今回は、明治初期に着手された「諸法典の編纂」について考えてみたいと思います。
諸法典とは主に、
①刑法
②刑事訴訟法
③憲法
④民事訴訟法
⑤民法
⑥商法
⑦皇室典範(皇室関係における重要事項を規定した基本法)
などのことで、①~⑥は「六法」と総称されています。
高等学校で使用する教科書には、この「諸法典の編纂」に関する単元があるのですが、高校生が疑問に思う記述があります。
「条約改正のためもあって、民法と商法の編纂を急ぎ、1890(明治23)年には、民法・商法、民事訴訟法・刑事訴訟法が公布され、法治国家としての体裁が整えられた。」
高校生には、条約改正のためになぜ民法と商法の編纂を急ぐのかがよく理解できないようです😅
今回はこのあたりの理解を深めていきたいと考えています。
まず、「条約改正」についてです。
1858(安政5)年、江戸幕府の大老、井伊直弼(いい なおすけ)は列強の武力威嚇(いかく)に屈し、アメリカ・イギリス・オランダ・ロシア・フランスと通商条約を締結します。
これを、安政の五カ国条約といいます。
この条約には、不平等な内容が含まれていたことは、大学入試でも問われる必須事項となります。
<不平等事項>
①在留外国人は、日本の法律や行政規則を守らなくともよい⇒治外法権
②輸出入品の関税は協定関税とされたため、関税障壁を高くして自国産業を保護するといった関税自主権がない。
③欧米諸国に対し、最恵国待遇を片務的に与える最恵国条項がある。
⇒アメリカを例にあげると、例えば他国と結んだ条約において、日本がアメリカに与えた条件よりも有利な条件を認めた場合は、アメリカにも自動的にその条件が一方的に認められることをいう。
日本が不平等条約を改正し、条約上列強と対等な地位を得たのが、1911(明治44)年のことでした。
開国から約半世紀の時が経過していました。
では、先進国の欧米列強は、日本がどのような国になれば不平等条約の改正に応じてくれるのでしょうか😓❓❓
そもそも、欧米列強は一体何のために日本にやってきたのでしょうか❓
日本にやってきた目的は、間違いなく「通商」、つまり「貿易」のためでした。
話は少し変わりますが、
「野島博之 『謎とき日本近現代史』 講談社現代新書 1998年」
に実に面白い内容が書かれています。
世界で最初に産業革命を達成したイギリスは、自国の商品を世界に輸出します。
そして、イギリスが世界最強の海軍力を有した理由は、イギリス製商品を乗せた輸出船団を護衛するためであった。
そしてイギリスは、海軍力を背景に輸出先へ圧力をかけながら、貿易の障壁を除去していく。
こうして「自由貿易」が世界各地に強制されていくことになりました。
この「自由貿易」に抵抗を見せた国に対しては、イギリスは軍事力の行使も辞さない姿勢を見せます。
アヘン戦争(1840年~42年:イギリスvs清)がまさにそうでした。
「自由貿易」とは、国家の干渉を排除した国際商品取引のことを言います。
欧米列強が望んだ自由貿易の方針を、日本は受け入れたのです。
欧米列強は自由貿易を推進している国を大いに評価します。
自由貿易である以上、商人同士・企業同士の契約関係に国家が干渉することはできません。
商人同士・企業同士の契約関係を守ってくれる法律が整備されていることが重要になるわけです。
この法律がしっかり整備されていれば、欧米列強から高い評価を受けることになり、不平等条約改正の交渉も円滑に進む可能性が大いに高まることになります☻
人と人、企業と企業の間の契約関係に関する法律。
それが、「民法」と「商法」になります。
高校生はどうしても「民法」というと、
①男は18歳・女は16歳で結婚が可能になる。
*(結婚可能年齢は、男女ともに18歳以上となる予定)
②成人年齢は20歳。
*(成人年齢は18歳に引き下げられる予定)
ということを考えるようで、契約に関して規定した法律としては認識していないようです😅
「民法」には、契約についての規定があります。
人と人の間における贈与・売買・交換・貸借などについて規定されています。
私が授業で「民法の契約」について説明する際には、
「例えば、友人から不要になった自動車を譲り受ける時に適用される法律が民法です。この場合は、利益を上げることが主目的ではなく、一般の人同士の取引が想定されています。」
というように高校生には話します。
「しかし、自動車を友人からではなく、ディーラーから購入することになった場合は話が違ってきます。
つまり、利益を上げることが主目的となり、この場合は民法ではなく商法が適用されることになるわけです。」
以上のように説明してくれば、「民法」や「商法」をよく知らなくても、物の取引には「民法」と「商法」が関係しているのだと理解できます。
そして、「民法」と「商法」が整っていれば、貿易取引の際に国家が介入してくる心配なしに、安心して契約手続きという話を商人間・企業間ですることが可能となる。
こういうことがしっかり整備されていて、安心・安全に貿易を進めることができる国が、欧米列強から高い評価を受けることにつながる。
欧米列強から高い評価を受けることができれば、不平等条約に改正に向けて大きく前進することが可能となる。
だからこそ、条約改正のためもあって、民法と商法の編纂が急がれたのでした。
一見、教科書に何気なく書かれてある一文。
その一文を掘り下げてみることで、歴史を深めることにつながります。
もちろんこの作業は、大学入試問題を解く力の養成にもつながっていくのです。