高齢親の囲い込み解消コンサルタント、公認会計士・税理士の白岩俊正です。


私は、高齢になり介護を受けるようになった親を、きょうだいの一人が囲い込み、他のきょうだいに会わせない――いわゆる「高齢親の囲い込み」でお困りの方をサポートしています。

 

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26.親の財産が“囲い込んだ子”の管理下にあるリスク


親の通帳・キャッシュカードや印鑑、マイナンバーカード、保険証券、権利証等が、きょうだいの一人の手元に集中している――。

介護や通院の実務を担う中で「私が預かっておくね」と始まることは珍しくありません。

 

しかし、この状態が長期化し、他の家族が中身を確認できないままになると、相続・税務・家族関係のすべてで深刻な火種になります。

 

本稿では、公認会計士・税理士としての実務視点と、「親は家族みんなのもの」という立場から、何が危険で、どう予防・是正すべきかを整理します。

なお、以下は一般的解説であり、具体的紛争の法的助言は弁護士、登記・後見等の実務は司法書士、税務は税理士へ個別にご相談ください。

 

 

 

1. 「管理下」とは何が起きている状態か

  • 預貯金の出入金明細・残高が家族に共有されない
  • 印鑑・通帳・キャッシュカード・暗証番号を特定の子が独占
  • 不動産・保険・有価証券の契約書類がその子の保管下にある
  • 代理権(任意後見・見守り契約・委任状等)をその子だけが把握
  • 面会や連絡をその子がコントロールし、第三者確認が難しい

可視化されない「善意の管理」は、本人の自己決定を侵食し、家庭内の情報非対称を極端に拡大させます。

 

 

2. 主なリスク(法・税・家族)

  1. 使途不明金・横領疑義
    介護費や生活費の名目で多額の引出しが続くと、後日の遺産分割や調停で説明責任が問われます。領収書・メモが無い支出は「原資は誰のものか」「本人の利益か」が焦点になります。
  2. 不当な名義変更・偏った生前贈与
    預金の振替、保険受取人の変更、不動産の持分移転等が、他の家族に知られないまま進むことがあります。相続税では「名義預金」「贈与の成立要件未充足」などの否認リスクも。
  3. 納税資金・介護資金の枯渇
    無計画な支出で流動資金が減ると、施設入居一時金・医療費・固定資産税の支払いが滞ります。結果として資産売却や高利の借入へ追い込まれることも。
  4. 遺言・公正証書への不当介入疑義
    作成過程の独占や面会制限は、「影響力による意思形成の歪み」を疑われ、遺言の有効性争いを招きます。証拠化が不十分だと長期紛争化しがちです。
  5. 情報非対称による紛争の深刻化
    残高・契約一覧を他の家族が見られない状態は、疑心暗鬼を増幅し、話合いの土台を壊します。心理的負荷は本人にも悪影響です。
  6. デジタル資産の散逸
    ネット銀行・証券・ポイント・暗号資産等のID管理が一人に偏ると、退去・死亡時に所在不明となり、実質的に喪失します。
 

 

 

3. リスクが現実化するメカニズム

  • 情報の独占 → 監視・牽制が働かない
  • 「善意」の自己正当化 → 支出の線引きが曖昧化
  • 面会・連絡の遮断 → 外部からの是正圧力が消える
  • 証拠(領収書・記録)の欠落 → 後から検証不能
  • 本人の認知機能低下 → 意思確認が困難になり紛争化

 

4. 事例と二つの視点

 

【事例】次女Aが母の通帳と印鑑を預かり、施設支払い・買物を代行。半年後、出金が月30万円超。兄Bが疑問を呈するも、明細は「忙しいから」と共有されず対立へ。

 

  • 書面上の表現:明細・領収書の不備があり、支出の必要性・相当性の立証に弱点。
  • 心理的な内面仮説:Aは介護負担の不満と「自分だけが頑張っている」感情から、自己報酬化(ガス代・外食代を混在)した可能性。他方Bは排除感から敵意が増幅。

このように、書面(証拠)と感情(物語)の両輪で分析しないと、解決は進みません。

 

 

 

5. いますぐできる予防策(最低限の型)

  1. 財産目録の共同更新
    預金・証券・保険・不動産・年金・借入・デジタル資産を一覧化。保管場所・連絡先も記す。四半期ごとに家族で更新・署名。
  2. 二重承認ルール
    10万円超の出金は、少なくとも別の家族(または第三者専門家)の事前・事後承認。LINEやメールで記録を残す。
  3. レシート・契約の電子保管
    支払い根拠はスマホ撮影でクラウド共有。用途メモ(例:母食費、医療費、介護移動)を残す。
  4. 通帳・印鑑・カードの分散管理
    物理的保管は別人が、暗証番号は封印保管。安易なカード共用を避け、可能なら口座振替・請求書払いへ移行。
  5. 月次レポート
    出金サマリー、施設・医療の見込み費用、残高見通しをA4一枚で共有。エクセルでも十分。
  6. 本人意思の定期確認
    本人が何を望んでいるかを録音・議事録化(可能な範囲で)。第三者(ケアマネ・医師・士業)同席での確認が理想。
  7. デジタル資産リスト
    ID・パスワードはパスワードマネージャで管理し、「緊急アクセス」を第二承認者へ設定。
 
 

6. 望ましい制度設計(検討オプション)

  • 任意後見契約・見守り契約
    判断能力が十分なうちに、誰に・何を・どう管理してもらうかを契約化。定期報告条項を入れると透明性が高まります。
  • 家族信託(民事信託)
    不動産・預金を「信託財産」とし、受託者(管理者)と受益者(利益を受ける人)を分ける。受託者の報告義務や受益者代理人・信託監督人を置けば、独走を抑制できます。
  • 監督・関与の外部化
    税理士の月次監査、司法書士の信託監督、社会福祉士の見守りなど、第三者が入るだけで牽制が効きます。

※契約・登記・税務の設計は専門家と個別検討が必須です。


 

7. すでに「囲い込まれている」場合の初動

  • 証拠の静かな確保
    手元にある通帳コピー・振込票・領収書・家計簿・LINE履歴を体系的に保存。日付順のファイルに。
  • 現況の客観化
    「本人の生活実態」「入出金の流れ」「財産目録」「関係者マップ」を一枚にまとめる。
  • 面会・情報開示の求め方を変える
    感情的な非難ではなく、「領収書の写しを月末締めで共有してほしい」「10万円超は事前合意にしたい」とルール提案で。
  • 第三者同席での場づくり
    ケアマネ・包括支援センター・地域の専門職を交えて、本人の意思と費用計画を再確認。
  • 手続の選択肢
    緊急性が高ければ家庭裁判所の保全措置(後見申立て等)を弁護士と検討。名義変更・払戻しが疑わしければ、通帳等の開示・差止めの可否も含め、法的手段の適否を専門家と判断。

 

 

8. 家族内で合意すべき「お金の線引き」例

  • 本人の生活費・医療費・介護費は原則本人資産から
  • 介護者の交通費・駐車場・代替家事費はどこまで本人負担にするか上限を定める
  • 介護者の食事・雑費は原則自己負担(例外は事前合意)
  • 現金の立替は月次で清算し、レシート添付
  • 贈与・名義変更は原則停止。実施するなら全員合意と第三者確認

 

 

9. 心のケア:疑いと責めから、「機能する仕組み」へ

 

「頑張っている自分を認めてほしい」という思いと、「排除されている」という痛みが衝突すると、話し合いは決裂します。

責める言葉をやめ、数字と言葉を分けて整理しましょう。

数字(収支・残高・見通し)は表に、言葉(負担感・不安)は場を改めて。仕組みができれば、疑いは自然に減ります。

 

 

10. まとめ

 

親の財産が特定の子の管理下に固定化すると、使途不明金・不当な名義変更・遺言無効疑い・資金枯渇・税務否認といった多面的リスクが一気に顕在化します。

 

カギは「可視化」と「分散」と「第三者の関与」。

 

四半期更新の財産目録、二重承認、電子領収書、月次レポート、そして任意後見・家族信託等の制度設計で、善意を仕組みに変えていきましょう。

 

困ってからではなく、今日から始められる最小単位(A4一枚の現況表)をまず家族で共有する。

 

それが“囲い込み”を解いて、親の尊厳と家族の信頼を守る最短距離です。

 

 

 

 

 

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