽部は、可愛いオレンジの衣装と激しいダンス・パフォーマンスで全世界に知られています。特に外国人に人気な理由は、自国に似たようなパフォーマンスをする団体がいないことだと思えます。

 

確かに、京都橘の魅力は「可愛い、楽しい」だと思いますが、最初に感じるのは「美しい、カッコ良い」ということです。今回は、その理由に迫ってみたいと思います。

 
 

吹奏楽の世界で隊列を変化させて行進したりパフォーマンスをすることを、マーチングと呼びます。そのスタイルは、日本で独自に発展しました。海外では「ドラム・コー」と呼ばれるマーチング・スタイルがありますが、日本のものとはかなり違っています。もちろん、日本にも「ドラム・コー」スタイルを踏襲している団体も数多くあって、そのスタイルのコンテストも開催されています。

 

京都橘は全日本吹奏楽連盟に所属していて、日本独自のマーチング・スタイルを追求しています。

 

日本のマーチングの基礎は、1970年に開催された大阪万国博覧会の開会式をキッカケにして始まったといわれています。開会式のステージに5メートル毎に小さいマンホールがあって、それを目印にして行進したりパフォーマンスをしようということになったそうです。5メートルの間を8歩で歩くと、隊列が揃う目安になったわけです。通称「ゴメハ」の誕生です。これが連盟が主催するマーチング・コンテストの基本です。所属する団体は、全てこれを基本にマーチングのプログラムを組み立てるのです。

 

マーチング・コンテストの規定は毎年若干の変更はあるものの、基本的なものはほぼ決まっています。

まず、30メートル四方のフロアを、3列以上の隊列が1周すること。次に、その隊列が、180度方向転換すること。さらに、32歩以上の足踏み演奏をすること。これは、マークタイムと呼ばれます。これらを全て含めて6分以内の作品として仕上げなければなりません。

吹奏楽ですから、演奏の正確さと美しさを評価されることは当然です。それに加えて隊列の正確さを求められるわけです。

 

京都橘が得意にしているエンタメ性の高いパフォーマンスは、一切評価の対象にならないコンテストなのです。そのせいで、京都橘はなかなか全国大会金賞の常連にはなれなかったようです。

 

ひょっとしたら、エンタメ性を重視するマーチングの大会が新しく出来るかもしれませんが・・・。

 

 

ということで、2015年のマーチング・コンテストの様子をご覧ください。

 

第28回京都府マーチングコンテスト

 

前半で大会規定をこなして、後半は京都橘ならではのエンタメ・ステージになります。ここでは、ムーン・ウォークも披露しています。もちろん、全く評価されないのですが。ただ、それによって隊列が乱れると、当然減点の対象になるわけです。ちなみに、この年はこのプログラムで全国金賞を獲得しています。

 

 

マーチングでのフォーメーションの変化は、「コンテ」と呼ばれる隊列の設計図によってメンバーに指示されます。ほとんどの団体では、マーチングのコーチが作成するのが普通です。ところが、京都橘では「構成係」の部員が数人がかりで考えて作成しています。20年以上橘のマーチングを指導していた前任のコーチは、1度もコンテを書いたことがなかったと証言しています。このことは、全国的にも非常に珍しいことらしいです。

パフォーマンスをする本人たちがコンテを考えるということが、京都橘の個性的な演技の重要な要素になっているのです。いろいろな場所における臨機応変なパフォーマンスは、本人たちが作っているからこそ可能になるんですね。

 

30メートル四方の広い会場でも、部員全員がパフォーマンスするには狭すぎる普通の舞台でも、自然に順応しています。

例として、数年にわたって京都橘の校内のホールで開催されていた「ジョイント・コンサート」の動画を見てみましょう。

 

たちばなジョイント・コンサート2016

 

自然に順応していることがお分かりでしょう。狭くても、全く苦にしていませんよね。

 

 

京都橘のパフォーマンスを「美しい」と感じる要因は、マーチングの基礎である「楽器を構えるタイミング、下ろすタイミング、動き出すタイミング」がキチッと揃っていることにあります。とても地味な動作なんですけど、非常に重要なことです。これが出来てない団体は、かなり多いです。派手なダンス・パフォーマンスばかりがピックアップされる京都橘ですが、このことが彼等の強さの基本だと思うのです。

 

逆に、大人のマーチング・コーチでは絶対に思い付かないような、高校生らしい遊び心も随所に見られます。様々なパターンがあるのですが、京都橘しかやらない例をひとつ。

現在地から次のポイントまで移動する時、途中で全員がストップするギミックが頻繁に見られます。俯瞰で見るとグシャグシャな状態で全員がストップすると、視覚的効果は抜群です。2016年の「3000人の吹奏楽」でのパフォーマンスから、その部分を見て下さい。

 

「3000人の吹奏楽」2016より

 

 

実に効果的だし、可愛いです。私は、勝手に「だるまさんがころんだ」と呼んでいます。いかがでしょう?

 

 

生徒自身によるアイデア満載のマーチング・ステージは、高い位置からの俯瞰で見るとさらに楽しめます。

そんな動画を最後にご覧いただきましょう。

2階からの固定カメラで撮影された動画は、フォーメーションの変化を存分に楽しむことができます。

2018年4月の、2、3年生によるパフォーマンスです。

 

「ローム・ミュージック・フェスティバル2018」

 

橘の魅力がいっぱい詰まった、見事なパフォーマンスです。

京都橘は、どんなにエンタテインメントにシフトしても、マーチングの基礎を元に演技をしているのです。言うなれば、「保守的な、異端」だと私は思っています。

たった4人のパーカッション・セクションが大活躍です。メインのドラム・セットの生徒は、3年生になって初めてまともにドラム・セットを叩き始めたらしいです。1ヶ月で、この充実ぶり。この年の年末に向けて、歴代最強のパーカッション・セクションと呼ばれるようになっていくのです。

 

ということで、リズム・セクションの素晴らしさについては、またの機会に詳しく書きたいと思います。

 

 

 

 

 

今年のブログは、今回が最後になります。ありがとうございました。

来年も、よろしくお付き合い下さい。

皆様にとって、素晴らしい年になりますように。